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【配信を拝診⑲】中世英国の雁字搦めな女性の一生にお転婆娘が唾を吐く!! 奔放な少女が隣人の幸せを慮る時、少女が大人に、世界が平和に近付く映画『少女バーディ ~大人への階段~』

 結論から言おう・・・・・・こんにちは。(Ο-Ο―)
 演技を齧る者には必携の書!!ということで、今まで避けていた"未完の大作"漫画『ガラスの仮面』を遂に手に取ってしまった、O次郎です。

完結至上主義というワケではないですが、かといって未完のままになりそうな気配の濃厚な
長大作品に一から手を出すというのはなんとも勇気が要る、という話で。
ちなみに奇しくも今日の発売号のジャンプより『HUNTER×HUNTER』が連載再開とのことですが、
あちらも同様の理由で今までのところ手を出しておりません。
ガイバー』や『BASTARD!!』だけでもうてんやわんやで…。

 今回はAmazonプライムビデオで独占配信中のハリウッド映画『少女バーディ ~大人への階段~』です。
 こないだTBSラジオたまむすび』内のコーナー「アメリカ流れ者」にて町山智弘さんに紹介されておりました。
 お転婆娘がビターな現実を目の当たりにして色々と"諦める"ことで大人になる展開を想像しており、実際そういう側面も有りましたが、コメディー基調の物語の中に"変人扱いをされつつも世の規範・常識に抗い続けることで周囲の無思考・無批判な人々に気付きと自由意思を与える"という古風ながらも普遍的なテーマが息づいており、しばしの猶予期間の内に幕を閉じるラストは中途半端ながらもそれだけに余韻に満ちています。
 "お転婆"という言葉が死語になって久しいですが、まさにそのものという少女が主人公です。『キャンディ♡キャンディ』や『はいからさんが通る』あたりを多少なりとも齧ってきた方々、その息吹を懐かしみがてら読んでいただければ之幸いでございます。
 それでは・・・・・・・・・・・・"泥まんじゅう"!!

たしかテレビドラマ版安達祐実さんが主演されてましたね。
姉が観てるのを垣間見たところ、主人公が周囲からいじめや嫌がらせを受ける姿が
まんま『家なき子』の焼き直しのように見えてしまい、製作陣のあざとさを感じた次第で…。



Ⅰ. 作品概要

※Wikiのページが存在しないので『たまむすび』の該当回のリンクをば。

(あらすじ抜粋)
多くの10代の女性主人公と同じように、レディ・キャサリン(バーディとして知られる)は活発で賢く、冒険好きな女の子。彼女を訪ねてくる求婚者はいつも追い払ってしまう。家族はバーディを嫁がせようと必死だが、彼女の想像力、反抗的な態度、時代を先取りした独立心が両親との衝突を招くことになってしまう。そんなとき、バーディのもとに最後の求婚者が現れるが、それは下品極まりない男だった。家族は一体どうするのか、絆が試される。


 13世紀末のイギリスの片田舎、領民と一緒になって小屋作りの一環で泥だらけになって戯れるバーディの姿から物語が始まります。

領主の娘でありながら裁縫・楽器・マナー等の淑女レッスンはてんでダメな一方で、
叶わぬ十字軍遠征に憧れ、財産と引き換えに若干14歳の彼女を我が物にしようとする
老境ながらも好色な男たちを幻滅させながら次々に撃退していく・・・。
勇ましいながらもやがては負けが確定している絶望的な闘いを見るようで
既に寂寥感を禁じ得ません。

 地方とはいえ領主生活となるとそれなりには安泰かと思いきや決してそうではありません。
 父親は祖父から受け継いだ瓦解寸前の領地をなんとか立て直すも、その若き日の栄光に縋るばかりで現在は酒に溺れての借金塗れの趣味人暮らし。
 母親は財産と家柄との打算の末に嫁いできたゆえにバーディの人身御供的に結婚させられることへの憤懣に理解を示すも、毎年の出産と度重なる死産で心身ともに疲弊の極み。
 兄は神職を目指して寄宿学校暮らしであり、彼の勧めでバーディが始めた日記に沿う形で物語が展開していきます。 
 とにもかくにも生き方がそれぞれに雁字搦めあるいは袋小路に行き当たっており、己の行く末を己の才能・器量で選び取れないもどかしさを抱えています。とりわけ男尊女卑の強い時代・地域ゆえに思春期にある主人公の煩悶は一入です。

主人公の愛称の由来にもなっている小鳥。
無意識的にせよ、自分が鳥籠の中の存在だと強く感じているからこそ
その代償として鳥を飼っているのでしょう。
結構な数を飼っていましたが、後半に彼女が"気付き"を得るに差し当たって
鳥たちを野に放つ姿はベタながら解り易く潔い演出です。

 そして"女性らしからぬ"振る舞いをする度にお仕置きを受け、一族への財産供与目当ての政略結婚のために醜悪な男たちとの見合いを強いられるストレスフルな日々の中でバーディの唯一ともいえる救いが叔父の存在です。
 母の年若い弟で十字軍の勇猛な戦士、ハンサムで気配りができ、バーディの苦悩にも耳を傾けて共感してくれます。

まさに絵に描いたような"白馬の王子様"であり、
温故知新というか、多分に外連味で味付けされた現代のドラマ作りの中では
逆に新しいぐらいかもしれません。
そして"白馬の王子様"といえば真っ先に思い出すのは何故か『寄生獣』の加奈ちゃん。
邦画版では見事に存在自体をオミットされてたっけなぁ…。


 主人公の美しい従姉妹とその叔父が秘かに逢引きしているところを目撃してその従姉妹に絶交を宣言したり、しかし最終的には彼が財産と名誉のために倍ほども年の離れた未亡人と結婚してしまったりと、その波乱万丈な友情と恋愛の顛末はまさに往年の少女漫画のそれを彷彿とさせます・・・まぁメジャー作しか読んでないうえでのイメージだけど、それだけのマスターピースの再現ぶりだということで。
 
 求婚を避けるために生理の始まりをひた隠しにしていたバーディですが遂に発覚しつつもどこ吹く風とあの手この手でわざと求婚者を幻滅させて返り討ちにするのですが、もともと聡明な彼女ゆえ、それまで敢えて見ないようにして来たものがありありと目の前に映し出されることとなります。
 一方では、叔父が自身の一族の安泰のために寡婦との結婚を運命として肯定し、相手の寡婦も身の安全と対面を保証してくれる夫の存在をリスペクトする。そしてもう一方では従姉妹が10歳にも満たない裕福な貴族の少年へ嫁ぐことが決まって嘆き、彼が突然病死したことで喜び出戻るも再婚相手たるバーディの兄からの支度金不足で渋る父にまた泣かされる…。
 深く感じ入ったり物思いに耽る描写こそありませんでしたが、互いに恋焦がれる熱情は無くとも打算計算だけではない相互リスペクトの結婚も有り得ること、そして男女問わずお金の問題は必ず立ちはだかってくることをハッキリ主人公は学んだはずです。

 そしてそれゆえにバーディは自分の下に訪れた最後の求婚者である下品極まりない男がこれ見よがしに彼女に下賜した結婚支度金を自分の兄と従姉妹との結婚の費用に供し、自らの意思で以て結婚を承諾するのです。
 自分の親兄弟を経済的に救うためでもありますが、それよりも何よりも幼少期からともに泣き笑った親友の従姉妹の幸せのために自らの身を差し出す…意志が強く他人思いの主人公らしい決断だと思いました。大変な難産の末に父から母への励ましの甲斐も有って誕生した双子の妹弟の存在もその決断を後押ししたことでしょう。

 洋邦問わずクラシック映画であれば、その後に主人公が結婚相手の待つ城へ向かう馬車の中で己の少女時代との決別の涙を流すところでFin…というところでしょうが、この映画ではそこに留まりませんでした。
 なんと、あれだけバーディの政略結婚を後押ししていた父親が土壇場で娘の結婚を拒否し、相手と下手な剣術で命懸けの決闘に入るのです。

結果は負傷しながらも父の辛勝。
村の住民たちからの声援もその勝利を後押ししました。
まるでハイジさながらに自然を駆け回り、ペーターの如き羊飼いの少年や
領民の大人たちと親しげに同じ目線で交流する序盤のシーンが上手く昇華されました。
平民宰相ならぬ平民領主でしょうか。

 そのまま主人公が出戻ったところで物語は静かに幕を閉じます。
 作中でも触れられたように次の縁談までの猶予期間のようなものにすぎないのが現実ではありますが、親子のみならず住民たちとも心を触れ合わせた彼らですから、村や一族の事情のみならず結婚する彼女自身の意思も尊重されたでしょうし、そのことがその後何世紀も掛けてようやく果たされた遍く人々の自由恋愛・自由結婚への大きな一歩となったと信じたいところです。
 
 おそらくは歴史の流れの中で夥しい数の女性が自分を納得させた"自己犠牲"の精神の必要性は相応に認めつつも、そこに留まらず"それでも"とメッセージを進めた演出と展開はなんとも現代的だと感服した次第です。



Ⅱ. 監督やキャストについてひとことふたこと

・監督 - レナ=ダナム

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』では
マンソンファミリーの女性の一人として出演。

 ラブコメドラマ『GIRLS/ガールズ』の主演女優として著名。ままならない仕事と恋に悪戦苦闘する姿はまさに本作にストレートに投影されているのかも。

・バーディの父 - アンドリュー=スコット

個人的には『007 スペクター』よりも
BBCのドラマ『SHERLOCK』のジム・モリアーティ役のイメージか。
生え際の後退が気になりはしたけど堂々たる風格で…。

 最後の決闘シーンでおいしいところを持って行った感のある主人公の不甲斐ない父親。
 若い頃は領主として一度は村の財政を立て直した才気があるようで、一面的な単なる飲んだくれではないひとかどの人物であり、妻の難産の際には周囲が死産を認めようとする中、ただ一人母子ともに生還することを信じて疑いませんでした。
 己の自由を追い求めるに留まらないバーディの成長を見るにつけ、その後の治世に微かながらも変化が訪れたことでしょう。

・バーディの叔父 - ジョー=アルウィン

エリザベス1世とメアリー・スチュアートの無いものねだりの
哀しき女の闘争を描いた『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』(2018)では、
マーゴット・ロビー演じるエリザベスの寵臣役。

 主人公の初恋の相手・白馬の王子様である叔父君。
 出演時間的にはさほどでも有りませんでしたが、布教敷衍の大義名分のもとに派兵を繰り返す十字軍での最前線の実情を目の当たりにして人間に失望したところがあるのか、若くして結婚にしろ何にしろ淡々と己に期待される役割を演じる様はなんとも痛ましくもありました。
 とどのつまり、家柄が良く・眉目秀麗・文武両道の男子であろうとも決して自分の思い通りに生きていたわけではない、という一つの表象的キャラクターだったのだと思います。


Ⅲ. おしまいに

 今回はAmazonプライムビデオで独占配信中のハリウッド映画『少女バーディ ~大人への階段~』について書きました。
 あらためて俯瞰すると、世の通例や一族累々の都合に圧し潰されてなるものか、という反骨心が表のコメディ描写の裏にマグマだまりのようにひしひしと感じ取れます。
 海外作品もスターキャストが出ているようなさ作品でもないとなかなか劇場公開やソフト化は難しくなってきたように思いますが、本作のように意欲作を救い上げる役割を配信サービスが上手く果たしていってほしいものです。
 今回はこのへんにて。
 それでは・・・・・・どうぞよしなに。




何故かふと思い出した『ベルセルク』の甲冑千切りのバーボ!!


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