マイナンバーカードの普及はデジタルプラットフォーマーに依らないデータ連携の実現と保険進化のキッカケになるか?

デジタル庁立ち上げでにわかに高まるマイナンバーカード普及の機運

安倍政権から菅政権に変わり、行政手続き上の押印廃止の動きなど、行政のデジタル化が急速に推進されようとしています。
その中でも話題になっているのは、行政のデジタル化をけん引する「デジタル庁」の創設です。
そして、デジタル庁創設に伴い、2020年7月1日時点で17.5%の普及率しかないマイナンバーカードの普及を推進しようとする動きも注目を浴びています。

マイナンバーカードの普及はなぜ必要なのでしょうか。また、普及すると保険業界にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。


行政手続きオンライン化に必須となるマイナンバーカードの普及は時間の問題か

マイナンバーカードを普及させることの一番のメリットは、役所に行かなくともオンラインで行政手続きができるようになることです。

新型コロナウイルスの影響で行政のデジタル化が急務となりました。
コロナ禍で露呈した行政手続きの遅さや連携不足など、潜在化していた課題が明確になったことが要因です。

身近な具体例で言えば、1人当たり10万円が給付された特別定額給付金です。
地方自治体が振込口座を確認するアナログな作業に時間がかかり、給付が遅れる一因となったと指摘されました。
また、保健所等からのコロナ陽性者の報告をFAXで行っていたなど、データを活用した効率性や利便性を追求した視点が不足しているケースも多く見られたとされています。


一方で、マイナンバーカードを活用した行政手続きのオンライン化は、既に実現が見込まれているものもあります。

例えばLINEでは、2021年春にマイナンバーカード内に記録された電子署名を活用するJPKIという公的個人認証サービス開発し、行政サービスや税公金等の公的な支払いをキャッシュレスで行えるサービスを2021年春から提供するとしています。

このサービスが実現すれば、例えば住民票の写しや納税証明書等の書類が必要なときには、各自治体のLINE公式アカウントで質問に回答するだけで、簡単に申請することが可能になります。
書類発行に伴う手数料はLINE Payで支払えるとのことですから、オンラインで書類発行手続きを完結することが可能になるでしょう。


実はマイナンバーは、かねてから普及に向けたロードマップが引かれています。

例えば、「2023年3月末にほとんどの住民がカードを保有する」と菅さんは公表しており、日本の人口1億2千万人への普及が当面の目標となりそうです。
そのために、「健康保険証としての活用」や「職員証や社員証への活用」、「医療保険のオンライン資格確認の導入」など様々な方法でマイナンバーカードの利用拡大を図っています。

ここまで述べてきたように、マイナンバーは行政のデジタル化の肝ですし、ロードマップもひかれていますから、今後確実に普及していくでしょう。
それではマイナンバーカードの普及は保険業界にどのような影響を与えるのでしょうか?


マイナンバーカードをキーとしたデータ連携効果

保険業界においてデータ連携を実現しようとする時、一番の課題は「データを連携する際のキーとなるIDがない」ということでした。

保険会社の顧客IDがその役割を果たせば一番よいのですが、残念ながら保険会社の顧客IDはそこまで利用されていないのが現状です。
まず保険会社の顧客IDの利用を開始している顧客がそこまで多くいません。顧客IDは通常、契約成立後に発行されますが、顧客は契約を申し込んだ時点で安心してしまい保険からの関心が薄れてしまうため、顧客IDのことも忘れられてしまうからです。
また顧客IDの利用を開始したとしても、利用するシーンが少ないため、ID・パスワードが忘れられてしまうケースも多いです。

顧客に浸透している別のIDを基軸にする手も考えられますが、そのようなIDはGoogleやFacebookなどデジタルプラットフォーマーが提供しているものに限られます。
もちろん、そういったプラットフォーマーと連携できればよいですが、データの主導権を握られてしまうことは間違いありません。

もしマイナンバーカードが統合IDとして日本全体で普及してくれば、デジタルプラットフォーマーに依らずマイナンバーカードを基軸に保険業界と他業界のデータをつないでいくことができます。

日本国内で保険会社を主体として衣食住・運動・医療データなどをもつ様々な企業と連携することができれば、個々人のリスクに最適化された全く新しい保険商品の開発にもつながるかもしれません。
また、病気になったときや自然災害にあったときに、その情報が自動で保険会社に連携されて速やかに保険金が支払われる未来も実現できるかもしれません。


滑らかな顧客体験/業務体験の実現でマイナンバーカードの活用を推進

今後、保険業界において求められるのは、マイナンバーと契約者の紐付けです。
その際、ポイントになるのは「滑らかな顧客体験/業務体験の実現」です。

例えば、冒頭でも取り上げた10万円の特別定額給付金の給付の際にも、マイナンバーの活用による行政手続きの簡略化は図られていました。
申請手続きは簡略化されたのですが、マイナンバーと口座情報が紐付いていないため、役所における手作業での口座情報の確認業務が大変な時間を要してしまいました。
この例からも分かる通り、マイナンバーの普及や活用には、顧客側の手続きの流れだけでなく、マイナンバーの利用を受けて作業する側の業務の流れまで含めて、顧客体験/業務体験の両方が滑らかになるように設計することが重要です。

将来、顧客にマイナンバーと契約情報の紐付けを促すことを見据えて、保険業界に携わる人自身がマイナンバーカードの利用者となって積極的に活用を進めたいところです。
保険業界全体でマイナンバーの活用を推進し、新しい行政そして保険業界の未来をつくっていきましょう。


※本記事は保険毎日新聞に寄稿した内容を再投稿したものです。保険毎日新聞からは許可をいただいています。

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