おいしい豆知識が身につく食のセレクトショップ

鎌倉駅西口を抜けて、北鎌倉へと向かう今小路通りにあるフードセレクトショップ「ippin」は、クロが基調のシックな外観と入口のオリーブの木が目印だ。鶴岡八幡宮にも近いため、リュック姿の人や、カメラ持参でゆったりと散歩を楽しんでいる人が多いこの通り。気になるショップをのぞきながら、食材を発見するのもおたのしみのひとつだ。

　「クレタ島は農薬禁止なので、すべてオーガニック。だから、あえてオーガニックと謳ってもいなければ、オーガニック認証マークもありません」
　お目当てのクレタ島のオリーブオイルを手にしていると、代表の中塚智裕さんがそう説明してくれた。通常は飛行機で輸送するところ、船便を使っている。さらにラベルをメーカーオリジナルのラベルにしているので、市場価格で4000円するオリーブオイルが「ippin」では1000円ちょっとで買えるそう。そして、このビッグサイズ。毎日使うものだけに、なんともうれしいコストパフォーマンス！　店一番の人気商品で、リピート率ナンバーワンというのも納得だ。

　見渡すと、店内にぎっしりと並ぶ調味料は、ほとんどがあまり見かけたことのないものだった。どのラベルからもお店の名前通り「逸品」の匂いがする。
　「おいしいものは世の中に普通にたくさんあるんです。だから、『これ、すごい！』と思ったものを置いています」
　中塚さんやスタッフが純粋においしいと思い、多くの人に食べてもらいたいものを、日本だけでなく世界中から取り揃えている。ちなみに食材にデメリットがあれば、それもきちんと伝えてくれる。こういうはっきりとしたスタンスがあるので、お客さんは信頼を寄せるのだ。

　オリジナル商品の「オリーブオイル＆チーズ」は、店主がおいしいリゾットを作りたいがゆえに開発した自信作。熱々ごはんの上にぱぱっとかけるだけで、なんちゃってチーズリゾットが味わえる。パテのようにパンに塗ったり、ディップとして野菜につけたり、色々な用途に使える万能ソースだ。これなら、疲れて帰ってきたときでも食事を作ろうかという気持ちになる（その後、自宅で卵に混ぜてオムレツを焼いてみたら、プロ並みの味付けに）。もしかしたら、「このお店の食材を使えば、忙しい人でも手軽においしく、レベルの高い料理を作れるのでは？」そんな興味とよろこびが頭をよぎり始めた。

　中塚さんの語りは熱い。声が大きくて張りがある。そして、何よりも笑顔がいい。さわやかな熱さなのだ。食べるのが好きで、喋るのが好き。話を聞いてもらえるのがうれしいから、伝えたい気持ちが高まるとアドレナリンが出るそうだ。
　その惜しみないトークは店内に響き渡り、ほかのお客さんの耳にも届く。すると今度は自分も欲しくなる。買い物中のお客さんから、「また重くなっちゃった」と会話が聞こえてきた。あれもこれも欲しくなるが、おいしいものはなぜか瓶入り。買い物カゴは重くなっていくが、このお店にいるとたのしい気持ちがフツフツと沸いてくる。

　「まるごと大豆を食べるドレッシング」も人気商品のひとつ。丹波の黒豆といえば有名だが、希少大豆の「丹波白」を水煮にして使用している。なんと、全体量の50％以上が大豆という濃厚ドレッシング。試食用のスティックに付けた少量のドレッシングだけでも大豆2個分はあるそう。この商品も中塚さんが開発したもので、某有名食品店などへの取り扱いが始まるらしい。

　中塚さんはどんな食材でも調理法をおしえてくれる。研究して、これがいいと思うシンプルな食べ方は、どれも身近にある食材との組み合わせばかり。たとえばレモンのジャムは「キリのクリームチーズと合わせるとチーズケーキのような味わいになりますよ」というように。だから買う前に味のイメージがわいて、購入した調味料は一度使ったきりでその後はずっと冷蔵庫で眠っている……、なんてことにはならないのだ。

　しかもこのジャム、よく見るとラベルがない。「うちの商品。ラベルがなくても売れるんです」、店主の説明があればそれで購入が決まる。お客さんからの信頼の高さが伺えるエピソードだ。
　
　地元客だけでなく、わざわざ富山や宮城といった他府県からのリピーターも多いそう。古都・鎌倉で、観光がてらめずらしい食材を発見するのはたのしい。そして店主から、その魅力がきちんと伝わる説明を聞くと、食べるときにはさらにたのしくなるに違いないと思う。

『ippin』
住所：神奈川県鎌倉市御成13-25
電話：0467-38-7015
営業時間：10：00 ～ 18：30
定休日：水曜日