見出し画像

秘密保持契約に暴排条項は必要か?

先日、法務スタッフに取引先から提示された秘密保持契約のレビューをお願いしたところ、反社会的勢力の排除条項が入っていませんが修正すべきでしょうか?と相談にやってきました。

どう思う?と切り返したところ、「うちは上場企業で暴力団排除の方針を掲げているので、暴排条項は必要だと思います」とのこと。はたして秘密保持契約には本当に必要なのでしょうか?

反社会的勢力排除条項とは?

まず、反社会的勢力とは、暴力団、暴力団員、暴力団準構成員、暴力団関係企業、総会屋等、社会運動等標ぼうゴロまたは特殊知能暴力集団等、その他これらに準ずる者のことをいいます。

取引先が反社会的勢力でであることが判明した場合には契約を解除することで、反社会的勢力とは一切の関わりを持たない姿勢を対外的にも示すことができるでしょう。たとえば、東京都の暴力団排除条例18条2項では、事業者が事業に関して契約を締結する場合には、

①相手が反社会的勢力であることが判明した場合、契約を解除できること
②相手の再委託先が反社会的勢力の判明した場合、相手に対して、再委託との契約の解除や必要な措置を講じるよう求めることができること
③相手が再委託先との契約解除や必要な措置を講じることに応じない場合には契約を解除できること

を規定するよう努力義務を定めています。なお、努力義務ですから、契約書にこれらを盛り込まなかったからといって条例違反ではなく、罰則などはありません。

【東京都暴力団排除条例より抜粋】
第18条 (事業者の契約時における措置)
1 事業者は、その行う事業に係る契約が暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる疑いがあると認める場合には、当該事業に係る契約の相手方、代理又は媒介をする者その他の関係者が暴力団関係者でないことを確認するよう努めるものとする。
2 事業者は、その行う事業に係る契約を書面により締結する場合には、次に掲げる内容の特約を契約書その他の書面に定めるよう努めるものとする。
① 当該事業に係る契約の相手方又は代理若しくは媒介をする者が暴力団関係者であることが判明した場合には、当該事業者は催告することなく当該事業に係る契約を解除することができること。
② 工事における事業に係る契約の相手方と下請負人との契約等当該事業に係る契約に関連する契約(以下この条において「関連契約」という。)の当事者又は代理若しくは媒介をする者が暴力団関係者であることが判明した場合には、当該事業者は当該事業に係る契約の相手方に対し、当該関連契約の解除その他の必要な措置を講ずるよう求めることができること。
③ 前号の規定により必要な措置を講ずるよう求めたにもかかわらず、当該事業に係る契約の相手方が正当な理由なくこれを拒否した場合には、当該事業者は当該事業に係る契約を解除することができること。

秘密保持契約にも反社会的勢力排除条項を入れるべき、という考えはこうした都道府県条例を根拠にしているものと考えられます。

また、上場会社では、証券取引所から反社会的勢力排除に向けた体制整備が求められますから、基本的には反社会的勢力排除に向けた体制整備がなされているはずです。体制づくりの一つとして、上場企業では各種契約雛形には反社会的勢力排除の条項入りの取引基本契約書や覚書などが準備されています。

秘密保持契約に暴排条項は必要か?

暴力団排除条例でも努力義務として課されており、上場企業では反社会的勢力排除に向けた体制整備が求められるから、秘密保持契約書に暴排条項がないときは追記しておいた方が望ましいのかもしれません。

しかし、暴排条項の趣旨に立ち返ってみると、はたして秘密保持契約で暴排条項が必要なのかどうか、疑問もあります。

暴排条項は、相手が反社会的勢力であることが判明した場合に取引を解消することを主眼においた条項ですが、秘密保持契約を締結する場面の多くは、取引に先立ってお互いに情報交換して取引を行うかどうか検討するときに用いられます(M&Aなど)。途中で、取引の検討が終了した場合には、情報交換がなくなり、開示した秘密情報の返還、削除などの措置が講じられます。

個人の見解ですが、相手から提示された秘密保持契約に暴排条項がない場合で、かつ、そのほかの条項にも加筆・修正を要しないときは、暴排条項を追記していません。

なぜなら、秘密保持契約では開示者側が秘密情報を開示する義務もなく、万が一、相手方が反社会的勢力であることが判明した場合には、秘密情報の開示を中止し、契約に基づいて開示した秘密情報の返還または削除を求めれば足りるからです。

また、秘密保持契約は、民法上は非典型契約とされていますが、本質的には準委任契約と考えられます。契約条項があればそちらが優先的に適用されますが、基本的には秘密保持契約の目的が達成すれば、契約当事者はいつでも契約を終了させられると考えるべきでしょう。

さらに、スピード感をもって案件を進めようとしている段階で、あえて暴排条項を追記してドラフトを1往復させる時間がもったいないと考えます(実際、ドラフトの往復には企業によっては1週間くらいかかる時もある)。

ちなみに、取引先が反社会的勢力に該当するかどうか疑わしい事情が出てきた場合には、暴力団追放運動推進都民センターなどに相談する手段が考えられますが、相談員の方から取引先との契約書の写しを持参するように指示され、暴排条項があるかどうかを確認されることがあります。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?