3−2 沼沢地にて (14,426字)

 眠りから目覚めたはずだ。窓からはまだ朝の光は溢れず暗いまま、太陽に擬態しようとして失敗した灯りが幾筋か窓から差し込み、ぼんやりと部屋の輪郭を露わにしている。見慣れない部屋だ。安っぽい木でできた丸い机の上に事務用の電話が置かれていて、隣にも同じ素材でできた木のクローゼットが鎮座している。壁は漆喰、時が刻んだ汚れと光の加減で人の顔に見えなくもない歪で不気味な陰影が描かれる。アラームで起きたわけでも、ノックで目覚めたわけでもなさそうだ。自分の呼吸を除けば、物音一つない。とにかく正面を向くと、二段ベッドの裏面が見えるが、上には誰もいないはずだ。

 起き上がろう。そう僕は思った。でも体が言うことを聞かない。どうしても動かせないのだ。腹筋に力を込めようとしても、憤りと似て遣る方無い。眼球は自由に動かすことができた。僕は限られた範囲の中で自由に視点を変える。窓の外の光が何らかの原因で幾度か遮られると、完全に近い闇が形成され、その度に部屋が少しずつ拡大しているように見えている。でも、体は全くの不随状態に陥っている。僕は、脳味噌に続き、神経系も駄目にしてしまったというのが、比較的説得力のある仮説にすら思える。

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3−2 沼沢地にて (14,426字)

Yamashita Shunsuke

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さらに美味しいコーヒーを淹れようと思います。

どうも、ありがとうございます。
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