【リアルサウンド映画部】小田慶子の「2022年 年間ベストドラマTOP10」7位以下の理由

もう5年以上、書かせていただいているリアルサウンド映画部のドラマベスト10がアップされました。

毎回、連続ドラマ(全5話)以上の中から10本選ぶのに、うんうん唸りながら2週間ぐらいかかり、結局締め切りギリギリに。編集部のOさんにはご迷惑をおかけしております。

ついでに文字数も削れない悪癖があるので、今回はついに、7位以下の理由をカットすることに。編集部の許可を得て、カットした部分をこちらに公開します。

空白を満たしなさい - NHK
7位『空白を満たしなさい』(NHK総合)
暗いよ、怖いよ、苦しいよという3Kドラマだったが、その暗さがよかった。たしかに世の中にこういう人いますという役を体現した阿部サダヲが最高だし(3人目の助演男優賞だ)、そのサダヲに執着され、おかしくなっていく柄本佑もナチュラルに上手い。死んだ人間が蘇る複製者ならぬ「復生者」というトリッキーな設定、それをとことんリアルにシュミレーションしていく予測不能な展開。原作は平野啓一郎の小説で、文学的なテーマを完璧な映像作品にできる柴田岳志監督はやっぱりすごい。

金曜ドラマ『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』|TBSテレビ
8位『石子と羽男』(TBS系)
有村架純と中村倫也主演の男女バディものだが、有村演じるヒロインにとって仕事のパートナーと恋愛のパートナーは別人だというのが新しく、かつリアルだった。新井順子プロデューサーと塚原あゆ子監督の作品らしく、今の世の中にある問題に果敢に攻め込んだ。善意でやっていると主張する映画泥棒や、田中哲司が演じた“ひろゆき的なるもの”に対して、きっちり答えを出していたのが素晴らしい。取材もさせてもらったのだが、中村を始めとするキャストの意見も採り入れドラマをブラッシュアップしていくチームワークは、劇中の弁護士事務所の風通しの良さにも共通していて、まぶしいほどだ。

17才の帝国 - NHK
9位『17才の帝国』(NHK総合)
「こういうの、実写で見たかった」と、SF好きの心をくすぐりまくった意欲作。少子高齢化する一方の日本は未来が危うい。それなら若者とAIに政治を任せてみようという現実では絶対に実現しない試みを描いた。脚本の吉田玲子が主戦場とするアニメの世界観を目指しただけあり、シャープかつスケール感がある映像が出色。流行りのアニメの絵柄から抜け出してきたかのような神尾楓珠&山田杏奈のルックもハマっていた。制作陣には『エルピス』の佐野Pが加わっており、ここでも「大物政治家の犠牲になって死に追いやられた秘書」のエピソードが出てきた。

おいハンサム!! | 公式HP (oihandsome.com)
10位『おいハンサム!!』(東海テレビ・フジテレビ系)
伊藤理佐の漫画を原作に、昭和のテレビ黄金期のフォーマットであるホームドラマを令和にトレース。主人公は年頃の3人の娘がいる父親。一見、家父長制の遺物のようだが、実は現代的なバランス感覚に優れた男性を、ご本人もわりとそのまんまの吉田鋼太郎が演じた。筆者は伊藤氏と同世代で、こんなふうに家父長制を背負ってはいるがリベラルな父親の下、ぬくぬくと育った。今の時代には逆行するが、たしかに幸せだったというアンビバレンツなノスタルジーを感じた。こんな脚本を自分で書いてしまう山口雅俊監督はさすが。懐かしい、緒形拳主演の『愛はどうだ』(TBS系)を連想した。キャストでは吉田はもちろん、伊藤理佐の絵から抜け出してきたかのような浜野謙太と、サブカルチャー作品との相性が抜群の武田玲奈が光っていた。

今回、選んだのは“戦っていた”10本=視聴者に届けたいメッセージがあった、または、テレビ局内などに反対意見があったり「そんなんじゃ数字取れないよ」と言われたりしたであろうけれどクリエイティビティを優先した作品を選んだつもりです。

それで言うと『恋せぬふたり』(NHK総合)はどうしたよと突っ込まれそうですが、もちろん性的マイノリティを扱ったテーマや作品としての挑戦は素晴らしいと思いながらも、私は放送中、そこまで夢中になれなかったんですね。戦っているものの中で次の放送が待ち遠しいと思わせてくれた順に1位から並べていった結果、10位以内に入らなかったということになります。

逆に『ミステリと言う勿れ』『妻、小学生になる』は、毎週とても楽しみにしていたけれど、よくできたおとぎ話(ストーリーのためのストーリー)で、今の社会に何かを投げかけた感じはしなかったので、入れませんでした。WOWOWの『眼の壁』も本当に面白くて全話イッキ見したんですが、同じ理由で。

1位に選んだ『エルピス』は、戦っていた作品であることはもちろん、人間模様がいいんですよね。渡辺あや作品では、おじさんが輝く。このドラマでは岡部たかしさんが演じる村井が、始めセクハラとパワハラとモラハラをするどうしようもないおやじとして登場したのに、終盤、忖度ありきで正義感が麻痺したテレビ局を変える(ぶっ壊す)きかっけになる。他のみんなが自分の安全と収入と地位を捨てられないでいるのに、村井だけがそれらを全部捨てて「ふざけんなよ」と暴れ出すところが最高だったし、鈴木亮平さん演じる斎藤に「自殺じゃなくて他殺だから?」「引き返すなら今じゃないかな」と言う場面にはしびれましたね。こういう大人同士のヒリヒリした駆け引きを作り物っぽくなく書ける人って、現役の脚本家では他にいない気がします。しかし、2022年は『あなたのブツが』『空白を満たしなさい』『エルピス』と、岡部たかしに始まり岡部たかしに終わった感がありました。

鎌倉殿の13人』についても、まだまだ言いたいことはあるけれど、今度時間があったらで。私はドラマ賞のメインライターもやっているので、年明け、1位、2位の作品については取材の機会があるといいなぁと願っております。


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