川面の月

かつて夜通し飲み明かしていた街を私は一人で歩くことができない。
いつもいつも泥酔していた。街並みなんてウロ覚えだ。「月を捕まえに行く!」なんて言って川に飛び込もうとする私の手をしっかり握り、次の店へ。そして朝には電車に揺られている。健全なストレス発散方法だ。朝帰りができるのは健全な証拠なのだ。だから一人でこの街に来ると迷子になる。誰かがいてくれなきゃ家まで帰れない。

数年ぶりに夜のこの街を訪れてみた。ここにあったはずの店がなく、ここにあったはずの店が全く違う店になり、ここにあったはずの悲しみも、今は綺麗サッパリ無くなっていた。男梅サワーを2杯だけ、少し懐かしい顔をみながら飲み、私は帰路についた。

悲しみがあってもなくても、月だけはあの頃と何にも変わらない。だけど今は夫に手を引いて欲しいと思う。ホロ酔い状態から泥酔状態になり「帰るよ」って、夫に怒られたい。もう朝の電車を待つ必要はない。夫と二人で歩いて帰れる距離なのだ。

猫の餌代を恵んで下さると幸いです