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タイ・コラート決戦「田中教仁の世界再挑戦・WBC世界ミニマム級戦」と「藤岡飛雄馬のリベンジ戦」

サワディーカップ

タイ在住ボクシングファンのオダサイです。

この8月31日にプロボクシング・WBC世界ミニマム級王座を賭けた、パンヤ・プラダブシリ対田中教仁選手の一戦がタイ・コラートで執り行われました。この試合を見届ける為、バンコクの中心部から300キロのコラートの街へ日帰りで、足を運んで参りました。

挑戦者の田中教仁選手については、私は2019年1月の日本ミニマム級タイトルマッチを後楽園ホールでたまたま観戦していました。

その際は当時の日本チャンピオン、小野心選手を衝撃の右で3ラウンドにダウンを奪い、こぎざみな連打で終始追い立て、8ラウンドにストップ勝ちを飾りました。

当時、34歳の田中選手、5年のブランクがあったりと紆余曲折を経ての栄冠だったことを後で知りました。

その後、タイ・ナコンサワンでノックアウト・CPフレッシュマートのWBA王座に挑むも判定負け、日本で再起戦を飾るもコロナで1年9カ月のブランクを作ります。

既に37歳となった田中選手、ブランク明けがいきなりこのWBCタイトルマッチとなりましたが、「ラストチャンス」と位置づけて万全の準備をしてきたとのことです。

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31歳のWBC世界王者、パンヤ・プラダブシリは、ペッマニーCPフレッシュマートのリングネームでタイで活動しています。オダサイ便でも取り上げた元世界王者チャチャイ・サーサクントレーナーの元で練習をしています。

WBCのパンヤ、WBAのノックアウトとミニマム級に2人の世界王者を抱えるペットインディープロモーションは、チャチャイ・サーサクンジムに主だった国際式ボクシングの所属選手を預けています。

          ↑ チャチャイ・サーサクンジムについてはこちら

パンヤは田中戦までに38勝1敗という堂々たる戦績を誇りますが、それまでに戦った世界タイトルマッチは3試合が全てタイ人相手でした。

コロナ過で海外から選手が呼べなかったことで、タイ国内で世界タイトルを回しているという印象でしたが、タイでけではなく、日本を始め、色んな国で同じような状況だったと思います。

パンヤ自身についても、当時のミニマム級絶対王者のワンヘンにライトフライ級ランカーながら、一階級下げて挑戦する幸運に恵まれました。

ワンヘンとパンヤは同じペットインディープロモーションの契約選手で、同門対決の意味合いもありました。この頃、ワンヘンは引退騒動を起こしたばかりで、その制裁マッチとの噂もありました。試合前より不穏な空気が流れ、判定もパンヤ寄りでした。

パンヤが何とかワンヘンから奪った王座の初防衛戦で当たったのは、アマチュア出身のタイ人選手、ダナイ・ナコンルアンプロモーション選手でした。

ダナイにパンヤは判定勝ちを収めますが、当時プロ戦績9勝2敗のダナイを圧倒できず、タイのボクシングファンにも消化不良の内容だったようです。

その後、ダナイ選手は、WBCアジアチャンピオンとなり、才能が開花した面があります。現在は、世界を見据えるホープと言えるでしょう。

そして2度目の防衛戦の相手となったのは再びワンヘン選手でした。パンヤ対ワンヘン第2戦については、ワンヘンが意地を見せて積極的な戦いを見せ、あわやチャンピオンがダウンか、というシーンもありましたが、判定はパンヤを支持しました。

ワンヘンとの2戦はどちらも負けていたという厳しい見方もありますが、名王者を相手に一歩も引かずに24ラウンド戦い抜いたことは確かな実力を示したと言えるでしょう。

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コラートの試合会場までは、休憩をはさんでバンコクから車で約5時間の道程でした。

会場となったのはセーフワンという市場で、鶏肉や加工食材を取り扱うCPフーズが市場の一角に大きなテントを用意して、展示会を行っています。

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タイが誇る巨大企業CPフーズ(CPF)は、ペットインディープロモーションのボクシング興行と併せて、展示会をタイ各地で開催しています。そんな興行・展示会は基本的には入場料は無料となっています。

今回、1週間に渡って行われるCPフーズの展示会の目玉として、用意されたのが、この世界タイトルマッチが用意されました。展示会では、CPフードの冷凍食品やソーセージが用意され、特別価格で地元の人たちに振舞われています。

試合開始2時間前に会場に到着すると、展示会の端に設営された特設リングで、照明やら音響やらのテストが行われており、ちょうど「君が代」が流れています。

今回、コラートに同行した知人の紹介で、初対面となる田中選手に挨拶させて頂きました。「前回のノックアウト戦は初めてのタイ、気候や必要なものなど試合前から色々大変でしたが、今回はその経験からしっかりと準備も出来ました」とのことで、期待できそうです。

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パラパラと観客が集まる中で、全4試合の興行は開始され、第一試合には、ペット・CPフレッシュマート(タッサナーサラパット)が登場しました。

ペットは2018年に井上拓真選手とWBCバンタム級暫定王座決定戦を戦ったことで、日本のファンにも知られています。この試合までに66勝1敗という、驚異的な戦績を誇ります。

危なげなく、格下のタナチャイ選手を4ラウンドKOに下し、初黒星の井上戦から18連勝を飾りました。

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そして第二試合が世界戦です。いつの間にか集まってきたボクシングファンや、CPフーズの展示会帰りの地元の方など観客がリングを取り囲みます。

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タイ特有の長いセレモニーが終了して、ゴングが鳴りました。調子の良さそうな田中選手は、軽快な動きでパンチを出しますが、一方のパンヤ選手もしっかりと迎え撃ちます。

田中選手のパンチが単発ですが再三チャンピオンの顔面をとらえます。さすがにチャンピオンは2発目は当てさせず、うまさ、経験を感じさせます。

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この日驚いたのは、田中選手陣営のセコンド、三迫ジムスタッフが大きな声で指示、声援を送り、会場に大きく鳴り響いていたことです。タイ陣営側の声や、観客の応援のトーンが低かったような印象です。

延び延びと戦う田中選手ですが、やはりチャンピオンより被弾は多く、ポイントはタイ側に流れているようです。

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ラウンドが進むにつれて、チャンピオンも余裕が出てきましたが、田中選手の表情は、決して勝負をあきらめておらず、各ラウンド必死に喰らいついていきます。何度もチャンピオンを効かせ、左フックでチャンピオンが腰を落としたシーンもありました。

田中選手は「手数が少ない」という報道も見られましたが、私はよく手が出てたように思います。これだけチャンピオン側にパンチを当てて、苦戦させたということで、やれることはやり切ったのではないでしょうか。最後まで勝負を捨てない姿に、タイのファンからも田中選手は好意的に見られたようで、試合後は田中選手を讃えるSNSの書き込みも目立ちました。

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試合の判定は116-112、118-110、119-109の3-0でチャンピオンの防衛となりました。世界初挑戦のノックアウト戦ではダウンを奪われての判定負けでしたが、今回はチャンピオンを何度も追い込みました。

「夕方の開始時間で、暑さもまだ楽だったが、湿度が高く、中盤から消耗が激しく体は重かった」とする田中選手、リングを降りると観客のタイ人から写真を撮影をせがまれたりという姿も見られました。

「どちらも強いチャンピオンに挑戦できたこと、最高のボクシング人生だと思っています。両選手に感謝しています」と、後日、田中選手がこの試合について振り返って感想を述べてくれました。

田中選手、この試合で20勝9敗となりましたが、私が観戦した2試合はいずれも熱い試合となり、ますますファンになりました。

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メインとなる世界戦が終わった後、この日の最終試合となる第4試合には、宮田ジムの藤岡飛雄馬選手が登場しました。

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2019年の初のタイ遠征では、WBCアジア・スーパーバンタム級タイトルに挑み、好試合を見せた藤岡選手、3年ぶりのタイの試合です。

    ↑ 2019年の初遠征、観戦メモ

前回の遠征はペットインディー興行のメインイベントでしたが、この日はテレビ放映枠の後です。

豊富なムエタイ経験を持ち、プロボクシングに転向して2戦2勝2KOのポンラワット・ナンチンダ選手を相手に初回から良い動きを見せて、5回KO勝ちを飾りました。

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これで13勝10敗1分となった藤岡選手、元世界挑戦者の高橋竜平戦を含む3連勝で、ファンの期待値も上昇中です。

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傷だらけの戦績は、田中選手と同様深い味わいがあり、今後も注目していきたい選手です。

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