農地と農業改革

例えば、450兆円あれば、日本全体の遊休農地や耕作放棄地を何度でも買えます。(市街化地区の農地は除く)

でも、土地代金の100分の1くらいの値段で農地は借りる事ができます。

さらに言うと完全に耕作放棄地や遊休農地なら、ちゃんと頼めば固定資産税負担するだけでほとんどただ同然で借りることもできます。(使用貸借と言います)

もっと言うと、法人が農地購入代金を株で提供したら、現金無しで、農地を購入できる。

そうやって農地を10ha以上まとめて、国の基盤整備事業で農地整備したらその費用は、国と自治体がみんな出してくれる方法もある。

実際は、補助金は、工事費関連だけなので、別途諸費用はかかりますが。

自治体や農協や農家、地権者が本気になれば、農地は現金が0円でも、優良農地に生まれ変わります。

そこに、農業をやりたい人を募集します。

やる気と健康だけあればいい。

整備した土地を提供します。

技術を教えます。

販路を提供します。

パート、アルバイトを派遣します。

希望があれば、資材の購入、資金の融資、税務事務の代行を提供します。

そして、売り上げの中から、賃貸料を支払ってもらいます。

いわば、テナント型農業を行えばいい。

このエコシステムへの参加者全てをネットで繋いで、情報技術、労働力、生産物の需給、資金需要全てマッチングさせて、それぞれの取り分を同意されたルールに基づき変動させれば、みんなが儲かる仕組みと、弾力性のある仕組みを作る事ができます。

実は、農業みたいに生産が長期化する事業では、利益よりも弾力性が大事です。

トヨタの工場では住宅が一日10軒分生産できますが、農業ではモヤシでも数日はかかります。

まぁ、もやしなら企業的生産も可能ですが、数ヶ月以上かかる農産物だと雇用負担が弾力性を妨げますので、規模が大きく企業的な経営ほど、不安定になります。

コロナ禍での需要減で困ったのは、雇用の多い経営体です。

対策としては、固定費リスクと、変動費リスクを別の経営体が賄えばいいのです。

これは、コンビニや外食チェーンみたいなモデルです。

なぜ、農業は世界中ほとんど家族経営で成り立っているのか?

理由は家族経営だと償却済みの設備投資をただ同然で親から貰い受ける事ができるからなんですね。

農業の問題のほとんどは、事業承継の問題に帰着します。

農業は儲からないので、農業人口が減るというイメージがありますが、真実のようで真実ではない。

例えば米農家。

米価のピークはだいたい昭和55〜60年くらいで、18,000円/60k。今は14,000円くらい。ブランド米で17,000円くらい。
この間に初任給が約倍。バイト時給が三倍からに上がっています。
でも米農家は、昔より今の方が豊かです。規模拡大が50〜100倍くらいになった。雇用も増えているので経営による差は大きいですが、稲作経営者は地方のサラリーマンよりも儲かっています。

野菜だと価格のピークは1990年ごろのバブル時代。その後はほぼ横ばいです。施設園芸の生産ピークはその少し後で農家数はそれから徐々に下がっていますが、露地野菜の規模は約3〜5倍くらい。施設園芸では1.5~2倍くらいになっていますので、まぁ地方のサラリーマン並みかそれ以上の所得がないと後継者にはなりません。

米、野菜、施設の順に機械化が進んでいますので、施設園芸が一番昔臭い労働集約的農業なのです。畜産は、いろいろですが耕種的農家よりも普通は高所得です。

まぁ海外生産が進んだアパレルなんかはここ40年物価下がりっぱなしなので、それに比べたたら国内生産の農産物がそんなに価格が上がらずとも所得もそこそこなのは、技術進化と規模拡大の成果なのです。

でもなんとなく儲からないイメージは、3K業種である事と規模拡大できなかった人の離農イメージがあるからです。

とは言え、農業団塊の世帯がそろそろ80歳を超えてくると、一気に農業人口が減り遊休農地も増える予想があります。
同時に世界人口の増加、新興国経済の成長の為に農産物の国際価格は高騰していく見込みです。

国内生産力が落ちて、国際価格が高騰したとしても、一度落ちた生産力を増加させる事は難しいのです。

耕作放棄地は40万haもありますが、休耕田以外は灌木茂ったような土地も多く復旧がすぐできるわけではないし、価格の高騰が即農家を増やすわけでもありませんし、まだ国際価格は低下する場面もあります。

でも新規就農の壁は以前よりさらに高く厚い。それは規模拡大と技術進化が農業を投資産業に変えてしまったからなのです。

既存農家は、償却の終わった機械や温室を使いながら新規投資を徐々にしてきたのでなんとか投資リスクに対応できているだけなのです。

実は、農業ほど投資リスクが高い業界は無い。農業投資に比べたらまだ観光業の方が遥かにマシだと思う。

投資額の増大は、家族経営にとっては大きな壁だけど、もっと酷いことになるのは企業参入の場合なんです。

https://agri-biz.jp/item/detail/4880

少し前に、オランダ並みの生産力を上げて黒字化したというカゴメの例が報じられましたが、トマト市況の下落により赤字転落の報告がありました。でもそれはコロナ前の話なので、コロナ禍で業務需要が減少すると経営が心配です。

現行の施設園芸の投資額を償却期間内に回収するには、相当難しい。ICTやらスマートなんちゃらで生産性を上げたことによってそれに拍車がかかっています。
ある意味、ICTで誰でも生産性を高めることができたので、市況がダブついて予定通りの価格で売れないというのが今のトマトの現状ですね。

そうすると、農協出荷だと生産調整で農家は粗悪品を捨ててくれますが、企業はそれを安売りしてしまうのでさらに市況が悪化するという悪循環がコロナで加速するのではないか?

大規模化や企業資本の参入で価格破壊されてしまった分野に花があります。花の価格はほとんどオランダも日本もタイでも同じ。もうすでにバラやカーネーションは儲からない農業になっています。儲かっていた菊もコロナ禍の葬祭需要の消滅で作物転換が必要になりつつあります。

でも、投資リスクというのは、実は需給の問題ではありません。施設園芸については短い償却期間にあります。工場なら30年前後が償却期間ですが、ビニールハウスは、丸型で7年、屋根型で14年なので償却期間を過ぎないと利益が出ません。

家族経営が存在できるのは、親の代から使っている償却済み資産を中心に経営しているからです。

企業がいきなり新設ハウスでやると最低でも10年は赤字必至です。出資した親会社の理解があるか、多額の補助金を得るか、中古施設を安価に入手できないと難しい。

これは、露地野菜でも稲作でも同じです。

汎用性のあるトラクターなら投資効率がそこそこですけど、年間何日も使わないコンバイン、田植え機、各種アタッチメントや、乾燥施設、育苗施設、精米施設などの稼働率は、とても他の製造業と比較にならないくらい低いのです。

大規模化を実現した日本農業は、誰も投資できない構造に陥りつつあります。

投資リスクを乖離するにはどうしたらいいか!

これは実は簡単なんですけど、中々取り組みが進まない。

後継者のいない農家はたくさんいます。これは農業が儲からないからではなく、職業選択の自由の話だし、農業よりも儲かる仕事、安定した仕事はたくさんあります。

簡単に言うと自営業は不安定だから選択されないのです。

儲かっている商店主や土建屋は、二代目継がせるよりもそこそこいい大学いってもらって、大企業や公務員になってもらった方が安心ですよね。愛知県なら高卒トヨタ系が一番堅い職業選択でした。

農業も同じですよ。農業以上に個人商店は減っています。

という事で、後継者のいない農地や農業施設、農業機械をやりたい人に使ってもらえばいいのです。初期投資が抑えられる。

でも、M&Aの案件に該当する事例はほとんどありません。畜産や精米工場まで所有している大規模稲作経営なら、あるかもしれませんが、耕種的農業では難しい。

なぜなら、収益がほとんど事業主の技術力と経営力に依存しているからです。設備や農地の価値よりも人に依存している。販路や販売単価も、品質や安定供給力に拠るので結局技術力が無いとリソースが活かせない。

だから、園主が変わればよほどマニュアルが出来上がっていないと難しい。

さらに言うと家族経営だと、資産が家計と癒着しているので切り離せない。母屋と併設された倉庫を人に譲渡するのは難しい。

という事で資産をバラバラにして譲渡する事でしか家族以外の人には事業承継ができないと思います。

実際には、農地の賃貸や園芸ハウスの賃貸は進んでいます。中古農機の取引市場もあります。

でも、農業以外からそれらを刈り集めて農業を成功させるにはかなり面倒なんですね。これは先述いたしました。

だから、農協が遊休農地や遊休施設を借り集めて、再整備して貸し出せばいいのです。

でも実は難しい。なぜなら大家さん側にも店子さん側にも利益を捻出するには、農業生産自体にちゃんとした収益率が無いと、どちらかが赤字になるのです。相場が下がれば双方赤字になる。

農協はそこの自信が無いので、斡旋はしてもそれ以上まで手を出さない。

農業ってやっぱり儲からないじゃないの?と言われればその通りです。

だいたい儲かるかどうかは業種で決まるものではないですよね。

儲かるとは何?

平均値よりも上の仕事をしないと儲からないのですね。

だから、儲かる業界にいる凡人は儲かりません。仕事レベルの平均値が高いからです。

儲かる業界は競争が激しく、技術革新やらマーケティングレベルも急速に上がるので、コモディティ化して価格競争に陥るか、寡占化して落ちこぼれる確率が高くなります。

つまり、儲かる業界ほどレッドオーシャン。参入障壁が低いと一瞬みんな儲かるような幻想がおきますが、すぐに競争の敗者も増える。

例えばYouTuber。

儲からない業界ほどそこの需要が消滅しない限り少しの努力と差別化で儲かるやうになります。

だから、農業と言う業界が儲からないから農家という個人は少しの努力でも儲かるのです。

物の価格はどういう原理で決まるのか?

マルクスは労働価値説を発見した。

ケアンジアンは、需給で決まると言う。

レーガン、サッチャー以降のサプライサイドんくの経済学、新古典派、ネオリベ、マネタリスト諸々の感覚としては、人の満足度で決まるということになっています。

でも、結局のところ労働価値説に帰着してしまう。

はぜならば、商品が増え過ぎれば満足感は下がる。商品が増えるためには生産力が上がり労働価値が下がるのが普通です。

これが売れると言って、みんなが競争して生産したら、満足度も下がり、需給バランスが崩れ、価格は下がり続ける。

経済学の世界では、自由競争が善、規制や独占は悪と言われてきました。

これは、アダムスミスの時代からそうなんです。信長の楽市楽座でもそうなんです。中国の春秋時代以前、殷の人が商人と言われた時代にもそんな記述があります。

でも、人口があまり増えない時代にはデフレ要因なんですよね。

日本の農産物の平均単価は実は低く平成時代下り続けています。これは農業近代化と大規模化の成果であるという側面と家族経営が農地という償却済み資産を原資に生産している側面があります。

例えば兼業農家や高齢者農家は、生産原価など無視して生産できます。そして参入障壁も高い。農地は農家しか買うことも借りることができないからです。

政策的な低価格ブルーオーシャンの中で、ちょっと頑張って生産力をつけたり、付加価値をつけてブランド化に成功した個人や地域にとっては美味しい仕事なんですね。

平均値が低いので、頭一つ抜けてしまえばいい。

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