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新しいデザインはしない、というデザイン

2017年10月マルマン株式会社さんより、「図案スケッチブックの60周年ロゴ」のご依頼いただきました。私はこれまでマルマンさんのスケッチブックやノートをたくさん使ってデザインしてきましたので、大変うれしいお声がけでした。

■ご依頼内容と完成したデザイン

メールを頂いてから数日後、中野坂上にあるマルマンさんの本社に打ち合わせに伺いました。そして、周年ロゴを作る目的として、

・60周年を迎えたことを往年のファンに伝える。
・新しいユーザー層に図案スケッチブックを知ってもらう。
・スケッチブック表紙に60周年ロゴを表示し、記念商品として発売する。

という点をご共有頂きました。

ワクワクしながらデザインをスタートし、さまざまな検討経て完成したのがこちらです。

この写真を見ると、今までと変わらない図案スケッチブックのデザインに、「Sketch Book」と似た文字で「60th」と載せただけに見えるかもしれません。これは果たして周年ロゴデザインと呼ぶべきかどうか、デザインを担当した自分でもなんとも言い難いものです。店頭などでは「ロゴ」として認識されない方も多いのではないかと思います。しかし、商品としてみた場合、図案スケッチブックによく馴染んだものになっているのではないでしょうか。

なぜ、このようなデザインに至ったのか、その経過をご紹介します。


■デザインのプロセス

まず、ご依頼内容を理解し、たくさんのスケッチをしながら、

色々な方向性のロゴデザイン案を考えました。

スケッチブックの表紙にロゴを入れるとどう見えるか同時に検証しました。


■小さな違和感と採用案のデザイン

これに決まっても大丈夫だろうと思える、いくつかの提案候補はできました。しかしながら、周年ロゴとは言え、長く愛されてきた図案スケッチブックの表紙に、新しいデザイン要素を足す、ということに私はどこか違和感を感じていました。それだけ、このデザインは完成度が高く、どこまでも大切に扱いたいと感じたのだと思います。

もし、自分が消費者の立場で、図案スケッチブックが好きで買い続けているファンだとしたら、デザインの良さはずっと変わらないでほしいと思うだろうなと考えました。また、スケッチブックというものは購入したあと長く使い、使い終わってからは大切に保管し、たまに見返しあれこれ思い出すこともある、その人にとっては「記憶のタイムカプセル」のような存在になっていくものです。そのような存在にふさわしい佇まいとはどのようなものか、図案スケッチブックのデザインの良さを生かし、素直な形で60周年を伝えるようなデザインはできないだろうかと考えを巡らせました。

そのシンプルな答えが、もともとちぎり絵でつくられた「Sketch Book」の文字のデザインを引き継いで、60thの文字をちぎり絵で作る、というものでした。これには60年前に、オリジナルのデザインをマルマンさんに持ち込みで提案された奈良部恵三さんへの尊敬の念も込めています。画面で検証してみると、当然ながら、その他のロゴ案より自然にしっくりと馴染みました。マルマンさん社内でも、異論が出ることなく採用に至り、「図案スケッチブックによく馴染み、周年商品として欲しくなる魅力がある」とのコメントを頂きました。

振り返ってみると、当初のデザインゴールは「60周年ロゴをつくること」でしたが、検討を重ねる中で「60周年記念スケッチブックのデザイン全体を考えること」へと意識が変わってきたのだとおもいます。


■デザインの目的と手段

今回のプロジェクトでの学びとしては、ご依頼内容を少しはみ出しても、企業や商品・サービスを訴求する上で、本当に大切だと思うことは提案してみる姿勢が大切ではないかといことです。ロゴやパッケージ、ポスター、WEBなどのデザイン成果物は、何かしらの目的を果たすための手段の一つにすぎません。目的を果たすために本当に効果的なアウトプットは何か、各々のブランドが置かれた状況に応じて、ご依頼範囲を超えて検討する必要があると思います。それは目に見えるデザインですらなく、時にお客様に対する振る舞いのデザインのようなものでもいいのかもしれません。そのようなアウトプットを検討するには、クライアントとデザイナーの信頼関係と、柔軟な意思決定が大切と感じました。

そして、図案スケッチブックのようなロングライフ商品の場合、そのデザインに変化を加えるというのは大きなチャレンジとなります。進化がなければ飽きられ、変化が大きすぎれば受け入れてもらえないものだと思います。そのさじ加減はとても難しいものです。私は今回、60年という長い歴史の中の一瞬に関わったにすぎませんが、次世代にバトンを繋げるようなイメージでデザインを担当しました。その商品の歴史や良さをあらためて見直し、新しいデザインはしない、という意思や選択もまたデザインと言えるのではないでしょうか。

そうして完成した60周年記念スケッチブックは、2018年5月から全国たくさんの文具店、雑貨店などで展開され、ご好評をいただいています。今後も図案スケッチブックが多くの人にとって、大切な存在であり続けることを願っています。


「図案スケッチブック誕生60周年」特設サイトはこちら!

※スケッチブック表紙のロゴ以外に、店頭プロモーション用のロゴ(上記のバナーに使われているもの)もご採用いただきました。詳しくはこちら!

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小野圭介 / ONO BRAND DESIGN

デザイナー/ONO BRAND DESIGN代表/ランドーアソシエイツを経て独立/共著に「ロゴデザインの現場 事例で学ぶデザイン技法としてのブランディング」(MdN)/北海道生まれ、埼玉・長野育ち、東京在住。http://ono-brand-design.com/

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コメント1件

ご依頼内容を少しはみ出しても、企業や商品・サービスを訴求する上で、本当に大切だと思うことは提案してみる姿勢が大切
にすごく共感しました。
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