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プライマリーチェーンの点検と調整

割引あり

 定期点検の重要性については何度と書いているので読者の方にはご理解いただけているかと思う。その定期点検を行う箇所についてはマニュアル等で明確に示され、その実施時期も示されている。私はハーレーメカニック駆け出しの頃によくサービスマニュアルの点検項目を見ていたものだ。もちろん今となっては頭に全て入っているし、そもそも点検項目とは構造を理解していれば何を見なければならないか分かるため表の様なものは必要ない。話は少し逸れたが、今回は定期点検項目についての深掘り解説シリーズとしてプライマリーチェーンの点検について解説していこうと思う。

 先日解説したドライブチェーン(セカンダリーチェーン)と同様にプライマリーチェーンもまたハーレーにとっては重要な定期点検項目である。プライマリーチェーンはデフォルトではプライマリーチェーンカバーとクランクケースやインナープライマリーカバーから成る、言わばプライマリードライブコンパートメント(小さく仕切られた部屋)の中にあって常に潤滑されている。したがってドライブチェーンのように給脂する必要はないが、同様に張りの点検、調整は必要である。

 エレクトリックスタートが始まるエレクトラグライド以前のブリキプライマリーカバーのモデルや、エレクトラグライド以降のドライクラッチを採用するモデルはプライマリーチェーンの潤滑をエンジンオイルを点滴のごとく垂らして行っている。そしてウェットクラッチ以降、プライマリーコンパートメントにはチェーン潤滑のため専用オイルが入れられる。これがビッグツインにおけるプライマリーチェーンの潤滑であり、XLの場合はプライマリーコンパートメントとトランスミッションコンパートメントがつながっているため常にトランスミッションオイルによって潤滑されている。

 オイル垂れ流しのブリキプライマリーカバー(THINカバー)には無いが、アルミケースで構成されるプライマリーコンパートメントには先端に磁石がついたドレンボルトが設けられ、オイル交換などの際にこれに付着する金属片の量などでプライマリーチェーンの状態のヒントが得られるというわけだ。

 プライマリーチェーンは伸びてきたらカバー内側に接触するようになり、それは音となって感じ取れるようになるだろう。特に音が発生しやすいのはプライマリーチェーンが冷めている時のアクセルオフ時や、高ギヤでかつ低回転といった高負荷な状況である。車両左側から打音のような音が聞こえてきたらプライマリーチェーンをまず確認してみよう。そして音が発生していなくてもオイル交換時のドレンボルトに付着する金属片が多い場合も要プライマリーチェーンをチェックだ。金属片が多いということはプライマリーチェーンがケース内側を削っている可能性とトランスミッションギヤの摩耗、スターターモーターギヤの摩耗が多いことが考えられる。これらの可能性のうちプライマリーチェーンの点検が最も簡単に行えるため、まずはこれをやる。これは簡単なところから点検をしていくという原因追及の基本手順に沿ったものであるからだ。

 プライマリーチェーンの点検を行う上で最も重要なことはチェーンが最も張る位置で点検、調整を行うことである。これはドライブチェーンのそれと同様なのだが、プライマリーチェーンの場合は回転させて最も張る位置を探し出すことが少々手間であるため無視されることが多い。しかしプライマリーチェーンは張りに差異があることがむしろ通常と言えるぐらなのだ。なのでちゃんと最も張る位置で点検しないと張り過ぎているという状況が発生してしまう。チェーンの張り過ぎは回転抵抗にしかならずスプロケットシャフトやメインシャフトに余分な負荷を与えてしまい危険である。必ず最も張る位置で点検、調整しよう。プライマリーチェーンを回転させるにはキックがついているモデルはキックを使えばそれでいいが、無い場合はギヤを4速ないし5速に入れスパークプラグを外しリアホイールを回転させて行う。


プライマリーチェーンの張りの適正値はモデルによって違いがあるがフリープレイは5/8〜7/8インチというのがメジャーな数値だ。この数値はエンジンスプロケットとクラッチシェルとの上側の中間地点におけるたわみ量を指す。このたわみ量とは指で上方向にチェーンを持ち上げた際の移動量のことである。ドライブチェーンはあまり熱を持たないため特に指示されることはないが(考え方としては持っておいた方が良いが)、プライマリーチェーンはエンジンから熱が伝わるため金属の熱膨張による張りの変化を考慮しなくてはならず適正値は冷間時と温間時が示されている。つまり点検時のチェーン温度によって適正値を使い分けなくてはならない。しかし何度から温間時の値を適用すればいいか曖昧であるためチェーンの張り調整または点検は冷間時に行うことが望ましい。先の5/8~7/8インチというのは冷間時の適正値である。

EVOスポーツスターにおける適正値

 たわみ量5/8~7/8インチをミリ換算して15.88~22.23mmを定規を使って測定してもいいが、私はこのようなツールを作ってたわみ量を測っている。

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