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妄想

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フィクションとノンフィクション
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記事一覧

結婚できない女だった私

私は私を慰めるために文章を書く。辛い時に私を救ってくれたのは私から産み出される文章達だった。どうしようもなさ、ふがいなさ、いらだち、れっとうかん、、、全て自分1人では解決できない、かと言って、誰かに吐き出したり相談できるような性格でもない。抱えきれない私の負の感情を一緒に背負ってくれたのが私の文章だった。
言葉にできない想いを感じたくなくて、過去の辛さを掘り起こしては今の気持ちを忘れようとする。そ

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浮気計画

浮気をしようと思った。
人を愛する事での見返りは別にいらない。ただ、私が傷を負ってしまうのが単純に不愉快だった。浮気でもしておかないと、ただただ、かわいそうな私になってしまう。だから浮気をしようと思った。

しかし手当たり次第とはいかない。最低限、私が男を感じる対象でないと無理だ。性的魅力のない人間と身体を重ねるのは自分を汚すようなものだ。汚れるなら対価がないと絶対に嫌だ。金を積まれても嫌だな

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キスマーク

ただの内出血の跡に「キスマーク」だなんて陳腐な名前をつけたのは、誰なんだろう。

大体隔週ごとに刻まれるその印は、奴の所有物であることの証明のようで始めのうちは嬉しかった。しかし、こすっても洗ってもビクともしない赤黒さでも、それは時間がたつごとに薄れていってしまう。現実が幻になるかのようなその期間が、私は大嫌いだった。

「もう、つけないで」

前までは「もっと強く、ちゃんとつけて」なんて頼んでい

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あの女

単刀直入に言うぞ。あの女はヤバい。
何がヤバいかって?それを説明するために、俺はお前へ手紙というものを書く事にした。

ひと月ほどまえだったかな、あの女が机に向かい、顔を赤らめながら、まえ足を動かしていた。
俺はな、こう見えて、けっこう善の心をもっているんだよ。食い意地の張ってるあの女のことだ、あんなに真っ赤になるなんて、何か変なものでも食ったんじゃないか?って、それなりに心配だってするもんだ。少

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荻窪心中

思えば出会ってから数年がたっていた。出会ったばかりの頃、一度だけ、2人で一晩中どうでもいい話をしながら飲んだ事もあった。朝方、彼は私の手を握りしめていた。次はどうくるのかな、その時私はどうすればいいのかな、と、いうのは杞憂で、それ以上の事は何も起こらなかった。私は固いシートの電車に揺られて家に帰ったし、次の日になれば、手を繋いだことなんて、なかったことになっていた。

正直、彼に対して興味などなか

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大根おろし

「女のにおいするかもしれないけど、気にしないで。もう別れたんだけど、ちょっと面倒くさいことになってて、荷物そのままなんだ。」

そう聞かされたのは午後7時、××町にある小さなアパートについてからだった。「あ、はい」とだけ返事をして、私はもう口を開かなかった。足を踏み入れてすぐに「水 土 燃えるゴミ!」と女の人の文字で書かれた紙が目についた。黄色く変色したその紙は、歴史の証明書のようにも見えた。ああ

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リアルタイム

元彼女のTwitterに関しては、誰よりも熱心な読者だったと思う。好きな食べ物も趣味もどんな仕事をしているのかも、辛い時期も幸せな時期も、私はぜんぶ把握していた。いつでもどこでも何をしていても、私は元彼女の世界に簡単にアクセスする事ができた。

元彼女の新しい彼氏は、金髪が似合う陽気な雰囲気の年上の人だった。私は、元彼女の新しい彼氏のSNSの読者にもなった。元彼女の新しい彼氏のSNSは、元彼女以上

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発熱チャンス

まるで身体中に炎を纏っているような気分だ。しかし寝室で横になると、甘えん坊な飼い猫がすぐさまお腹にのってきてしまう。いつもは愛おしく思えるフワフワさんも、今日ばかりは煩わしくて仕方がない。
「よっこらせ」と立ち上がり、私はリビングに場所をうつす。そして、スマホを使い、ダラダラとネットサーフィンを始める。炎の力はどんどんと強くなる。
「新着メッセージがあります」と、画面上部にLINEの通知が出るたび

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がじがじ

ぶにぶにしていてあたたかいものを、かじりたいなぁ。

そう思って自分の腕に口をつけてみたけれど、違う。これじゃない。だけど痛みは心地よかった。だから、もっともっともっと、吸い付きたい。でもそれじゃあ、跡がついてしまうじゃないか。ねえ、みて、あの子の腕の赤い点々。っていう、そういう好奇の目に晒されるのは、恥ずかしいから嫌なんだ。

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お手上げ

Aさん

あなたに助けられた日の事を、私は今でも覚えています。

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スコティッシュ・ディアハウンド

目的を達成したわけだから、連絡なんてこないわな。
そう思っていた私に「次いつ会える?」というメッセージが入ったのは、あの夜から2週間後の事だった。
2週間も放置しやがって、なんて事は思わない。初めて身体を重ねた2週間前のあの夜よりも前から、彼はたまにしか連絡を寄越さなかった。だから私は、放置しやがって等といった類の事は微塵も思わず、むしろ彼から再び連絡が来たことに安堵した。

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覚えていても書けない人

あのね、彼との事を書きたいの。

だって彼とは5年近くを共にしたからね。
私の身体の約半分だった人。寝ている時も起きてる時も、遊ぶ時もボンヤリする時も、全部ぜんぶ一緒だった人。知り尽くしていたし知られ尽くされていた人。

でもなんにも書けない。思い出せないわけじゃない、きちんと覚えてる。嬉しいことも悲しいことも全部ちゃんと頭の中にある。だけどそれを言葉にできない、文章として書き上げられない

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慰め

私に恋人ができると、某氏は会ってくれなくなる。

4年前もそうだった。その時の私は某氏を「お兄ちゃん」と慕っていた。手を繋ぐこと以上にはならなかった2人の関係を、私は盲目的に信じていた。しかし、私に恋人ができた事を知ると、某氏は姿を消した。

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