あなたが思い出置いて旅立っても

たのしい思い出があるほど、つらくなる。記憶が、人をさみしくさせる。

どんなに気持ちが相手に引きずられてしまっても、あの人はただただ遠ざかっていくだけ。

わたしが泣いてわめいても、どん底に陥って何にも手をつけられなくなっても、今日は、1秒1秒、ひたすら積み重ねていって、世の中はちっとも待ってもくれなくて、なんら変わらない明日がやってくるだけ、だれもわたしを気にも止めてくれない。

無情なのね、無常なのよ、と国語の教科書で覚えたフレーズを思い出して、悲劇のヒロインを演じたいだけの自分にふと気がつく。

きっとそんなもん。プツッと糸が切れるときには、突然、すべてが終わる。散り散りになった糸をただ眺めても何かが変わるわけじゃないし、一度切れてしまったら、もう手遅れ、結び直そうとするから、よけいに悲しみが募る。

こういうときの旅立ちは、あの人だけじゃない、わたしの旅立ちでもある。あの人が遠ざかるだけじゃなくて、わたしも遠ざかっていくの。

“あなたが思い出置いて旅立っても 昨日の続きのような人並みの朝は訪れる”