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悪性論理

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思考を混乱させ、論益を奪取するような論述が存在する。本書では、そのような悪性の論理を“詭弁”として構造と対処法を紹介することで、論壇から詭弁を、論理から悪性を排することを目的とす… もっと読む
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記事一覧

記号化の陥穽-1

悪性:☠️☠️☠️

「すべての A は B である」といった言明に対して、 ∀x(Ax→Bx) といった記号化が適訳であるのは、わかり易い。

そこで、「ある A は B である」といった言明は、 ∃x(Ax→Bx) と記すのが適訳に見えるかも知れないが、これは、かなり危険な誤訳になる。 ニュアンスを考えると、「ある A は B である」は、∃x(Ax∧Bx) と訳するのが適当である。

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人身攻撃の範囲

悪性:☠️☠️☠️

『人身攻撃』特に『人格攻撃』と呼ばれるものを字義的に捉えてしまうと、次のような混乱を生じやすい。すなわち、「主張って、けっきょくその主体の人格の表れであって、主張そのものに純然と攻撃する態度も、人格を攻撃していることになってしまうだろ?俺のやった人身攻撃を非難するならば、お前も『人身攻撃をやるような俺の人格』を人身攻撃していることになるのではないか!?」といった意見である

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詭弁としての人身攻撃

悪性:☠️

『人身攻撃』また、『人格攻撃』とも呼ばれることもあるこの行為は、世間では代表的な詭弁とされる。

一般的に理解されている概要は、[トピックに対し、論理的に(真理関数的に)絡まない論敵の言動を非難することによって、その論争において優越しようというもの]ということが出来るが、本書は、これを「ただちに詭弁である」とは言い難いものと考える。

但し、この『人身攻撃』にあたる行為のなかには

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絶対はない

悪性:☠️☠️☠️

「絶対なことはない」という主張は、一見、真理を捉えたように聞こえてしまうし、これをドグマとしている人を見ることは珍しくないが、あまりよい論拠ではない。

素朴には、「絶対はない、というのは絶対なんですか?」という返しが考えられる。この返しは一定の美しさを持つが、本項では、また別の───そして美しさも忘れないよう───より珍しい返しとして、“論理の限界”(白猫本 p.17参照)

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俺の自由バリア

悪性:☠️

ある行為を正当化するために、「だって、それは俺の自由だろう」という返しをする人は少なくないが、こういう人たちに対しては、『この人、なおさら非難されるべき事由を自分から話してしまっているな』と思う。

というのも、ふつう、「ある行為に対して、自分は自由だった」というのは、つまり自分の意思によってその行為を成したということであって、これはまさに、当該行為が自らに帰責する事由であるから

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主張するなら証明をだせ

悪性:☠️

「人になにか主張するんだったら、証明してよ」という“主張”に対しては、まず素朴には、次のような返しを無限背進的に繰り返してゆくという方法が考えられるだろう。すなわち、『そのような言説を私に対して主張するのであれば、まずはその論理に従って、その言説自身を証明してください』という返しである。

しかし、このような返しが有効である理屈をも包摂して、次のような、やや主語を大きくした返

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ミラージュ•ストローマン

悪性:☠️☠️☠️☠️

ミラージュ•ストローマンは、ストローマンの応用である。本項では以下MSと略記する。

ストローマンが、主張の実態と異なるものを作り上げそれに対して反論をするのに対し、MSは、実際は反論として成立しているものに対して「これはストローマンだから詭弁じゃないか!」と指摘する。そのやり方は多様である。

ケースバイケースではあるが、含意関係の混交と組み合わさることで強力な

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ストローマン

悪性:☠️☠️☠️☠️

相手の主張を、その実態と異なるように捉えて、それに対して反論を行う態様一般を、ストローマンと呼ぶ。

藁人形論法と呼ばれることもある極めて有名な詭弁である。日常や論壇においても頻出する。

かなり抽象的に定義されるため、やり方によっては簡単にバレるようなものもあるが、その本質を考えると、“認識”そのものに附帯する原理的な性質があるし。実態を見ると、今も多くの人が悩ま

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いきすぎた善解

悪性:☠️☠️

本項は、拙著 https://note.mu/o0_lulu_0o/n/nf643cdc65bce の承前となる。

実は「もとの命題が真であったとしても裏が必ずしも真であるとは限らない」から「真である場合もある」というのもかなり怪しい推論で、これは論理的に妥当な推論ではない。

善解して、「前件は後件を“許す”」すなわち、 ¬∀x(Fx→Gx)∧∃x(Fx→Gx) というニュア

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否定錯誤

悪性:☠️☠️

※本項の内容は、とつげき東北とりおしの喧嘩を基にしておりますが、りおしの主張に間違いがあまりに多すぎるため、要旨に関わらないところはなるべく是正し、要約して掲載しました。

条件法否定に対して、その対象を誤るような事態を散見する。具体的には次のようなものである。

X氏:「AならばB」のとき、「AでなければBでない」という推論は誤りだ。

Y氏:「AでなければBでない」は

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認めたら負け

悪性:☠️

喧嘩や論争の場では、特にトピックに関わらない命題について「なるほど、それは認められる」といった認容の文言を聞いたらただちにその喧嘩ないし論争において敗北の烙印を押す人がいるが、これは当然、論理的に誤りである。

対策というほどのことでもないが、もしこのような詭弁にあたったときは「トピックの真偽にかかることならばわかるが、特にトピックと関係ない部分である」とでも説明すればよいだろう。

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悪性論理

論理というものの中には、わかりやすいものと、わかりにくいものがある。

前者には、たとえば「今日が晴れならば、今日は晴れだろう」であるとか、「日本人は人間なんだろう?じゃあ、人間は日本人じゃないか」「私は日本人であるか、日本人でないかのいずれかだろう」といったものが挙げられるだろうし、後者には、たとえば“モンティ・ホール問題”や“グルーのパラドクス”が挙げられるだろう。

後者のようなものは、得て

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