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三角関数を学んで何の役に立つのか?

もしも自分の子供が聞いてきたら?という仮想の想定問答。自分自身がけっこうめんどくさい子供だったので、幼い頃に言うてきたことに対して「なんかスンマセン」という気持ちになりながら、大人の立場から自己レスするシリーズ。

今や私も「勉強が趣味」と言うことに抵抗が無いタイプで、「やりたい人だけやればいい」くらいに思っている。進学校に行くメリットがあるとすれば、「勉強が好き」が隠さず受け入れてもらえる環境だと思う。知らんけど。

とは言え、自分の子供に対して「やりたい人だけやればいい」と言えるかというと、やっぱり「勉強しなさい」と言ってしまうと思う。せめて説明することを試みる。端的な言い方として「こんなことも出来ない君達は将来何の役に立つんですか?」がある。

流石に辛辣が過ぎるので、子ども頃の自分に言い聞かせるように、もう少し丁寧な答えを用意してみる。

そもそも説明しても納得しない

「三角関数なんて何の役に立つの?」に対して、直接的にイメージしやすい「塔までの距離と角度から高さが求められる」みたいな例え話を持ち出したところで、「そんなのスマホで調べれば一発じゃん」という反論が想定できる。

そんなスマホも実は三角関数の恩恵が満載である。三角関数に直交性があるから関心ある電波だけを選択的に受信できる。三角関数を応用して周波数領域に変換できるから、情報を圧縮して映像・音声がやり取りできる。...と言ったところで、「自分はスマホの開発者になりたい訳ではない」反論が想定できる。

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そんな「役に立つ」説明だけでやる気を出せるなら、工学部に適正があるだろう。大半の人は「役に立つのか?」と聞いておきながら「役に立つよ!」という説明では納得しない。納得できないポイントを噛み砕くと以下だろう。

1. 「三角関数」は初歩すぎるため、積み重ねた先にある「役に立つ」との隔たりが大き過ぎてイメージしにくい。
2. 世の中にある「役に立つ」事例はブラックボックスになっていて中身を理解しなくても使えるので不自由しない。
3. 人類にとって「役に立つ」ではなく、自分の人生に「役に立つ」のかを知りたい。

鉛筆が役に立つかを人に聞くようなもの

もし文房具屋さんで「鉛筆は何の役に立つんですか?」を聞いたら、全力の「知らんがな!」事案だろう。鉛筆単体では役立つとも役立たないとも言えず、それを使って何を書く・描くのかにかかっている。誰かが鉛筆を使って創作した素敵な作品を見せられて「こんなのも描けますよ」と例示されたところで、真似しても飯は食えない。鉛筆を使って自分の手で創作することに意味がある。鉛筆を手に入れなくても、他に生計を立てる選択肢だってある。

三角関数をはじめ、学校の座学は鉛筆を手に入れるような話だと思う。単体で「役に立つ?」と聞かれても答えにくいけれど、何かを創作しようと思い立った時に道具として使える可能性が高いものがパッケージ化されている。自分の手で創作するための七つ道具みたいなもんだから「騙されたと思って持っとけ!」としか言えない。苦手だからと切り捨てては、やりたいことを探す時に選択肢を狭めることになって勿体ない。「文系に進むから要らない」も一理あるけれど、そうやって分断するから昨今の創作が小粒になる。

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上に書いた3点に対して、身に付けた自分が価値を創って世の「役に立つ」観点から答えるならば。

1. 基礎はそのままでは使えないけれど、幅広く効くので備えておく。
2. 使う側じゃなく創る側になるため、必要となる道具をあらかじめ備えておく。
3. 自分が世の「役に立つ」ためにどんな価値を創るか、そのために何が必要かを判断することは、自分にしかできない。

「役立つ」を求める前提にあるもの

社会人類学者であるレヴィ=ストロース先生が未開の少数民族を調査していて、「少数民族って原始的だと思ってたけど実は凄い合理的だった!」みたいなことを「野生の思考」の中で書いている。その中で出てくる概念として、エンジニアリングに対比させたブリコラージュがある。

エンジニアリング:まず設計図をつくり、そのために必要なものを集める。
ブリコラージュ:日頃から道具や素材を寄せ集めておき、イザという時に組み合わせてつくる。

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「何の役に立つのか?」の答えがないと不安なのは、上記エンジニアリングを前提にしていると推測できる。「○○大学に進学して将来△△になる」みたいな輝かしい設計図から逆算して、その手段として三角関数を学ぶのだと言えば納得できるだろうか?

でも、昨今のような変化の激しい時代に生涯安泰は無い。長期的な設計図を描いても時代が変わってちゃぶ台返しに合う。気象変動の激しい野生のサバイバルみたく、生存戦略としてブリコラージュで変化に適用する方が賢いかもしれない。流木を拾い集める如く三角関数を拾っておくので、現時点で「○○に役立つ」と具体的には言えないけれど、蓄えておけば使える可能性が高い道具の1つではある。

すぐに役立つものはすぐに役立たなくなる

「役立つか?」を聞きたくなる背景は、「苦労して手に入れる労力に見合うものか?」があると想像する。1本1,000円の鉛筆が売っていたら買うのをためらうし、「何の役に立つの?」と聞きたくなる気持ちは理解する。

大人向けのセミナー等で、「すぐに役立つテクニックがあったら教えてください!」質問する人いるよねという投稿を見た。研修教育でも「実務に役立てること」を求めてくる。もし、苦労せずすぐに役立つテクニックなんてものがあれば、みんなが使い倒して優位性が無くなってすぐに使えなくなる。だから、役立つことを期待するならば、みんなが敬遠することが狙い目である。

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せっかく苦労して習得しても、時代が変わって陳腐化するスキルも多くあるので、値踏みするのも当然だろう。確かに学校のカリキュラムにも欠点はあるけれど、人類の英知を凝縮していて、時の試練にも耐えていて、基礎だからこそ陳腐化しにくい。労力に対する効果はそれなりに保証されている。

食わず嫌いの言い訳として「何の役に立つの?」と言っているとしたら、なんやかんや言うてそれほど難しくないことは示していきたい。

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