80~90年代、好きな音楽探しは雑誌やライナーノーツでやっていた

ずいぶんと奥の方に押し込められている引き出しから、昔買って捨てずに取っておいたCDがわんさか出てきた。当時もMDにコピーしたり、MP3形式などに変換して取込み、IriverなどのMP3プレイヤーでよく聴いていたものだ。月日が経つにつれてデータがどこかに行ってしまうこともあったが、CDは捨てずに取っておいたようだ。

せっかくなので、その中でも印象に残っていたものをiTunesでパソコンに取り込むことに。あまり流行曲に興味がなく、深夜の音楽番組などで耳に残った人を雑誌やCDショップで調べていたようなことを思い出しながら、CDのタイトルやアーティストに目を通した。

遊佐未森さんとの出会い

当時、どうやって自分が好きな曲やアーティストを探していたんだろう。そんなことを考えながら一枚のCDに目がとまる。それは遊佐未森さんの2作目となるアルバム「空耳の丘」だった。そこに「地図をください」という、僕にとっていろいろな思い出になる一曲が入っている。うわ、懐かしい。

カップヌードルのCMで、アーノルド・シュワルツェネッガーが片手で赤い車を担ぐ映像があった。そのバックグラウンドに流れる柔らかいハイトーンボイスが遊佐未森さんの歌声だったんだ。地図をください、というその曲は当時高校2年生か3年生だった僕の大好きな一曲になった。

その後しばらくは遊佐さんのアルバムを買い続けたり、遊佐さんが出演する音楽番組をチェックしていた。そこで今でも聴き続ける3人のアーティストに出会うことになる。

チェリスト・溝口肇さんを知る

まずは遊佐さんの3作目のアルバム「ハルモニオデオン」。これは「僕の森」「街角」「山行きバス」「空色の帽子」「0の丘∞の宙」などなど名曲揃いのアルバムだったのだけれど、中でも気に入ってたのが一曲目にあった「暮れてゆく空は」。優しく柔らかい音楽に乗せる歌詞は、現代の高密度に詰められた文字数ではなく、全ての言葉が一発で聞き取れる。夕暮れ時に川沿いで遊ぶ少年のちょっとした寂しさがすっと伝わってくる曲だ。

この曲のアルバムテイクは、出だしにストリングスアレンジが入ってくる。そのアレンジがいいなーと思ってライナーノーツを見てみると、編曲者の欄に出ていたのは「溝口肇」という名前。溝口肇さんはチェリストで、現代で分かりやすいところで言えば、菅野よう子さんの元夫で、テレビ番組「世界の車窓から」のテーマ曲を作っておられる方。

アルバム出しているの?と思ってCD屋さんを巡ってみると、これが出ていたんですな。そこからは溝口さんのCDも出れば買う、ライブが有れば聴きに行く、を繰り返した。

ところどころで話や動画を織り交ぜながらチェロを弾く溝口さんは本当にかっこいい。六本木のロマーニッシェス・カフェで聴いたライブでチェロの生音を聴けたのがなによりの贅沢だった。

知る限りもっとも美声なアーティスト・平岩英子さん

そして、溝口さんがプロデュースしたアーティストで見つけた平岩英子さん。今はたぶん音楽活動をしていないのだけれど、彼女の声は2019年の今でも僕のライフタイムで最も美しい声だと思っている。「卒業」という曲の美しさは今でも涙ぐむことがあるほどの美しさだ。

この「卒業」。本当に生涯で何度聞いているんだろう。この方も遊佐さんと同じで歌詞が聞き取れる人で、美しい声に没入出来たんだよな。

鈴木祥子さんの音楽とも30年来の付き合いだ

テレビや雑誌で遊佐未森さんの話を聞いているとちょくちょく出てくる盟友的なアーティストがいた。それが鈴木祥子さん。鈴木祥子さんが遊佐さんの「君の手のひらから」という曲を聴いて涙した、と聴き、ああ、この曲で泣ける人なんだというのが強い興味を持ったきっかけだったと思う。

小泉今日子さんの「優しい雨」なんかを書いている人なんだけれど、この人のすごいところは商業レベルで
ボーカル
コーラス
ギター
ドラム
ピアノ
が出来てしまうこと。それぞれ録音して音を重ねると、一人で収録が完結させられるような才能のある方。やや低めの声、ロックの似合う格好良い女性だった。

アルバム「風の扉」に収録されている「ささやかな奇跡」のセルフコーラスが本当に綺麗なんだよなあ。ボリュームを大きくしてヘッドフォンでこのコーラスに聴き入っていたし、今でもこの部分をリピートしてしまうことがある。

鈴木祥子さんも本当に大好きになって、やっぱりCDを買いまくったし、一人でライブにも行った。クリスマスシーズンに、一人で新宿の日清パワーステーションに行ったこともあったはずだ。一人で聴いたのは寂しかったのかもしれないけれど、鈴木祥子さんの声で暖かい気持ちになっていたのは間違いがない。

自分から探しにいくのが楽しかった

SNSもない時代。誰かの評判というのはよくわからなかった。いわゆるメジャーどころにそこまで興味のないひねくれ者でもあって、情報を得るというのは今よりうんと難しかったんじゃないかと思う。

そんな中で自分の好きなアーティストを探すために、限られた文章や映像の情報の中からキーワードになりそうなものを拾って、確認していた。
CDでーたというCD雑誌やFMラジオの雑誌の、見出しにならないかもしれないアーティスト名を、本当に拾うように読んでいたのを思い出す。
視聴する機会も今より少ないし、メジャーでないアーティストはなかなかCDを借りることもできない。中古CDがあれば買うか、ハズす覚悟を持って新品のCDを買うなりして探していたんじゃないかと思う。

でも、そうして出会えたアーティストは30年経ってもまだ楽しめている。

CDで音楽を買わなくなってしまった。ライナーノーツを鑑賞する楽しみも、今は持っていない。素晴らしいアーティストに出会ったときのあの喜びを、今はどうやったら得ることができるんだろう。

そんなことを思いながらせっせとパソコンのドライブにCDを入れ、懐かしい音楽をスマホで聴く準備をしている。


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