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祖母のターコイズブルーとわたしの水色

今は手元にないけれど、人からもらったものでずっと記憶に残っているものがある。幼馴染からもらった赤い砂が入った小さな砂時計。スーパーについていく度に両親にねだったお菓子についているおまけのペンダント。祖母にお祭りに連れて行ってもらって、そこで買ってもらった小さな水色のキラキラが埋め込まれたハート型の指輪。

どれも、実家においてきてしまったのか、どこかにはあるのか、探しても見つからない。けれど、もらったとき、それを眺めているとき、わたしは確かに幸せで、思わず笑ってしまうくらい嬉しかった。

半年ほど前に、進学で離れて以来初めて地元の祭りに行った。コロナ禍で2年ほど中止になっていた祭りがどうなるのか、リフォームした実家はどうなったのか見てみようと思ったからだ。

現在私の実家には母と妹と猫が2匹住んでおり、隣の家に祖母が1人で住んでいる。祖父は私が高校生のときに他界し、父は単身赴任で海外にいる。実家に着くと母が仏間に浴衣を干していて、母と妹と3人で祭りに出かけることになった。

花火が始まる前に屋台を見ようということになり、夕方に出かけた。家族と祭りに出かけることなんて本当に久しぶりだった。久しぶりに見る地元の屋台はあまり変わらないようでいて、見慣れない屋台があったり、懐かしい屋台がなかったりした。コロナ禍の影響なのだろうか。時代の変化なのだろうか。ふと顔をあげた先にはアクセサリーを売っているお店があった。

銀色のチェーンをつけたお兄さんが、キーホルダーを一生懸命に選んでいる少年を見ている。その瞬間、ふっと懐かしい気持ちが胸に広がった。そうだ、夕方だった。照明に照らされた指輪に埋め込まれた水色のキラキラしたストーンが一つひとつ輝いて、すごく魅力的に映った。さりげなく屋台を覗いたけれど、そこにあるのはシルバー系のアクセサリーがほとんどで、十字架やスカルのモチーフが多く目についた。そっと離れて考える。どうして私はそもそもなぜ祖母と祭りに出かけたのだろう。

小学生の頃から、祭りには友だちと行っていた。3年生のとき、おたふく風邪にかかってしまい、父に「祭りに行きたい」と駄々をこねて、結局連れて行ってもらえなかった記憶がある。もっと前か。その頃祖母はまだ家の隣に住んでいなくて、新幹線で片道3時間くらいかかるところを年に何度か来てくれていた記憶がある。

実を言えば、そのとき私は祖母のことが少し苦手だった。おしゃべりで、ずけずけした物言いをして、噂話が好きで、ファッションが少し奇抜で。最寄り駅から我が家に向かってくる祖母が、膝くらいまであるショッキングピンクのコートを着て、まだ遠いのに私の名前を叫んだことを覚えている。ぎょっとして少しの間立ちすくんだような気さえする。

それでも祖母が私をすごくかわいがってくれていたことも事実で、手編みのセーターをもらったり、私が着ていたターコイズブルーのセーターを「良い色だね」と褒めてくれたり、小学校のマラソン大会を見に来てくれた記憶がある。

自分の気持ちに素直に向き合うことは難しい。今思い返せば、私は祖母のことがすごく好きだったのではないかと思う。若々しく自由でまっすぐ。私たちが聞くのは祖母の近所の人たちの噂話ばかりだったけれど、祖母がその人たちに話していたのは私と妹のことばかりだったようだ。普段会うことのできない祖母と、2二人で祭りに行く。祭りの屋台で売っているものではあっても、おもちゃでもおまけでもないアクセサリーを自分だけに買ってもらったこと。きっと私はそのことが、何より嬉しかった。

最近になって祖母に、ターコイズブルーのカーディガンをプレゼントした。祖母は「良い色だね、私の好きな色だ、センスがいいね」と喜んでくれた。その姿は少し小さくなって、話す内容に体の不自由が増えたことによる愚痴も増えた。それでもその指にはいくつも指輪が光って、私の近況を嬉しそうに聞いてくれる。おしゃれで話好きなところさは相変わらずだ。

贈り物を選ぶとき、相手はどんなものが欲しいか、何をもらったら喜ぶのか考える。しかし家族に贈り物をするとき、私は友人にするときにはあまりしない苦戦を強いられる。年代が違う。性別が違う。生活スタイルが違う。趣味が違う。いろいろ知っているはずなのに、いや知っているからこそ、この贈り物でいいだろうかと不安になる。そして、選びに選んで決めた贈り物は、その思いも相手に届けてしまうようだ。

私は祖母から贈られた水色の石が埋め込まれた指輪を失くしてしまったが、それでも残ったものがある。それは、そのときの思い出と、その指輪を手にして幸福だった記憶、そして祖母に愛されているという実感だ。

手元にないことは悔しいが、今でもはっきり覚えている。銀色でハート形の土台。少し重たくてハートのとがったところは指輪をつけた指に跡を残してしまう。リングの部分は調節ができるようになっていて、大きくすると輪が途切れること。何よりハート型の土台にはいくつもいくつも小さな水色の丸い石が埋め込まれていて、角度を変えるとキラキラと輝いたこと。少ししてそのキラキラが1一粒取れてしまってすごく悲しかったけれど、それを母が見つけて直してくれたこと。数か月後に来てくれた祖母が、私がその指輪をしているのを見て嬉しそうに笑ったこと。私はその指輪をとても大事にしていたこと。

私が祖母に贈ったターコイズブルーのカーディガン。祖母が私に買ってくれた水色の石が埋め込まれた指輪。どちらも素敵な贈り物だと思う。


💡 本記事はSHElikesの受講生を対象とした「Webライティングコース」の提出課題です。添削をもとにリライトしました。

テーマ:「家族と贈り物にまつわるエッセイ」


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