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いちばんすきな花

その四人が正解なのか、間違いなのか、分からないけど、私にとっては間違いなく救いだった。

美鳥にとっての四人がそうであったように、いちばんすきな花も、間違いなく誰かの救いとなるドラマだった。

これからもこの物語が終わらない感覚を、映像へ刻み込んだ美しい終幕。居場所を探してウロウロしていた四人が出会って、三人がいる場所が帰る場所になった

他人の気持ちを想像しては悲しくなってしまうゆくえ、いつの間にか無個性のいい人になっていた椿、他人に価値を決められ続けてきた夜々、余りものを見つけて自分が余りものにならないようにしてきた紅葉。四人ともどこか自分のように思えてきてしまうから不思議だ。それはおそらく、脚本家の生方美久氏が誰もが見失ってしまいそうになる感情の機微を丁寧に拾い取り、常に人間を描こうとしているからだろう。

「勘違いされる人生だった」と話す、美鳥もまた、私たち視聴者の心の中にいる一人だった。

計算尽くされたシナリオ

三話、「外観は僕が気に入ったのがキッカケなんで」
二話、「数学、俺けっこー好きでした。苦手ぶってましたけど」
四話、「どっかの従兄弟のお姉ちゃんみたいにならんでよ」
一話、「いつでも会えると思ってちゃダメだね」

これらが全て後に判明する"みんなの美鳥ちゃん"へ繋がるセリフとは誰が予想できただろうか。どんなにIQの高い天才でも読み解くのは不可能だろう。「silent」もそうであったように生方美久氏の作品はこういった緻密な書き込みがいくつも存在する。例え、一話や二話の段階でその一片が見えなくとも、「そんなところで足を止めるな、助走にすぎない、いいから黙って着いてこい」と言われているような気持ちさえした。


円環の物語


そして、いちばんすきな花の美しい円環。
椿が美鳥に教えた将棋は、そのまま夜々へと受け継がれていく。椿から美鳥へ。美鳥から夜々へ。

夜々に振る舞ったロールキャベツは椿の母、鈴子から教わったもの。鈴子から美鳥へ。美鳥から夜々へ。

間違えて買ったからと希子が朔也にあげたココアは、希子もゆくえからもらったもの。間違えたと言いながら同じココアを飲む希子を見てやさしく微笑む朔也。
ゆくえから希子へ。希子から朔也へ。

夜々に教えるのが上手いと言われた美鳥は塾講師になり、ゆくえと出会う。学校嫌いな他の先生に任せるというゆくえの言葉から高校の教師となり、紅葉に出会う。

「人から教わったものが、また他の人に繋がっていくのって面白いなあって」
誰かの言葉がその人の人生を動かしてしまうほどの大きな力を放っていることがある。それはプラスの意味もあるがマイナスな意味も含んでいる。

でも間違いなく、この作品に登場する言葉は誰かの背中を押してくれたはず。私もこの台詞に背中を押された。

「勘違いされる人生だったけど、だからこそ、間違いないものがよく見えた」
時々、何故こんなに生きづらいのだろうと思う。
何度、勘違いをされたら、もういいやと思わないのか。
どうしようもなく、悲しくなるときはあるが、「それでも、この世界を生きていこう」と思えるような喜びはある。この作品に出会えたこともその一つだ。

きっと、この作品を最後まで追い続けてきた人たちは私と同じようにこの作品が好きだし、たとえ誰がなんと言おうと、私はこの作品が大好きだ。

2024年もまた、そんな作品に出会えますように!

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