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新人・若手弁護士向け メモ

※とある会合の講師で呼ばれたときの手控えを改訂したものです。今後も気まぐれに改訂します。
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第1 一日も早く戦力になろう

1 当たり前のことはできているか?

きちんと声に出して感じよく挨拶をする、お礼を言う、返事をする、周囲に感じよく接する。落ちているゴミ、輪ゴム、クリップ等を見つけたら拾う。コピー機のふたが開いていたら閉める。時間を守る。失礼をした人にはきちんとお詫びをする(謝ったら死んじゃう病にかかっている弁護士は意外と多い)。

2 自分の外見や雰囲気に注意を払おう

弁護士に相談に行くなら、やっぱり出てくる弁護士は弁護士らしくあってほしいのではないだろうか。医師の白衣効果は弁護士にも該当するのではないか?※美輪明宏やマツコデラックスはなぜあのような服装をしているのか?

事務所のカラーもあると思うが、自分が周囲からどう見えているのかを考えてみる。服装は即効性がある。

別に格好つけろと言っているのではない。相談者の立場になって、弁護士に相談に行ったときに出てきた弁護士が貧相な感じだったらなんだか残念な気持ちになるだろうなという、当たり前のことを理解した上で、それに対応した身なりをしたらどうかという提案である。

身なりがだらしない人はそれだけで損をしている。高級品である必要はないが自分が安っぽく見える外見にならないよう、髪形なども含めてよく考えてみる。

3 話し方も弁護士の実力のうちである

人は、内容以上に、雰囲気や話し方を重視する生き物である。

口論も、内容よりも嫌な言い方がきっかけだったりする。

だから、正しい内容と同等以上に正しい話し方・正しい言い方ができるようにしたい。

「自分は正しいことを言っている、それが分からない相手が悪い」
「物わかりの悪い相手のせいで交渉がなかなかまとまらない」
などと言っても仕方がない。

相手に対し、適切な話し方で、きちんと自分の内容も伝えられる人と、話し方や伝え方に無頓着な人とでは、成果は雲泥の差となる。

交渉場面だけでなく、依頼者との関係でも同じである。人は話の内容以上に話の雰囲気を見ている。人を不安にさせる話し方をしていないか?この人に任せれば何とかなると思わせられる話し方ができているか。

話し方は受任率(受任数/相談数)に直結する。処理の腕が良くても依頼がなければ腕を試す機会がない。
※最強のボクサーでも試合を組んでもらえなければベルトは手に入らない。

腕を発揮する機会が減ることは、経験の少なさにもつながり、結局は弁護士の力量そのものにも悪影響が出る。事案の聞き取り、尋問などでも経験の少なさは大きく影響する。

4 ボスにここだけは負けてはならない

実力で勝てなくても、熱意とその事件にかけられる時間では勝負できる。

担当事件の記録内容の把握、記録の検討、調査の深さではボスに絶対負けてはならない。
※ボスとの打ち合わせで「この件、こういう証拠はなかったっけ?」「あれ、依頼者はこういう風に言ってなかったっけ?」と言われて「えーっと・・。」となって欲しくない。新人でもプロである。記録の読み込みで負けるのはプロとして本当に恥だと思って欲しい。

初心を忘れずに常に一生懸命やる。その分、きっと実力も早くつくし、一生懸命な人は支援や助言ももらいやすい。

5 改善力・修正力を高める

よい点はどんどん自分のモノにする。改善点はすぐに修正する。

よい点をとり入れることは顧客・事務所・自分、すべてのためになることである。どんどん提言して事務所を良くしていく。

相手方弁護士のうまいやり方を自分のモノにする。同期と情報交換をして色々な事務所の色々なやり方を知る。

言われたことはどんどん直す。ボスの助言は、経験がある分、新人である自分で考えているよりは正しいのだろうと推定して、いったんは素直に聞くべきである。ボスや先輩から助言を受けたときは、その弁護士の経験や考えがあってしているのだから、ひとまずは素直に改善した方がよい。

6 ボスのまねをして、やり方や考え方を身に着ける

マネをして「型」を身に着ける。 仕事がうまい人は「黄金パターン」を持っている。それを見抜いてマネして自分のものにする。
ワンパターンでよい。
「黄金のワンパターン」「黄金の勝ちパターン」をまずは身につける。

※18代目中村勘三郎「型があるから型破りが出来る」「型が無ければ単なる形無し」。

7 時間と能力配分

打ち合わせ前に「この部分を打ち合わせで明確にする」「この打ち合わせで依頼者の方針が今後ぶれないよう、今の方針が最良であることを心の底から理解・納得してもらおう」などと、きちんと目的・ゴールを定めておく。そうすれば、話がブレない。

時間は締め切りを作る。修習生時代の即日起案もそうだったが、締め切り内に出来るだけのものを一応作ることは極めて重要。

絵に完成はない。直そうと思えば永久にどこか直すところがある。我々の書面は芸術作品ではない。結論に至るための工夫は必須だが、結論を左右しない部分にこだわって他の仕事にしわ寄せをきたしてはならない。時間と自分の能力は有限だということを肝に銘ずる必要がある。

8 チャンスが来ないのはボスへのアピール不足

ボスはランダム配点のようで、その人の能力や人柄を見ている。やりたい事件はやりたいと言う。

「いつまで経ってもショボい案件ばかり配点される」
「自分には難しい重い事件ばかり任されてキツい」
→どちらもよく聞く勤務弁護士の愚痴ではあるが、おそらく、前者の愚痴を言う弁護士はボスから評価されておらず、後者の愚痴を言うタイプは自分が思っているよりボスから評価されているのだと思う。

9 仕事との向き合い方(コツ)

仕事は追いかけると楽しいが、追いかけられるとつらい。
追いかけられぬよう、早めに手を打つのが重要。

具体的には、
・期日の経過報告と同時に次の準備書面の草稿(ナンバー付けとタイトル付けと簡単な内容)を作っておいて、その週に肉付けして準備書面を完成しておく。
・依頼者への報告と同時に、依頼者に打ち合わせアポの話もして、打ち合わせの日を入れてしまう。
・経過報告は究極的には、次回期日がいつなのかと、宿題の有無・内容だけでよいから、あんまり作りこまない。
・所内でも依頼者でも、誰かとの日程調整を先送りにしない。今やる。
・相手との交渉でこちらの番になっているときは、勝手に一週間締め切りとみなした対応を心掛ける。
・動かない依頼者への催促は、メールで。メンタルに来てて相手からの通知などを読みたくないという依頼者も多い。そういう時は打ち合わせ日程を入れてしまえばよい。一緒に読んで打ち合わせしてしまえばよい。
・打ち合わせ後の議事録めいたメールはその日に送って、書面を作ってしまう。
などが思いつくが、とにかく、追いかけるようにしよう。

第2 ボスに追い付こう

1 ボスの成功理由を研究する

この人はなぜ仕事があるのか?ルートは色々あると思うが、共通するのは「自分の売り方がうまい」「ちゃんと売上げをたてている」という点。それは自分にマネできそうか?マネできなれば自分独自の別の「売り」は作れないか?ボスはライバルではないが、うかうかしていると寝首をかかれるんじゃないかという、程よい緊張感をボスに持たせることは、ボスのためにもなる。

2 ボスの欠点を分析し、自分がカバーできないか研究する

ボスが嫌がっていることは何か? ボスの苦手分野をカバーできないか。

ボスの欠点を補えれば事務所の生産性が上がる。当然、ボスから重宝される。重宝されればそれだけ立場も強くなるし発言力も上がるだろう。それだけ仕事もしやすくなるはずだ。また、顧客はボスとは違う長所・価値をあなたに見出すだろう。

※ボスの欠点や苦手が見えないという完璧超人のようなボスもたまにいる(笑)。そういう弁護士の下で働いているのであれば、細かい分析や調査、手間作業、厄介な相手との交渉等、普通は面倒くさいと思えるところを引き受けてしまおう。

第3 業務上の工夫

1 速度を上げる

まずは、対応速度・反応速度を上げる。解決までに時間がかかるのは相手のいる問題なので仕方がないが、ちょっとした電話の折り返しなどのこちらができる「対応」「反応」はすぐにできる。
まずは反応速度を上げよう。良い意味で「せっかち」になろう。

次に、完成までの速度を上げる。着手が遅いタイプ、着手するが筆が進まないタイプ、自分がどちらなのかを見極めて対応策を考える。 どちらも、仕事パターン(習慣)の問題だと思うが、前者なら機械的に自分で締め切りを決めてやるしかない。後者は、自分の担当事件の理解が浅いことに原因がある場合が多いので、手術の前に患部のレントゲンを撮ったり患者の体と向き合うのと同じで、事件内容ともっとよく向かい合ってみるとよいだろう。

速さは「やる気アピール」でもある。
やる気を見せたければとにかく早くやることだと思う。

2 非効率な感情を排除する

「そのときのノリ」や「気分」で仕事をしない。
今自分がやっていることの意味を常に考える。

勝負がついてる勝ち事件の準備書面を書きすぎない。それはただの自己満足だ。趣味でやるならよいが、仕事として時間をとっているなら、その時間は他の業務に回すべきだろう。

苦しい事件の処理を後回しにしない。後回しにしてもいつかはやらなければならないし、遅れた分、いいものを作らなければというドツボにはまるので、早期に処理してしまおう。

3 先を読む

交渉事件では、先手で動いていつも相手の番になるように進める。

三手読む。次何をするか(次の一手)、それをしたら相手からはどういう反応が予想されるか(二手)、そうなると先々どうなるか(三手以後・・)。以上、先々の展開を予想したうえで、次の一手として最善手は何かを考える。

相手の手を読むためには、独りよがりにならず、相手の立場に立って考えることが必須。
相手のニーズは何かと自分の立場から相手を眺めるのではなく、身も心も境遇も一旦相手の立場になって考えてみる。相手の真のニーズを見極められれば的確な「読み」もできるはずだ。

4 短気を起こさない

腹が立つこともあるかもしれないが、短気は起さない。
短気は、文字通り長期的な視点を欠く精神状況なのだと思う。
短気は長期的には損であることがほとんどである。腹が立つのは自尊心が傷つけられたからであることが多い。「自分はそんな扱いをされるべき人物ではないのにそんな扱いをされてけしからん」という感情的な怒りの機序は、相手の問題が半分だとしても、残りの半分は自分の問題である。

自分が怒ったらどうなるか先を読んで欲しい。

どうやら損だなと考えたのなら、プロなら片目をつぶって実利をとっておくのも良いだろう。

5 人に興味を持つ、他者への優しさと見切る厳しさを持つ

弁護士の仕事は最初から最後まで人と人の付き合いである。

法人顧客では人事異動で色々な人が代わる代わる担当になるし、退職などでお別れの場面も多くあるが、一人一人に対して誠実な付き合いをするようにする。離婚事件なども、毎年離婚する人はいないのでその事件が終わればその後の付き合いもおそらく終わるが、一人一人の人生に興味を持ち、できる限りのことをきちんとやる。

困っている人にはできるだけのことはしたい。

これは人のためになるだけではなく、自分の心を良い位置に保つ効果もある。

もっとも、できる限りのことをしているのに無茶ばかり言う人もいるかもしれない。友人関係に甘えてくるタイプもいるかもしれない。

人への誠意と言っても、理不尽でも自己犠牲をせよという意味ではない。こちらだって家族の生活、事務所員の生活なども背負っているわけで、自己や身内を犠牲にしてまで誰かに尽くす義理はない。社会的に非常識な要望が次々と出てくるような相手であれば、思い切って関係を絶つ厳しさを持つことも必要だろう。なお、そのようなときは「怒りながら」関係を絶つのではなく、落ち着いて辞任をするべきである。※前項の「4短気を起こさない」参照。

6 安易な約束をしない、約束は守る

やれないことはやれないときちんと言う。中途半端に引き受けていい加減にやるのが最も評価を下げる。それだったら引き受けない。但し、引き受けないときは言い方に注意する。前述の通り、人は言い方に腹を立てる生き物だからだ。相手が急いで返事を求めてきているのでなければ、即答で断るよりは、数分・数時間・1日くらい空けて断った方がよいかもしれない。

ちなみにこれは仕事に限らない。友人の飲み会や会合でも同じだ。参加するようなそぶりをみせて参加しないようなことは、自分の信用を傷つけている言動だと心得るべきだ。

7 保身を図る

依頼者や相手方とのやり取りは形に残す。

依頼者との関係では、自分がやることとやらないことを明確にさせておく。

打ち合わせ後に議事録っぽいメールを依頼者にしておくと安全。先手を取って動き、いつも相手のターンになるようにする。
→うっかり時間がたっても「こっちのせいではない」と言える。

自分が窮地に追い込まれないよう、予防線を張っておく。
例えば、敗訴して、控訴するかどうか依頼者が迷っている場合、控訴期間ギリギリで「依頼する」と言われるとこちらも困る。そういう可能性に備えて、あらかじめ「控訴する場合は何月何日何時までにメールでご連絡下さい。それを過ぎた場合はこちらの準備が間に合わず、控訴期間内に控訴できない可能性があります。」と形に残して伝えておく。

消滅時効完成ギリギリで債権回収の依頼をしてくる企業の担当者は結構いる。それを言ってくれるならいいが、言わずにしれっと普通の債権回収ですみたいな感じで依頼してくる担当者もいる。私は過去、「今日が消滅時効完成」という2000万円の債権回収の依頼を、その日の昼過ぎに受けたことがある。その日に相手の承認がなければ、あとは援用権の喪失狙いの交渉するしかないような債権だった。消滅時効が完成してこっちのせいにされるのはごめんだ。「いつの債権ですか?」「このタイミングだと消滅時効完成阻止が出来るか保証できないですよ」というやりとりをあらかじめ形に残しておく。それだけでも全然違う。

若い人が保身を図らず突っ走る傾向があるのは、責任を取らされる怖さがまだ分かっていないからだと思う。

8 失敗の予防(仕組み化による解決)

自分の欠点をよく知っておく。それが失敗防止の第一歩。

例えば、やらなければならないのはわかっているが、つい先送りしてしまう事案放置・遅延型の失敗をしやすい人であれば、自分以外の人にお願いして尻を叩いてもらったり、担当替えしてもらう等、とにかく、誰かにその事件の話をして、一人で放置される状況にならないようにする。

期限・期間については事務にも知らせてあちこちから警告が出てくるようにしておく。

※おまけ(ボス弁向け失敗防止策):色々あるけど例示。
・勤務弁護士の机にずっと置きっぱなしの事件ファイルは「やらなきゃ」という意識があるものの仕事が進んでいない事件であることが多い。勤務弁護士のデスクをよく見て、いつもある事件ファイルを気にかけておく。
・事務員には、勤務弁護士に、苦情や進捗問い合わせが来ていたり、勤務弁護士が問い合わせに居留守を使ったり、期日の延期をしようとしている事案があるときは報告するように言っておく。
・勤務弁護士が電話で誰かに謝罪していたり、妙に小声で話しているようなときは、電話が終わった後「今の何だったの?」ときちんと声をかける。
・控訴・上告期限、消滅時効については「まだ大丈夫?」という聞き方ではなく、日付をはっきりさせておく。そのうえで、事務にもその日付を伝え、時間管理にかかわる人を多くしておく。
・控訴理由書のノリで、控訴趣意書や上告理由書、上告受理申立理由書の期限を徒過させてしまう新人がいるかもしれない。期限や時効の知識はきちんと確認して自覚させておくべきだろう。

9 失敗の処理

失敗してしまったときは仕方がない。過去は変えられないのだから「今からできるベスト」を考えるしかない。

業務上の失敗や過誤はごまかそうとせずすぐにボスに相談する。嘘やごまかしはしない。嘘をつくと嘘を上塗りしなければならなくなり、そうしている間に取り返しがつかなくなることがある。

追加失点は絶対に避けなければならない。

ミスが起きたこと自体はどうにもならないが、せめて、「ミス報告を遅延させて被害を拡大させた」「ミスを隠そうとした」という、本来のミス以上の、追加失点的なマイナス評価をされることは、絶対に避けなければならない。

言うまでもないことであるが、「書類を偽造して嘘のごまかし説明をする」なんてことはしてはならない。それをすれば、逮捕され、新聞に名前が載って、挙句にバッジが飛んでしまうという、トリプルコンボが待っているが、それがわかっていてもやってしまう弁護士はいる。きっと精神的に普通ではない状況に追い込まれているのだろうが、そんな発想がよぎったときは、とにかく、今の自分の置かれているまずい状況を同業者の誰かに話をして相談すべきである。

『自由と正義』の懲戒公告を見てほしい。失敗処理で嘘を塗り重ねて決定打になる違反をやってるな・・というケースを一度は見たことがあるはずだ。

10 顧客との関係、見通しの説明、説明の仕方、コミュニケーション

関係は「威張らず、舐められず」が原則。 フラットで誠実な態度がよい。

この「フラット」という感覚、わかるだろうか?
依頼者が「仕事を出してやってる」という態度だったり、こちらが「依頼を受けてやっている」という態度の場合はフラットとはいえない。前者タイプとは距離をとれるならとった方がよいし、自分が後者になっているならそれは傲慢だから直すべきである。そういう傲慢さは運が逃げるし、いつか手痛い目に遭うに違いない。

事件の対応については、依頼者のニーズの順位を考える。
解決までの速度なのか、金額なのか、風評被害防止なのか、将来のトラブル防止なのか、刑事だったら早期の身柄解放なのか、無罪を徹底的に争いたいのか、職場や家族への納得と元通りの状態への復帰なのか等、様々なパターンが考えられるが、これらをきちんと説明をして議論を尽くした上で依頼者のニーズを共有し、それに従った対応をするべきである。

顧客には、耳の痛いこともきちんと言わなければならない。
時々逆ギレされることはあるかもしれないが、やむを得ない。
逆ギレを恐れて耳障りのよいことばかり言って、あとになって「そんなリスクは聞いていない」「そんなはずじゃなかったはずだ」と言われるともっと困るのは誰にでもわかる話だ。

なお、見通しやリスク説明はメールできちんとしておく。
※前述の、保身を図る・形を残すという所にもつながる姿勢。

また、このようなとき、言い方・伝え方が重要なのは繰り返し述べたところである。

自信のある態度が望ましい。とはいえ虚勢を張れと言っているわけではない。そもそも自信がないなら依頼は受けないほうがよい。自信があるなら自信のある態度で進めればよい(くどいが、虚勢を張れとか威張れという意味ではない)。 

依頼者とのコミュニケーションは「短く・多く」が良い。
たとえば依頼者から何かが届いたら「届きました」と一言メールする。事務経由でもよい。電話が来たら出先からでいいので「どうしました?」と折り返す。メールは即レス。メールのやり取りは自分からのメールで終わるようにする。

※前述の、連絡は相手のターンにして終わる、という原則にも合致する。

第4 個人受任

1 度胸をつけたい、緊張癖を直したいなら国選がよい

国選弁護は舞台度胸もつくし、一人でなんでもきちんとやる経験としてよい。被告人から期待されていない場合も多いが一生懸命全力でやる。国選で色々できれば度胸もつく。度胸のある態度や自信は民事の個人受任の受任率アップにもつながる。

※但し、国選は任意に辞任できないという重大な欠点があるので、そこは留意すべきである。
※国選を次々とるような個人受任は能がない。刑事弁護ばかりやっていると、依頼者に威張ったり、丁寧な説明を省いて「とにかく私に任せて下さい」みたいな大味な対応をするようになってしまうこともあるので、個人受任は出来れば民事事件を中心とした方が良いのではないかと思っている。

2 人付き合い

皆から好かれるならそれに越したことはない。
ただし、それは目的ではないはずだ。
距離感が近すぎても「仕事」にはならないし、変な馴れ合いも生じうる。
仕事の面からは、好かれることよりも「この人に任せれば何とかしてくれる」と思われる人がよい。

何かの幹事、段取り・準備系の雑務をきっちりやることで「きっと仕事もできるだろう」と印象づけることが可能だろう。

自分を宣伝してくれる「広告塔」を作る。 あちこちの会合に出て顔を売るという人が多いが、顔を出せば出すほど「大したことがない」とばれてしまうかもしれない(笑)。人脈で仕事を取りたいのであれば、あちこちの会合に出て顔を売っている人の無料顧問にでもなって、勝手に宣伝してもらう方が良い。

3 報酬(安易な値下げをしない、受任の範囲をはっきりさせる)

仕事の報酬は次の仕事。
お金は自然とついてくるので単価を追わずにリピートを狙うべし。

・・とはいえ、他人を温めるために自分の体を燃やす必要はない。他の弁護士ならこれくらいは当然請求するだろうという相場分は、正当に請求すればよい。相場が分からなければ旧日弁連基準にすればよい。あるいは先輩に聞くなどすればよい。新人は安すぎる傾向がある。

受任欲しさに進んで値下げするようなことはしない方が良い。するとしても、報酬の端数を切り捨てたり相談料を無料にする程度にした方が良いだろう。値下げは最も安易だが経営的には最も効果がない対応策だと思う。

次のケースを考えてほしい。
普段の経費率が50%だとする。50万円の報酬(売上)を40万に値引きした場合、50万円報酬の粗利が経費率50%で25万円あったのに40万円に値引きしたら粗利は15万円(40%ダウン)になっていることになる。利益が4割落ちるとなると今までの生活を維持するのも難しくなるだろうから、その分たくさんの事件を引き受ける必要が出てくる。つまり「貧乏暇なし」になってくる。

貧乏暇なしだと、木を切るのが忙しくて斧を研ぐ暇がない木こりのような状況になってしまう。自分の勉強・研究の時間もとれなくなる一方で、斧の刃が丸くなってくるのと同様、自分の知識もだんだん切れ味が悪くなってくる。また、値下げしても、その分責任が減るわけではない。いいことが全くない。

見積もりは、きちんと方針を示して堂々と出した方がよい。その方が依頼者も覚悟を決める。

また、受任の範囲ははっきりさせておきたい。ズルズルやることが増えて大変なことになる若手弁護士がいるが、受任の範囲をはっきりさせておかなかったのが原因だろう。

4 思い切って断ることも重要

受任時に「いやな予感」がするなら断る。その予感はきっと合っている。値切る依頼者は要求が多い場合が多いし、値下げした分責任が減るわけではない。引き受けないのが一番である。また、他の弁護士を解任してきた人の依頼は新人はやめておいた方がよいだろう。

※どのような相談者やどのような場合に受任に慎重になった方がよいのかは、語り出すと色々あるけれど、別の機会に取り上げる。

※追記:↓書きました。


第5 事務所経営

1 独立してやっていけるのか?

安易な独立はお勧めしない。

自分の個人受任での所得だけで安定して暮らせるかを試算してみる。仕事に関して具体的な見込みやアテがないなら、今の給料の2倍は毎月安定して個人受任売り上げがあるだろうか?(長期的な視点で見ても大丈夫そうか?)
企業担当者が約束してくれていたり、すでに顧問があるなどでもない限りは、相当苦労することを覚悟しておいた方がいいと思う。

なお、安定して売り上げが立っているかどうかの判断であるが、着手金が入る案件が毎月連続して来ていたとしても、安定感があるとは言えないと思う。受任は容易だがなかなか解決できないという、便秘になりやすい事件ばかり受任していると、最終的には全件中途半端になって破綻する。自分の中で特定分野の受任上限件数を決めておくと良いだろう(離婚事件が典型。すぐに依頼になるが、なかなか解決しないで件数は増えていく。しかも、依頼者の要求は感情的な場合も多く、苦労することが多い。)。

2 そもそも独立する必要はあるのか?

個人受任が多くて事務所事件がきちんとやれずに迷惑になる、だから独立する、というのがベストな独立だろう。
勤務弁護士に飽きた・忙しすぎる・ボスに仕事丸投げされるのが嫌だ、ボスの方針が気に入らない・仕事の幅を狭めたい・仕事の幅を広げたい・個人受任の経費納入が惜しい・・等、色々聞くし、それらの理由も、自分も勤務弁護士経験があるのでよくわかるが、事務所に原因があるとしても独立してその不満は解決するのか、他の苦労が増えることはないのか、今よりハッピーになれるのか。このあたりは感情論抜きで考える必要があるだろう。

「独立=自由」が成り立つのは食えている人だけである。
食えずに独立してもそこに自由はない。待っているのは「廃業の自由」だ。

独立でなくパートナーで自由になれないのか?事務所で不可欠の人材になれば発言力は上がるし、ボスも待遇を考えるのでどんどん自由になっていくはずである。辞める前にボスに待遇相談くらいはした方がよいだろう。

3  事務所経営を甘く見ていないか

事務所を独立する人は、テナント内装費、什器・備品、毎月の家賃、リース料、事務の給料・・といったお金の不安(仕事がくるかどうかという不安も結局はお金の不安といえるだろう)しか考えていないケースが多いが、実は一番難しいのは、事務所としての業務フローづくり・チーム作り・組織作りである。

※事務所経営については色々言いたいこともあるが、今回のテーマと合わないので割愛する。とにかく「経営をなめるな」とは伝えておきたい。

4 コスト感覚

安易にお金をかけない。独立準備中の人にありがちなミスは、内装・複合機などの業者の上客になって言いなりで金を使ってしまうこと。ホームページ業者・広告業者などに安易に外注費を払って大損するパターンもありがち。

コスト感覚は初期ほどきちんとしておくとよいだろう。

もっとも、いくらコスト削減が大事だと言っても「コストの削減=生産性向上」そのものではない。コストを下げて、同じように売り上げや業務量(成果)も下がるようでは本末転倒である。コストを下げたのに売り上げや業務量は維持できたと言えるときにはじめて生産性が上がったと言える。

生産性が上がって元が取れる、そしてそれが永続的だと言えるなら、思い切ってコストをかける必要もあるだろう。ただ、多分、初期はそういう決断をすることはないだろう。

いずれにせよ、損益分岐点をきちんと把握した上で、無駄な金を使わないよう自分を客観視することが重要だと言える。

5 顧問先の獲得

顧問弁護士どうですか?とホームページなどで広告している事務所もあるけれど、私からすると相当違和感がある。

いきなり顧問になってくれと言われて顧問にするだろうか?

他の実績のある事務所や大型事務所を差し置いて、どうして無名の新人・若手弁護士であるあなたにそんな打診をするだろうか。

事件がうまく解決したがまだ色々ありそうだという会社や、リピーターづきあいが続いている会社なら顧問契約の提案をしてもよいと思うが、そうでもなければ安易に広げようとしなくてよいと思う。

なお、上場企業の顧問契約は、飛込みではほぼ無理。子会社や末端部署でいい仕事をする。→今後の改善策などの提案・提言をする。→上司に話が行き、だんだん仕事が増えていく。→関連会社にも仕事は広がる。社員が子会社に出向したり本社に戻ったりして付合う会社が広がる。→そうち、うちの企業ともっと付き合いを深めていきませんか、というオファーが来る・・という感じで、良い仕事をして、狭い業界内での紹介でのし上がって顧問になる方法が良いと思う。私の場合はそのやりかたで長期的な付き合いを増やしていっている。

大企業の顧問は、安くても宣伝として効果がある。
また、大企業から転職した人から取引の打診が来ることも結構ある。
それと、大きな組織の中での人間関係を見て、中にいる人たちのものの考え方や行動原理などを知ることは弁護士業務でも結構役に立つ。

6 企業顧客

大半の大企業は気まぐれな天才より安定した秀才を求めている。
その企業の経営が安定しているのならば「安定感」「安心感」を目指すことを第一とし、聞かれたことを早く・安く・可能なら資料を付けて回答する方向性で考える。

他方、若くて伸び盛りの中小企業・ベンチャーの社長は、「反応速度」「わかりやすさ」「企画をなんとか前に転がせるアイデア」「弁護士の敷居の低さ」を求めていることが多い。気軽に携帯やLINEアプリなどでいつでも相談できる関係がベスト。

経歴や肩書、出版などは良ければ良いほど有利。かといって嫌みになると逆効果なので、アピールはしすぎないよう気を付ける。一度言えば刺さるだろうし、HPに載せているなら顧客は勝手に見るだろうからわざわざ自分から言う必要はない。

人間関係も重要である。好かれるに越したことはないが、それ以上に「頼りになる」「あの人に任せれば大丈夫」と思われることが重要である。また、実績等が同じで仕事ぶりでの差が付かない事件なら、その弁護士の好感度・知名度・話題性なども依頼先決定の要素となるので、好感度・知名度・話題性が高い人は企業の仕事は相当有利だと思う。

7 うまくいかないのはなぜか

経営がうまくいかないという同業者からの相談も時々受ける。
大体は次の3つである。

 ① 単に努力していない。努力が足りていない。 
 ② 努力の方向性が正しくない。
 ③ 努力しても能力的に無理なことをしようとしている。

自分の欠点を素直に認め、それを前提として今からできるベストを尽くす。

意外と①が多いように感じる。

例えば、周囲が勉強していない環境にいる学生(例えば地方の非進学校の高校生)が、ある日ものすごく勉強したとする。「俺、こんなに勉強した!」と満足げに思ったりするわけだが、本当によく勉強している人(都心のガリ勉進学校の高校生)と比べると、ガリ勉高校生の日常的な勉強量にすら届いていなかったりする。

それと同じで、気まぐれに思い立って、そのとき自分では頑張ったつもりでも、実はそうでもないことは結構ある。

やると決めたら、周囲が心配するくらいそのことにのめり込んで努力するべきだろう(特に独立初期は。)。

8 小銭仕事をバカにしない

一攫千金狙いは安定感を欠くので、タクシーでいえば常に初乗り客がいるような状況を目指す。遠距離客(高額案件)はボーナスくらいに考え、アテにしない。1件1万2万の小さい相談や文書作成でもひっきりなしに来ていればかなりの売り上げになる。単価が安いのが嫌なら値上げを考えても良いが、それ以上に生産性を上げて効率よくできないかを考えてみる。

低単価での効率的なやり方は大きな事件の対処でも役に立つ。

9 生産性向上の意識

コスト感覚だけでなく、自分の労力を最適化することも考える。

技術革新は経済全体を成長させるわけではない。
上手く使う人の効率を上げて上手く技術を使えない人との生産性に差をつけるだけである。 

便利な技術を取り入れるだけで、自分の生産性は、他の弁護士より効率化するだろう。

無駄なことはしない。勝ってる事件に必要以上のリソースをかけない。負け事件は依頼者の納得や今後の関係を重視した対応を心がける。

無駄なことはしないと書いたが、面倒くさいことはきちんとやる。

無駄なことと面倒くさいことの区別がつかないという場合は、要するに、その案件に必要なことが分かっていないということだから、単純に経験不足・実力不足である。そういうときは、非効率でも全部やる方向で頑張るしかない。

小さな労力で大きな成果となるような、レバレッジがかけられるような動き方を考える。
→短いひと手間で解決までの時間を大幅に短縮できることがある。

例えば、文書を送るだけ送って、ろくに返事が来ないので数週間して「文書を送っていますが、どうですかね?」と相手に問い合わせるより、文書を送る当日「今日文書を送りました。明日届くと思いますので宜しくお願いします。」翌日「届きましたか?ちょっと開封して送った文書について今一緒に見てもらえますかね?」と小さく連絡を刻むようなやり方の方が絶対に早く解決する。

10 相談相手をつくる

相談できる人を作っておく。友人でもよいが、メンターというか、自分の中で一目置いている人を大事にして、その人とは普段から縁をつないでおく努力をしておくとよいと思う。

その意味では、ボスが全然無能だったと思って辞めたならともかく、ボスの力量を評価しながらも退所して独立したのであれば、そのボスとの関係はいつまでも良好なものとなるようにすべきだろう。

弁護士が全分野に精通していることはあり得ない。
他の弁護士がどんな事務所にいて、普段どんな仕事をしているのかを知っておく。会派や派閥でも、どの先生がどんな事件を得意としているのか意識する。不慣れな事件の相談のときは相談を持ちかけられるだけの人なつっこさと図々しさを持っておくと良いだろう。

また、うっかり受任してしまったのなら、慣れている先生に共同受任してもらって報酬は渡してしまえばよい 。指導料・勉強料・安心料だと思って割り切ればよい。

11 ノウハウは惜しみなく人に見せる

情報は情報を持っている人のところに集まる。

情報を持っていることを示すには情報を出すのが一番だろう。情報を出せば、それについて意見をもらえたり、うちの方が上手いやり方だという議論になったりして、ますますよい情報が得られるようになるはずである。仲間の弁護士には「ノウハウを見せるからそっちも見せろ」くらいは言ってもバチは当たらないだろう。

12 「知っている」だけでなく「できる」ようになる

「知っている」と「できる」は全然違う。

「それは知っている」で終わらずに、「できる」ようになる。

行動力・実行力をつける。→これが一番大事。

最後まで読んでくれてありがとうございました。
がんばって下さい。私も初心を忘れずがんばります(笑)。

(おわり)

#経営 #弁護士 #法律事務所


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