俺の尻の話
先日の事故の後、大したケガがなかったので油断していたが最近になって時々あちこち痛むことがあり、なんだか怖いのでちょいちょい近所の病院に行ってマッサージを受けている。
どうせお金払うのは相手側の保険会社だ。
さて、初めてその病院でマッサージを受けた時の話だ。
患部をなんだかわからない暖かい何かで温めた後、おっさんに言われるがままベッドにうつ伏せになる。
おっさんが俺を揉む。
首、首、首、首、首、首、首、首、首、尻。
肩、肩、肩、肩、肩、肩、肩、肩、肩、尻。
肩、肩、肩、肩、肩、肩、肩、肩、肩、尻。
背中、背中、背中、背中、背中、背中、尻。
背中、背中、背中、背中、背中、背中、尻。
何ぶん初めてマッサージを受けるし、こちらは素人なので詳しいことはわからないが、
その合間合間に尻を一揉みするやつ、いるの?
前置きはこれくらいにして尻の話をしよう。俺には尻エピソードがいくつかある。
学生時代、俺はスーパーのレジ打ちのアルバイトをしていた時期があった。
来る日も来る日も死んだ目でレジを打ち、金を稼いではアイドルマスターに消費していた。
そんなある日、いつものように死んだ目で機械のようにレジを打っていると、客として二人の女子中学生が現れた。
仕事中の俺は差別をしない。人種を問わず商品を持ってくればレジを打つ。もちろん女子中学生とて例外ではない。
彼女らが何を持ってきたか忘れたが、俺は洗練された機械のように会計を済ませた。
「ありがとうございました」
女子中学生に頭を下げ、売り場の方を向き次の客を待ち構える。そう訓練されていた。
直後、背後から先ほどの女子中学生の声が聞こえた。
「プリケツや〜〜〜〜ん!!」
プリケツ。プリッとしたケツ(=尻)のことだ。
女子中学生がプリケツの話をしているのだ。俺は思わず振り返った。
振り返ったが、彼女らの片方が指差していたのは紛れもなく俺の尻だった。
もちろんズボンは履いていた。生尻丸出しでレジを打つたぐいのバイトではなかったからだ。
では、では俺は、ズボン越しにもわかるほどプリケツだったのか。
そんな、わざわざ指差して声に出して言いたくなるほどプリケツだったのか。俺は。
女子中学生たちは笑いながら帰って行った。
おそらくは俺の尻の話をしながら。
今でも時々、自分の尻を見ながらこの時のことを思い出す。
そして思う。普通の尻だ。
もう一つ尻の話をしよう。
去年の冬の話だ。俺は電車に乗っていた。
目的地はすぐだったのでドア付近に立っていた。
あと一駅だな、などと思いながら車窓からの景色を見ていると背後に気配を感じた。
次の瞬間、サッと尻を触られる感触。同時に全身に鳥肌が立った。
痴漢だ。そう思った。
いや、待って、俺成人男性だぞ。
動揺しているともう一撫で。
いやいやいや、もしかしたら成人男性の尻を狙うタイプの痴漢かもしれない。
そうに違いない。
そう思うと全身が硬直し、恐ろしくて声も出なかった。
この時俺は痴漢にあった女性の気持ちを完全に理解した。
俺は恐る恐る、ゆっくりと振り返った。
そこには2歳だか3歳だかくらいの子供がいた。
痴漢の正体だった。
目線を上げると、その子の親と思われる人と目があった。
平謝りされた。
子育てって死ぬほど大変なんだろうな。そう思った。
以上、俺の尻エピソードの一部を紹介した。
そういえば、以前どこかで「他人に触られるとゾクッとしたり寒気がする部位は前世でそこに致命傷を負って死んだ部位だ」という小話を読んだ。
俺はその部位が尻なのだ。
もしかしたら尻にゆかりのある死に方をして、その尻の縁を今世でも引き継いでいるのかもしれない。
尻エピソードを振り返りながら、そんなことを考えた。
だとしたら、嫌だなあ。
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