見出し画像

NAVERまとめとVulfpeckとVaporwaveにまつわる思い出

NAVERまとめがサービスを終了するらしい。

本当に困ったときに必要な情報についてはめったに得られないインターネット・オーシャンにおいて、とびきりの有象無象を提供していたキュレーションサイトの閉鎖にはてブ民もTwitter民も大喜びの模様だ。

今となっては笑い話だが、僕の物書きデビューはNAVERまとめであった。結局、書いたのは二記事だけだったが、その二記事も9月30日にはインターネット・オーシャンの深層に沈んで消えるらしいので、それぞれの思い出をつらつらと書いてみる。

謎のミニマル・ファンク・バンド、Vulfpeckの魅力に迫る!

ひとつは2016年10月29日に公開した、ファンク・バンドVulfpeckのまとめ。

当時の僕は学部の3回生で、アメリカのポピュラー音楽を研究するゼミに所属していた。三田祭で販売するゼミ誌の編集長を(少なくとも名目上)していたほか、ファンクやソウルを演奏するバンドサークルに(幽霊部員的な仕方で)所属しており、まぁ、それなりにたのしく音楽を聞いていた。

Vulfpeckは、ある日YouTubeでThe New Mastersoundsを聞いているときにレコメンドされたバンドで、いやはや瞬時にハマった。一聴してスペシャルだと分かるとんでもないバンドだった。

当時Vulfpeckについて日本語で紹介しているものと言えば、indienativeのプレスリリースぐらいだったので、これはなにか書かねばと思い至った次第。同年バカ売れしていたSuchmosのYONCE氏も、ちょうど同じ10月にVulfpeckについてのツイートをしており、一気に知名度を上げたと思われる。ちなみにTwitterで日付指定検索すると、tofubeatsさん、柳樂光隆さん、国分純平さんなんかはもっと前から注目していたらしく、耳の速さにレベチを感じる。

ともかく、当時はobakewebもやっていなかったので、なるべく注目されるであろうプラットフォームとしてNAVERまとめを選んだわけだ。好むと好まざるとにかかわらず、2016年時点の検索順位に関してNAVERまとめはぶっちぎりであった。然るに、僕の書いた記事も2018年ぐらいまでは「Vulfpeck」の検索順位で一位を独走していたことを確認している。

改めて読み直すと、謎にフレンドリーなテンションが鼻につくものの、そんなにわるくない紹介記事なように思われる。いまや「ファンク好きで知らないやつはモグリ」と言って差し支えないほどのバンドになったVulfpeckの、日本における紹介にちょっとでも役だったのならばうれしい限りだ。

その後、2018年にはVulfpeckを含むファンク・ギター史について書いた。我ながら掛け値なしでおすすめできる記事だし、ありがたいことにずいぶんとバズった。

画像1

すげぇどうでもいい余談①は、同じ年にTwitterにあげた「Just The Two Of Usとスーパーマリオブラザーズ地上BGMの親和性は異常」という演奏動画がプチバズしたこと。部屋着とはいえもうちょいアイロンかけなよ、と思う。


Vaporwave A to Z:蒸気波歴史大百科全書

もうひとつは、2017年06月19日に公開したVaporwaveのまとめ。

Vaporwaveについては上述のゼミ誌で取り上げており、勢い余って卒業論文の題材にしてしまった。当時、体系的な仕方でこのジャンルを紹介した記事は見当たらなかったため、時系列順にその発展をまとめてみた次第。

もっとも、僕のハマった2016〜2017年はVaporwave第二次ブーム?といった趣きであった。黎明期の2012年ごろにはハイハイさんやele-kingが熱心に紹介していたが、その辺の話はどっかに書いたはずなので割愛。僕がVaporwaveを知るのにやや先立って、捨てアカさん(現Local Visions主催)がブログ「Living Room Dead」で紹介するなど、謎の再燃を遂げていた時期だ。

そもそもVaporwave関連の情報が錯綜しているからしかたないとはいえ、記事にはいくつか不正確な記述がある(Vektroidの自作自演でVaporwveシーンが生まれた、など)。だが、そのような誤解が当時あったという意味でとくには修正していない。それにしてもNAVERまとめ、読みづらくて仕方がないな。なにがしたいんだこのページ割りは。

まとめ自体はVulfpeckに比べたらぜんぜん伸びなかったのだが、それから数日後にNew Masterpieceから冊子版「蒸気波要点ガイド」がリリースされ、ジャンルの知名度はかなり上がったと見られる。このジャンルのどこにそれだけの求心力があるのかは、いまだに分かっていない。

僕はと言えば、その後、Vaporwaveとグレアム・ハーマンとカンタン・メイヤスーをこねくりまわした卒論を提出して卒業し、「もっとVaporwaveを研究するぞ!」という意気込みのもと、駒場表象に進学した。院試の面接ではだれひとりピンときていない様子だったが、なぜ受かったのかはわからない。それから、やはりなぜかは知らないが分析哲学を専門にしている現ボスのもとに配属され、いまでは(それなりにシリアスな)哲学や美学をやっている。まぁ、Vaporwaveはやめておいてよかったと思っている。

それはともかく、NAVERまとめの記事以降もVaporwaveについてはobakewebでつらつらと紹介しており、2018年〜2019年にかけてはVaporwave関連の執筆やイベントへのお誘いもたくさんいただいた(すっかりVaporwave芸人だ)。具体的には、東京藝術大学の「千住 Art Path 2018」でレクチャーしたり、2018年11月13日のDOMMUNE「蒸気波情報ガイド特別篇」で喋ったり(サブカル相手には一生自慢し続けるだろう)、現代思想2019年5月臨時増刊号の「現代思想43のキーワード」でVaporwaveの項目を書いたり(現代思想のキーワード1/43がVaporwaveとはどういうことだ?)、ユリイカ2019年12月号のVaporwave特集で対談&寄稿したり、上述の冊子を発展させたVaporwaveのディスクガイド「新蒸気波要点ガイド」に寄稿するなどした。

一通り錯乱的なテクストを撒き散らしたあとで、(1)そもそもVaporwaveについて現代思想的にどうのこうのという言説がどこまで気が利いているのかわからなくなったのと、(2)あまり関わり合いになりたくない界隈にまで論壇が拡張したのと、(3)シンプルにすっかり飽きてしまったことから、Vaporwave芸人は引退した。

どうでもいい余談②。昨年、僕のVaporwave与太話を愛読していただいている知人の知人と飲み会をしたのだが、オフラインだと無口なのでそんなに盛り上がらなかった。


あばよ、NAVERまとめ

いかがでしたか? ということで、僕の書いたそれを含む膨大な記事たちは、9月30日にはインターネット・オーシャンの深層に沈んで消える。

無論、全体としてはよいことだと思うので、甘んじて削除されようと考えている。なんらかの関心において、VulfpeckなりVaporwaveについて調べている方がいましたら、いまのうちに読んでおいてください。

かしこ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?