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四次元ダンジョンの街―常滑

国際芸術祭あいち2022の郊外会場のなかで、最後に訪れた会場が常滑。焼き物の町として、「朱泥」と呼ばれる独特の赤い陶土を生かした急須のほか、土管や植木鉢など生活に欠かせない陶器を生産してきた町だ。

展示が繰り広げられたのは、「やきもの散歩道」と言われる細い道沿いに古い窯や製陶所が入り組んだ一帯で、廃業した施設が多いものの、それらをリノベして新しく店が入っていたりして、なかなか味わい深い観光地となっている。道を歩くだけで興奮MAXになってしまい、作品の印象が薄れてしまったのはここだけの話。

廃業した窯にいい具合に植物が絡んでます。
これがあの土管坂

常滑での展示は、土や焼き物、そして土地の歴史に関連したインスタレーション作品が中心となる。もちろん他の地区と同様に、歴史はあるが使われなくなった建物や施設を利用している。やきものの小道は、ある意味開発から取り残された、坂の多い細くて込み入った路地だ。縦横無尽、そして上下に道はつながる。そこかしこに見える過去の遺産と現役の建物、畑、陶片が埋め込まれた壁や道。古くから陶器を生産してきたという時間の流れが組み込まれ、4次元の迷路を歩き回っている気分に陥った。(そして実際に迷った)

「旧青木製陶所」
現地に半年間滞在して常滑の歴史をリサーチしつつ製作に取り組んだ黒田大スケの作品と、「土」にこだわったフロレンシア・サディールの作品が展示された。

使われなくなった窯がそのまま残る
黒田大スケ氏の作品の一部
フロレンシア・サディール《泥の雨》

「旧丸利陶管」
70年代まで土管を大量生産していたという工場跡地。複数の建物を利用して5名の作家の作品が展示されている。とくに興味を惹いたのが、住居エリアをワークショップや展示の場にしたシアスター・ゲイツ《ザ・リスニング・ハウス》で、中をじっくり見たかったが、人数制限があって入れるまで時間がかかりそうだったので玄関だけ見て断念。また、服部文祥+石川竜一による《北海道無銭旅行》が番外編的な面白さがあって強烈な印象があった。金銭をいっさい持たず、銃を持って狩りをしながら秋の北海道を508キロ走破するというかなりチャレンジングな旅の記録であるが、中心となる展示が手記であり、来場者限定とはいえ冊子として配布されることがユニークだし、「旅」そのものが現代アートとして成り立つのか? という問いを投げてくる。もちろん、旅行記として読むだけでも相当面白い。

甘い香りが漂う中、一面のクッキー?
これ、実はスパイスを混ぜた土を焼いて作られたもの。
デルシー・モレロスの作品。
グレンダ・レオン《星に耳をかたむけるⅢ》
土を離れて空へ。
常滑会場では珍しいタイプの展示

グレンダ・レオンは、ギターの弦やタンバリンなど楽器の一部を使った作品《星に耳をかたむけるⅢ》《月に耳をかたむける》《雨に耳をかたむけるⅡ》を展示しており、それらは実際に音を出して演奏することも可能だ。実際に演奏パフォーマンスが行われ、You Tubeに記録映像がある→ https://youtu.be/eZ5FyFloirs

旧急須店舗・旧鮮魚店では尾花賢一《イチジクの小屋》が展示され、常滑の町に生きた一個人、という個人史に焦点をあてた作品として強い存在感を放っていた。

展示作品に登場するイチジク園は建物の裏手に実在します。

「時のカタチ」展
最初は国際芸術祭あいちの展示かと思ったのだが、よくよく案内チラシを見ると、そうではなくパートナーシップ事業ではあるが独立した展覧会であった。場所は「旧青木製陶所2階」。こちらも現代の陶芸作家による面白い作品がたくさん並んでいた。「インスタレーション」というほど大掛かりではなく、気軽に見て回れるのが良い。(詳細はこちら→ https://www.instagram.com/espartoko/

さらに、「時のカタチ」展のとなりのスペースには、「sugi cafe」という素敵なコーヒーショップがあったことを申し添えておく。やきもの散歩道には、ほかにもつい寄り道したくなるようなカフェやショップがいくつもあるし、思わず写真に残したくなる景色もたくさんあって、お祭りやフェスのない時こそのんびり歩いて楽しみたいと思ったのだった。

BGMはベートーヴェンVn協奏曲だった…と思う。

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