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レビヤタンシステム 第2講 Alligator

第1講ではAwesome Oscillatorについて解説した。
この講ではAlligatorを取り上げる。第3講でFractalsを解説し
第4講でこれらすべてを組み合わせる手法を具体的に紹介する。

レビヤタン (לִוְיָתָן) とは、旧約聖書で言及されている海獣である。
人口に膾炙かいしゃしているのは『ヨブ記』40~41章の記述だろう。

お前はレビヤタンを鉤にかけて引き上げ
その舌を縄で捕えて
屈服させることができるか。
お前はその鼻に綱をつけ
顎を貫いてくつわをかけることができるか。

彼がお前と契約を結び
永久にお前の僕となったりするだろうか。
お前は彼を小鳥のようにもてあそび
娘たちのためにつないでおくことができるか。
お前の仲間は彼を取り引きにかけ
商人たちに切り売りすることができるか。

勝ち目があると思っても、落胆するだけだ。
見ただけでも打ちのめされるほどなのだから。
彼を挑発するほど勇猛な者はいまい。

誰が彼の身ごしらえを正面から解き
上下の顎の間に押し入ることができようか。
誰がその顔の扉を開くことができようか。
歯の周りには殺気がある。

この地上に、彼を支配する者はいない。
彼はおののきを知らぬものとして造られている。
驕り高ぶるものすべてを見下し
誇り高い獣すべての上に君臨している。

巨大なウミヘビや竜の姿で描かれることも多いが
実際にはレビヤタンとはワニのことである。

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ビル・ウィリアムズが開発したAlligatorにちなんで
この手法を「レビヤタンシステム」と名付けた。
厳密には、alligator はワニはワニでもフロリダあたりで
公園や住宅の裏庭にコソコソ出没する小型のワニのことで
レビヤタンはアフリカやエジプトにいる巨大なcrocodileのことだが。

さて、Alligatorというインジケーターであるが
見たところ移動平均線に似ているが、その実全く異なる。
移動平均線は、線形物理学の産物で、アリストテレス的で
ユークリッド的で、ニュートン的である。
一方、Alligatorは非線形物理学の法則に則り数値が算出されている。
いわば、フラクタル幾何とカオス理論の落とし子なのである。

Alligator開発にあたってビル・ウィリアムズは、関連する分野の専門家を
5人集め、当時最先端のメインフレームコンピューターを駆使して
最適なパラメーターを導き出した。意図せず全く偶然にそれらはみな
フィボナッチ数列だった。Alligatorは合計6つのパラメーターから成り立つが
それらがすべてフィボナッチ数列であった。

ワニの唇 Lips 期間 5 先行 3
ワニの歯 Teeth 期間 8 先行 5
ワニの顎 Jaw 期間 13 先行 8
3本線をワニの口 Mouth と総称する。

SMAやEMAではなく、Smoothed Moving Average (SMMA) を使う。

3本の線をバランスライン Balance Line と呼ぶ。
Alligatorは、短期、中期、長期のバランスラインから成り立っている。
長期は、いま開いているチャートの時間軸におけるバランスライン。
中期はそれよりも短い時間軸、短期はそれよりさらに短い時間軸を示す。
日足チャートを例にとるなら、長期は日足におけるバランスラインであり
中期は1時間足におけるそれ、短期は15分足ないしは5分足のそれである。

バランスラインが示すのは、買い圧力と売り圧力の均衡である。
3本のバランスラインが水平に近い状態で、お互いが絡みあっているときは
買いと売りのバランスがほどよく保たれている状態を意味する。
当然ながら、市場がこの局面のときはトレードは控えるのが賢明だ。
Alligatorがこの状態のとき「ワニが眠っている」と表現する。
因みに、バランスラインはカオス理論でいうところの
「ストレンジアトラクター」Strange Attractor に相当する。

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やがてカオス(新たな情報)が買い手と売り手の均衡を破る。
最初に敏感に反応するのは短期バランスラインすなわちワニの唇である。
次いでワニの歯が、最後に顎が反応し、ワニはその口を大きく開く。
眠っていたワニが目覚めるときが、新たなトレンドの初動である。
ワニが口を大きく開いているあいだ、トレンドは継続する。
やがて獲物を食べ尽くしたワニは口を閉じる。トレンドの終焉だ。
そして満腹になったワニは再び眠りに落ちる。

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動物園や水族館にいるワニを思い起こしてただきたい。
いつも眠っている。まるで剥製かのように動かない。
相場もしかり。70~80%はレンジである。
ワニが眠っているあいだは、ひたすら待つ。
腹をすかせて目覚めたら、トレードを開始する。
これが敗けを最小限に限定し相場で勝ち続ける秘訣である。

Alligatorの特性をいくつか紹介する。

(1)眠っている期間が長ければ長いほどより空腹になる。
つまり、いったん目覚めるや、より激しくより長い間獲物を貪り食う。
長いレンジのあとには大きいトレンドが長く続く場合が多い。

(2)バランスラインはそれぞれ先行している。
目覚めたかどうかは、現在のローソク足の位置のラインではなく
先行しているラインと比較して判断する。

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(3)Alligatorはエリトット波動カウントの補助として使うことができる。
ワニが口を開いているときは、推進波が形成されているときである。
1波かもしれないし3波、5波、はたまた修正波動のaやcかもしれない。
いずれにせよ、ワニが口を開いているときは、Impulse Wave推進波 である。
同様に、Corrective Wave訂正波 のときは、2波であれ4波であれ、口を閉じる。
それが何波に相当するかは、前講のAOと併せて判断しなければならない。

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ワイルダーが100万ドルを払って買った「アダムセオリー」の本質は
相場における「聖杯」は「トレンドがあるときその方向にトレードする」
というものだった。その意味で言うなら、ワニが眠っているあいだは
トレードを休み、目覚めたらエントリーし、口を開いている方向に
積極的に果敢に積み増しPyramidingしてゆくAlligator手法は
まさに「聖杯」と呼んでいいのかもしれない。

冒頭に引用した「ヨブ記」をレビヤタン=マーケットと重ね合わせて
いま一度お読みいただきたい。
マーケットを手懐けたり飼い慣らすことは誰にもできない。
マーケットに立ち向かうトレーダーは必ず大怪我を負う。
場合によっては、落命も免れない。
眠りたいときはいつまでも眠り、腹が減ったら気が済むまで食い散らす。
マーケットに逆らったトレードは決してしない ― これを肝に銘じることが
レビヤタンシステムの第一の肝要である。

けれども、この一事さえ死守するならば
ワニさんをよく見ているだけでいいのだから、Little Herenowちゃんのような
ちいさな子供でも勝てる手法であるかもしれない。

(注)Little Herenowは、ワイルダーが「アダムセオリー」という本の中で語る”おとぎ話”に登場する小さな女の子。

次講では Fractals を取り上げる。

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