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9月の記録

眠い目でぼんやりと見る空はまだ暗かった。季節は着実に進んで、時間が経っていた。

8月から始めた勉強は、ほどほどに進めている。やってよかった。
長い通勤時間も、たまにある平日休みの日も、何かしら有意義なことができていると思えた。

今月は前の職場の関係者2人から連絡を貰った。ひとりは部活で1年間活動を見守った生徒で、ひとりは私の教科の上司だった。

もう教室に行きたくない、保健室に登校したい、でも先生にも家の人にも言えない。
私はそんな連絡を貰いながら、ふたつのことを考えていた。
ひとつは私の受け持っていたクラスにいた不登校気味の女の子と連絡を取ってくれていた退職された先生のこと。もうひとつは教員の研修会で聞いた「学校は生徒教職員ともに心身の安全性が約束された場所であるべき」という言葉。
なんだか長くなってしまいそうだけど、これは記録だから思ったことをそのまま長々書こうと思う。

私の受け持っていたクラスには不登校気味の生徒が何人かいたが、そのなかでも彼女は特別苦しんでもがいていたように思う。
学校を退職されている先生にも連絡を取って、進路についていろいろ伺っていた。
現実的に彼女の出席状況はとても厳しく、卒業が危ぶまれる状態で、希望する進路に向けた成績も伴っていなかった。
担任をしていた私は、希望を持つことはいいことだ、とは言いきれなかった。
別に退職された先生だけじゃない。塾の先生や、進学校の友だちや、校内の先生などいろんな人から聞いた話やアドバイスを彼女は数えて、希望を伝えてきた。
彼女の「したい」は、すべて周囲がそうだから、周囲にこう言われたから、が理由のように見えた。
それが理由でもいいはずだ。でも、いくらもともと親しかったとはいえ、いま、連絡を取り合うことしか出来ない身で彼女に接することは、ひどく無責任に思えた。彼女が話す相手がいることはいいことだと思う気持ちはあったけれど、きっと私はあの時、正直に言ってしまえば、退職された先生の連絡を疎ましく思っていた。

自分がその立場になって気をつけたことは、傾聴と共感だった。提案はしなかった。
それが良かったのかどうかは分からない。
また何かある度連絡が来てしまうのかもしれない。
でもその子は悩んでいた実習に参加したと伝えてくれた。それでひとまず良しとした。
もし、私がいまもあそこで働いていたなら。
担任の先生か学年の先生に伝えて、部活のあと少し一緒にいて、それで居場所を作ろうと頑張ったと思う。それが正解かも分からない。
学校という場所がひどく暗く見えた。

もともと私は学校が好きだった訳ではない。
そんな教員がいてもいいと、いや、そういう人もいないといけないと思っていた。
だって、学校に通う生徒だって同じような人がいるだろうから。
だから、研修会で聞いた「学校は生徒教職員ともに心身の安全性が約束された場所であるべき」という言葉は、確かにそれは前提としてあるべきだと思うと同時に、無理だろうとも思っていた。
学校だけじゃない。
本当は家庭も、職場も、スーパーも、道路だって、心身の安全性が確保されているべきだ。
日本という世界的に安全な国で何を言うかと言われてしまうかもしれないけれど、そういう話ではないと思う。
私の大学の友人が、何人も休職したり退職したりしている。私だって同じかもしれない。
もし、辞めることが出来ていなかったら。教員がうつ病になってしまったという発信を見る度に思う。それは私だったかもしれないと。
私たちは健康だから、若いからという理由で簡単に人を大変なところに送り出してしまっているのではないか。
つらつらと、そんなことを考えた。

もうひとり、教科の上司は、電話掛けていいか連絡した7時間後に電話をくれた。
何の要件か、いつ掛かってくるのかまず伝えて欲しいと思いながら話を聞けば、深刻な教員不足だった。
断らざるを得なかったけれど、あの後先生はどうしたのだろう。
ニュースが伝える教員不足の話題より、現場はもっと深刻だと思った。先生の話によれば、ふたり現場から離れてしまう先生がいるとのことだったが、ひとりの説明に「病んでしまって」と言っていた。
その言葉が粘度と質量を持って、生々しく心に滑り込んできた。

いろんなことを考えている。
もっと安全な居場所を作れないのだろうか。
大学の卒業式の少し前、一緒に梅の花を見た友人のことが心配で、文通をしようと提案したけれど、できるか分からないと断られてしまった
こと。たぶん謙虚で気を遣いすぎているだけだろうけれど、やりたくない気持ちもあるかもしれないとそれ以上踏み込まなかった。
そして人づてに、精神的に苦しくなって、連絡も出来ない状態になったことを知った。

そんなに強くない。そんなにできない。
そんな思いを認め合いたい。
8月のお休みのあと、みんなは大丈夫だっただろうか。
どうか良く眠れていますように。
祈りながら見る空はうっすら青空の透けた曇で覆われていた。

追記
職場で答えたアンケートが高ストレスとなって、面談を希望するか尋ねる文書が届いた。
任意では意味はないのではないかと思う。



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