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ハードウェアのイノベーション拠点、中国・深圳とは

2016年10月22日〜26日まで、Maker Faire Shenzhen の視察と、チームラボ高須さん企画の深圳観察会に参加してきた。

深圳は今、ハードウェアのシリコンバレーとかイノベーション拠点などと称されている。この観察会はその中心にいるメイカーズのエコシステムを実際に体験しに行くツアーである。

※詳しくは、高須さんの著書「メイカーズのエコシステム

広い中国では都市によって様々な個性があるが、深圳の中心部は整備されており、地下鉄は綺麗だしご飯は美味しくオシャレな店も多かった。とっても都会的なイメージ。そして出会う人は皆丁寧で親切。

Maker Faireの会場周りは東京の豊洲のよう

宿泊した華強北エリア一帯に広がる世界一の規模を誇る電気街(面白ガジェットや変なIoT、電子部品が秋葉原の30倍の規模で展開されている)

あちこちで道路工事が。現在進行形で発展中。

未来と過去が混在していて、古さを感じさせる場所もあれば、新築のビルが立ち並んでいたりする。そんな街並みの中で急にホバーボードや完全オートの自転車で走り回る人々の様子は、まさに80年代のバック・トゥ・ザ・フューチャーのイメージそのもの。

「バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2」 (c) 1989 Universal Studios. All Rights Reserved.

Maker Faire Shenzhenのアジャイル運営

Maker Faireは個人からスタートアップを中心に様々なブースが入り混じる、ハードウェアメイカーが集まる展示会である。本来であれば、10/21~23までの会期の予定だったのだが、台風の影響で21日が中止、22日が再設営日で来場は不可、という事態に。日本であれば、間違いなく23日一日だけの開催、となりそうだが、なんと1日順延し、23日・24日の2日間の開催に変更になった。ものすごいアジャイル運営…。深圳最初の衝撃である。

Maker Faireでのお気に入りはこれ。石灰で文字を書くロボット。よく晴れた空の下、もくもくと文字を書き進めてゆく姿とそのアナログ感に和む…。

ヒゲキタさんの3Dプラネタリウムは各地で人気なのだが、私は東京のMaker Faireでは体験できなかったので、これが初めて。

写真ではわかりにくいのが残念だが、3Dメガネを通すと迫りくる宇宙船の臨場感が本当にすごい。このシンプルだけど真似できないコンテンツは、イノベーションっていうより革命じゃないか。

そして、wicueという会社のe-Writing Board。「ハードウェアにはなるべく機能を持たせない」とは後述のJENESIS藤岡さんのアドバイスなのだが、それを実現しているデバイスだと思う。ボードに書いたものをWi-FiかBluetoothでスマホ等に送るだけ(現時点では42インチのみ対応)。とにかく書き心地が良く、余計な機能がないのでメチャクチャ軽い。

せっかくなので、深圳滞在の最終日にこの会社に訪問することにした。担当者とWeChatでアカウント交換をしたところ、名刺をもらうところから、(チャットの翻訳機能で)アポイントの調整、簡単な商談、さらにはリアルタイム位置情報を使ってルートのナビゲーションまでもが全て会話なしでWeChatで完了してしまった。このカジュアルさとシンプルさ、UXの満足感に感動…。※さらに便利なWeChatPayについて、同じ観察会の参加者セコンさんが記事を書いている

観察会①ハードウェア専門のアクセラレータ「HAX

深圳には車で1時間の範囲内にハードウェア製造のサプライチェーン工程すべてのインフラが整っており、その上世界最大の電気街がある。深圳でつくれないもの、手に入らないものはないと言われている。

そんな、ハードウェア製造に最高の環境で、HAXはハードウェアの起業家を支援する専門のアクセラレータだ。シリコンバレーの会社だが、様々なリソースにアクセスしやすい深圳に拠点を構えている。応募は年間約2000件あるが、投資支援を獲得できるのはそのうち5%、という狭き門。投資対象は製品アイディアよりも「人」&「チーム」を重視する。1名ではなく複数名のチームが選ばれることが多い。

「人」を重視する、HAXが起業家に求めることとして、以下の3つを挙げている。

1)楽天的

2)ハードワークに耐えられる

3)リソースフル(機転がきく、引き出しが多い)

3)は特に、深圳のスピード感に乗っていくには非常に重要だと感じた。深圳で起業家がやるべきことは「プロトタイプを作り、市場に向けて製品化する」こと。すなわち0→1を生み出すことである。ここはKickStarterで発表した途端、コピーされやすいものは販売前にコピーされてしまう世界。ハードウェア自体にオリジナリティを持たせるのではなく、Webサービスの方に価値を持たせる、または最初からオープンソースにして、それでも価値があるものを考える、ということを意識している。一つの解に執着せず、様々な引き出しを持って多角的にタフに乗り越えていかないと0→1の壁は乗り越えられないのだろう。

HAX卒業生はその後も強いつながりを持ち、コミュニティ化されている。きっとそれも製品化した後の彼らの競争力を保つのに重要な役割を持つのだと思う。

振る舞われた巨大ピザのエンタメ感に沸く皆さん

写真はロボットキット・電子工作パーツを製造販売するMakeblockの商品。HAX卒業生で、成功した企業の一つ。

観察会②擬人化しないロボット・BIG-I

NXROBOは家庭向けロボットBIG-iを作っているスタートアップ。安全であること、抱きしめたくなるようなテクスチャーにこだわる。ロボットはロボットらしく、擬人化しない、というコンセプトも新しい。2足歩行ではないので、ドラえもんのようにシュルシュル~と後追いする様子がとても可愛らしかった。

プレゼンしてくれたCEOのLAM,Tin Lunさん

中国語、英語、そして昨日インストールしたばかりの日本語を話すBIG-i

顔認識、トラッキング、音声認識、家電の起動などができる。リアルなホームユースを狙い、価格は10~15万円くらいになる予定、とのこと。

観察会③seeed 

seeedは主にメイカー向け小ロットのプリント基板の受注生産や販売をしている企業。アジャイルマニュファクチュアリングという、他社が真似出来ない仕組みを構築している。深圳のMaker Faireは、メイカーが増えることを望むseeedが主催・運営をしている。seeedの社長、Eric Panは前述のHAXの共同創業者。

社員が描いた画があちこちの壁面を彩っていて、自分たちの職場を楽しくMake!という気持ちが伝わってくる

seeedでの発注の条件で大事なことは2つ。

1つは世界で50個作れること。管理表には「50」などの超小ロットな数字が並ぶ。

2つ目はオープンソースであること。オープンソースであることで、依頼品のパテントを意識する必要がなくなり、基板設計が苦手なメイカーも既存品から流用して依頼しやすくなるというメリットがある。

小ロットは熟練のエンジニアの手作業で行うが(写真上)、大きめのロットに対応したマシンのラインもあり(写真下)、機械作業との使い分けで最適化されているようだ。アジャイルなやり方の一方で、トヨタ生産方式により、高度な生産管理・効率化も同時に行われている。

印象的だったのは、オフィス家具など作れるものはなるべく自分たちで作る、ということ。Makeblockでも同様のモチベーションがあり、「効率よりも自分たちで直せることの方が大事」という考えにメイカーマインドとイノベーションの源泉を感じた。

前日までのMaker Faireでクタクタなはずの、seeedのViolet Suさん。疲れを感じさせない明るいガイドに引き込まれる。右は高須さん。

観察会④JENESIS

藤岡淳一さんが代表を務める、主に日本の非メーカー業の法人向けICT・IoT機器の製造受託を行う企業。自社の工場を持ち、深圳製造で日本クオリティを守る。シェアは日本向け90%、中国国内10%。小ロット・多品種に対応する。

これまで訪問した企業とは異なり、ぐっと日本のオフィスっぽい雰囲気

深圳での製造の場合、一例では初期費用が日本の1/26、製品単価が1/2という結果に。特に、既存のパーツや基板を使用することで大幅なコストダウンが可能だ。

JENESISの工場では主に組み立てと製品テストを行っている

深圳での取引で難しい領域である、現地の工場とのやりとりや取引、品質の担保などを全てカバーしてくれるのがJENESIS。製造したハードウェアは1年間のメーカー保証があり、宮崎県にあるサポートセンターがアフターフォローもしてくれる丁寧さ…。

中国の工場と付き合うときの注意点やそのときのエピソードを伺っていると、「サプライチェーンは人間がいっぱい」で語られている内容を思い出す。藤岡さんの話はシビアだ。「得して得とる」中国人に自分と付き合うメリットを丁寧に伝え、関係をつくっていくことは最重要プロセスであることを実感した。

陥りやすいデバイス開発の失敗についても大変参考になった。

デバイスはトレンドの変化が早いので、リッチにしない。念のためにこの機能も載せよう、はNG。通信方式もシンプルにすること。陳腐化しないためにクラウドやサービス側で価値を提供せよ、という助言はこれまでの訪問先全体を通して語られていたように思う。

観察会⑤中国政府がサポートするメイカースペース

華強北国際創客中心

深センのスタートアップに対しての支援を行なっているスペース。デザイン、プロトタイプ、製品化、物流、インキュベーター(ファイナンス面)など、ハードウェア起業する上で必要な全てのプレーヤーと繋げてくれる。HAXと異なるのは、支援に必要な役割を様々な企業に分散させている点。経済特区の推進のために出来た。

スタートアップのサポート先が壁一面に

その中で実務的な役割としてTroubleMakersがコミュニティを形成して活動ししている。電子工作などを身近に感じてもらうためのイベントを主婦や子供向けに多数開催しているとのこと。アイディアがありハードウェアを創作したい意欲のある方は国籍問わず、ネットワーキング支援をするのが特徴である。

このようなスペースが深圳には300ほどあるそうで、この華強北国際創客センターも半年ほど前にできたばかり。民間のHAX一社だけではなく、中国政府が全力でスタートアップを押し上げようとする取り組みが同時多発的に進行していくなど、今の日本にはありえない進め方で、危機感しか感じなかった。

SegMaker

メイカー向けオフィススペース。HAXや華強北国際創客中心が欧米系起業家の支援が多いのに対し、こちらは中国の起業家を専門に支援している。

洗練されたオフィス空間。大きな窓からの自然光とテラスが開放的な雰囲気。

Makeblockに似た商品(写真上)について、堂々と「これはMakeblockだよ!」と言ってしまうなど、「模倣」による創作も発展過程の一つと捉え、容認しているようだ。ただ、コピーされる側もそこから学びがあり、結果よりよい価値創造につながっていたりして、深圳が持つ生態系の一つとして機能している。

深圳での1週間はシリコンバレーでの1ヶ月

これはHAXのプレゼンテーションでの言葉。それくらい深圳での時間の流れは速い。深圳に「未来を感じる」のは、深圳の人たちが世界で勝つためにまっすぐに猛進している点にあると思う。常に熾烈な競争の中で、企業も人も圧倒的スピードでバリューが磨かれるのは当然の結果だろう。

深圳は「ハードウェアのイノベーション拠点」と最初に述べたが、観察会参加前の漠然としたイメージがようやく具体的になった気がするので、補足したい。「ハードウェアの開発・製造拠点であることを武器に、そこに載っかるソフトやWebサービスの価値創造、人脈形成を可能にする人材を集めるために最適化された都市」。そんな表現がしっくりきている。

最後に。

この濃度の高い体験は、一人でふらっと行っても雰囲気しか感じ取れず、本質的なところには触れることすらできなかったと思う。高須さんの細やかなコーディネートと解説、さまざまなフォローによって、ようやく得られるものである、ということを強調しておきたい。また、今回一緒に参加した皆さんとの考察のやりとりが非常に楽しく、こんなに贅沢なツアーは他にはない。深圳に興味を持ったら、「まずニコ技観察会に参加すること」が深圳を堪能するもっとも重要なアクションであると断言する。

興味を持ったらこちらから!




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