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性器がおでこにあればいいのに。

「肉体的な関係」

僕は26年間女性と肉体的な関係を持ったことがない。「肉体的な関係」という言葉は、至って精神的な意味合いを持つ。と思う。俺は言い切れる。
でなければ、手を繋いだり、ボウリングでストライクを決めた際に行われるハイタッチ、店員とお釣りを受け渡しする際の接触等も「肉体的な関係」に含まれてしまう。
「肉体的な関係」というのは、「心の奥底から通じ合ってます感」の意味合いが強いように思える。風俗店に行って、「お店の女性と肉体的な関係を持った。」と言う人間を見たことがない。ちなみに僕は風俗店にも行ったことがない。理由は「肉体的な関係」を装っておいて、実際には「肉体的な関係」ではないからだ。

「お前らSEXだろ!?」

SEXには愛が必要だと、26歳童貞の僕は声を大にして世の中に言い放っていきたい。
SEXと書いたら少し緊張してきた。
お金を払って「肉体的な関係」を装うよりも、本当に好きな女の子と手を繋いだ方がSEXだと僕は思う。それこそが「肉体的な関係」だ。
触れなくても「肉体的な関係」というものはある。僕は現在病院の中の売店でバイトをしている。看護師が大勢買い物に来る。休憩時間が被ったのか、男女二人で店にやって来る看護師が多々いる。それを見ただけで、「お前ら付き合ってんだろ!」とはならない。男女二人が肩を並べているだけで、カップル認定するのはかなり遅いと去年の暮れに気が付いた。僕はガキではない。
先日やって来た男女。女性の看護師が小さな弁当を手に取ってレジの方向へと足を進めようとしたその時、男性の看護師が「それで足りる?」と低いトーンで言った。その瞬間SEXだと僕は思った。
「それで足りる?」という発言は、意外と言えない。下手すると「私の何が分かるの!?」と言われてしまう可能性がある。また、「お前もっと食べれそうじゃん」という発言にも聞こえかねない。失礼に当たる可能性がある。
食欲というのは、日々変動するものだ。胃袋のキャパシティ、ストレス状態等々のことを把握していないと「それで足りる?」なんて言えない。

「お父様、僕たちSEXなんです!」

例えば僕に彼女がいて、彼女の両親と飲食店に行ったとする。緊張感漂う食卓。当たり触りのない会話をしている最中に食事が運ばれて来る。お父様は、焼き魚定食Aセット。白米と玄米で玄米を選んでいた。お母様は野菜炒め定食Bセット。白米を選んでいた。僕はお父様と同じ焼き魚定食Aセット。白米を選んだ。本当は肉を食べたかった。お父様が選んだ焼き魚定食Aセットはこの店で一番安価なものだった。お父様は本当に焼き魚が食べたかったのだろう。仕方がない。親子って似るんだな、彼女にも似たところがある。気が回らない。
彼女の前に運ばれてきた豆腐ハンバーグご膳は、実に小規模なものだった。メニューに載っていた写真と大差はないが、実際目の前にしてみると小さい。
「それで足りる?」
咄嗟に僕は言った。緊張感のある食卓が、一気に僕と彼女が暮らす家のリビングの雰囲気になった。
二人の世界観をご両親に見せつけてしまった。お父様の前で彼女を「お前」呼ばわりするよりも最低な行為だと思った。
僕はご両親の前で彼女と「肉体的な関係」をアピールしてしまったのだ。

みたいな。みたいなことだと思う。
因みに、コンビニに来たその男女は付き合っていた。
バイト帰りに手を繋いで歩ているのを見た。少し追いかけてもなお、まだ手を繋いていたので間違いはない。

「肉体的な関係を匂わせるな!」

「肉体的な関係」というのは、ベッドの外に持ち出すことが出来る。もっと正確に言うとすれば、「肉体的な関係」を匂わせることが出来る。
僕が何を言いたいかというと、「匂わせんな!」というこの1点。
僕は知らない男女の「肉体的な関係」を見るとイラっとする。外側から見る内輪ノリというのは滑稽でしかない。「知らねえよ!」だ。カップルとは内輪ノリの最たる例。家の中でやれば良い。

駅のホームのベンチで必要以上に顔を近づけて喋るカップル。
街中で抱き合い見つめあうだけのカップル
コンビニで彼女に向かって「それで足りる?」と聞く彼氏
自分の後ろに並ぶ彼女の品物を取って、レジにて「一緒で。」という彼氏。それを見て当たり前の顔をしている彼女。店から出ていく時、「あとで返すね。」「いやいいよ。この前の分。」という公共の場で二人にしか分からない会話をするお前ら。
総じて「知らねえよ!」なのである。

「顔面と性器の距離についての違和感」

先日アダルト動画を見ていた時、ふと思った。突然思った。
「性器はおでこにあった方が良かったんじゃないか」と。
ここからは至って生真面目な話になる。
正常位を見たときに思った、「遠っ!!!!」と。

「表情」というのはSEXでは非常に重要なものとなる。
自分が今あなたによってどれくらい興奮をしているのか、あなたをどれ程愛しているのかを伝えるための最も効果的な手段と言っても過言ではない。
例えば目の前に2つのおっぱいが突然現れたとて、すぐさま揉みに行く男はいない。いたとしたらそいつには愛がない。
「誰のだよ!!!」
と即座にツッコむのが一般的かと思う。
重要なのはおっぱいではなく、誰のおっぱいか。
誰彼のおっぱいでも良い、とにかくSEXが出来ればと思うのであれば、それは「肉体的な関係」とは言えない。至ってフィジカルな話で、スポーツに分類されるタイプのSEXになってしまう。

刺激の原因は「下半身」にある。
その刺激をどう感じたかを伝えるための表情、思いやりの部分は「上半身」にある。
「性器」と「顔」の距離が遠すぎるのではないだろうか。」

凄い下の方で行われていることが気持ちよいのに、それを上の方で伝達されても、なんか物凄い時差を感じる。
僕は「性器」より「顔」を自分だと思っている。それと同じであなたのことを思う時、そこにあなたの性器は含まれていない。
遠くの方で行われている我々の野生的な刺激。目の前にいるあなたに愛を込めて「ああん。」などと言われても、実感が沸かない。
男も女もおでこに性器があったら良かったのにと思う。

「匂わせるというか、もうSEXですな。」

おでこに性器があった場合、「肉体的な関係」を匂わせることは不可能になる。前面に出る。二人は「肉体」になる。
おでこから恥ずかしげもなく性器をぶら下げた彼氏が小さな弁当を取った彼女に「それで足りる?」と聞いたとて、こちらとしては「そうですな。」であり「知らねえよ!」とはならない。誰がどう見ても分かる。お前らは愛し合っていると。見ていて気持ちが良い。応援したくなる。内輪ノリどころの話ではない。
風俗店に行く男達は、店に行く前からおでこについた性器を奮い立たせているだろう。そこに愛はない。これから初デート、待ち合わせドキドキ、遠くから彼が歩いてくるのが見える、あれ?おでこの性器が物凄いことになっている、きも。帰ろ。という判断をすることも出来る。
「肉体的な関係」のみを必要としている男達を事前に避けることが可能になる。

本当に相手のことを愛していて、それでいておでこの性器がそそり立っている男性がいたらどうしようかと考えた。それは見分けるしかない。今と何も変わらないじゃないか。
そんなことを考えながら今、カップラーメンを食べている。食べながら書いている。麺をすする時に性器が邪魔だなと思った。


この記事が受賞したコンテスト

落合諒です。お笑いと文章を書きます。何卒よろしくお願いします。