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シューズも生活も、背伸びをしながら安定感重視

社会に出遅れた甘っちょろい大学生だった私がようやく何とか社会に出た時に、これは大変だぞ、と思ったことは数え切れないほどあった。

朝電車が遅延しても絶対に遅刻してはいけないこと、社内には「お疲れ様」社外には「お世話になっております」を使い分け、初対面の相手にも使用すること(これについては未だになぜかわからない)。
お酒の席で先輩のお酒がなくなりかけていたら、追加オーダーを聞き代わりにオーダーしなくてはいけないこと。メイクはしなくてはならないのに、し過ぎてもいけないこと。そして、女性はヒールのついた靴を履かなくてはいけないこと。

これらのマナーの理不尽さを考えるたび、5年目の大学生活を送っている頃に無傷で社会に出た優秀な友人たちと久々に会った時のことを思い出す。彼女たちは社会に出てこれから!と意気込んでいたこともあるだろうが、社会のくだらないルールとそれに倣う自分について、自虐風自慢を繰り返していた。

一年遅れだからこそ跳ねっ返りの私は、かつて個性を重んじていた彼女らをひどく退屈な存在に変えてしまった“社会“への反抗心を強く感じた。その象徴とも言えるのがなんといっても靴だ。皆揃いも揃ってヒールのついた靴を履いていた

だが、そんな芋学生を卒業し社会にでると、ヒールの持つ束縛性だけでなく、魅力を知ってしまうことになる。女性らしさを演出でき足を長く見せられたり、しゃんと背筋が伸びるので気合が入ったりする。ただ、もちろん走り回ったり、一日立っている用事は到底こなせない。何度も何度も、浴槽に入れないほど足を酷く傷付けられた。調子のいい時はこの上ないアクセサリーはないと褒め肩を組み、調子に悪い時は親の仇の如く憎しみあうような、私とヒールの関係性は浮き沈みが激しい

そんな不安定な私にぴったりだったのが、プラットフォーム型の厚底シューズだ。背伸びもでき、安定感もあり、そして何より主張を感じられる。個性的な一足は今や私のワードローブに欠かせない存在になっている。

特にお気に入りなのは、ステラマッカートニーのプラットフォームシューズ。ポールマッカートニーの娘としてデザイナーデビューしながらも、その実力と自らの主義を曲げない芯の強さを兼ね備えたシャープさが魅力的な大人気ブランドのアイコン商品だ。黒いエナメルと2層に分かれた美しい厚底が魅力で、弱った時の私にも下駄を履かせてくれそうな気がする。


2019/07/17再掲  NAKAO AYUMI

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