キスマーク

ただの内出血の跡に「キスマーク」だなんて陳腐な名前をつけたのは、誰なんだろう。

大体隔週ごとに刻まれるその印は、奴の所有物であることの証明のようで始めのうちは嬉しかった。しかし、こすっても洗ってもビクともしない赤黒さでも、それは時間がたつごとに薄れていってしまう。現実が幻になるかのようなその期間が、私は大嫌いだった。

「もう、つけないで」

前までは「もっと強く、ちゃんとつけて」なんて頼んでいた私から全く正反対の言葉が飛び出したもんだから、驚いたのだろう。

「なんで?」

「薄れていくのが、哀しい」

奴は何も言わず私の言葉に従った。失敗したな、と、思った。

そもそも全てが失敗だったのだ。奴の着ているワイシャツから漂う柔軟剤の香りは奴の生活そのものを表していたし、平日にしか会えない時点で色々とお察し案件だ。不倫じゃないから大丈夫だなんて、何を根拠に思っていたのだろう。

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