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それ逆に失礼なんじゃないの?

これは子供のころの話である。


うちには毎年、親戚から大量のみかんが送られてきていた。

だが皮は噛み切れないほど硬く、甘みもほとんどない。

正直スーパーで買ったみかんのほうが100倍美味しく感じる。


当時少年だった僕は、もう送ってくるのをやめてほしいと思っていた。

「親戚が送ってきたみかんがあるから」という理由で、ほかの果物やお菓子が食べられなくなるからだ。

実際スーパーのみかんよりも明らかに無くなるペースが遅かったので、本音では家族全員が同じ感想を持っていたんじゃないかと思う。


しかし僕がそれを母親に伝えると

「せっかく送ってきてくれているのに失礼なことを言うんじゃない」

と注意された。



みかんが送られてくると、母親は送り主にお礼の電話をかける。

そして必ずと言っていいほど嘘をつく。

「とても美味しくいただきました。子供たちもみかんが大好きなので喜んでいます」

母親にも親戚づきあいというものがあって、いろいろ大変なのかもしれない。

だが明らかに事実と違うエピソードを平然と口にする母親に、少し気味の悪さを覚えた。


もちろん事実をすべてアケスケに話すべきだと言うつもりはない。

しかしまったくの嘘を伝えるのはいかがなものだろう?

それは相手を騙しているのも同然で、それこそ不誠実で失礼な態度ではないだろうか?

少なくとも僕が相手の立場であれば、心にもないお世辞を言われるのは嫌である。


なにより本当に美味しかったときに、母親はそれをなんと伝えるのだろう?

美味しくないときにも美味しいという表現を使っていたら、本当に美味しいときに使う表現が無くなってしまう。

お世辞を言えば言うほど、その口から発せられる言葉の価値は下がっていくんじゃないだろうか?

そんなことを子供ながらに思った。

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