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年末に相撲なんて取るから。

新年あけましておめでとうございます。2018年から2019年にかけて皆さんはどのようにお過ごしでしょうか?とにかく健康な体で新しい一年が迎えられればそれほど素晴らしい事はありません。

もう5年ほど前だったでしょうか。年末に、渋谷の雑居ビルの4階にあったシアターDという小さな小屋でお笑いライブに出演した時の事です。その時の企画の中に”ガチ相撲対決”というのがあり、僕はそれに出ることになりました。名前の通り本気で相撲をするという、もはやお笑いでも何でもないこの企画。しかしこのガチ相撲の歴史には、数々の奇跡が起きてきた事を芸人達は知っています。今日もその奇跡を起こすため、僕たちはとにかく全力で、力尽きるまで、相撲を取ることを会社から要求されたのです。

芸人が沢山出演する中、僕がなぜガチ相撲に選ばれたかは、対戦相手が一年後輩のカゲヤマというコンビで活動している田畑という男だと聞いたらお分かりになるでしょう。そう。僕と名字が一緒なのです。だから年を越す前にどっちが本当の田畑か決めておいた方が良いとなったのです。こんな意見を言った人間は、普通の会社では上司にブチ切れられて昇進を諦めないと行けません。しかし、ここはお笑いの会議。この意見が満場一致で通ります。どっちかが偽物の田畑で、偽物はきっと悪魔だから、これを見つける方法は国技の相撲しかない。ゴリゴリの魔女裁判をやっていた時代の思考転換で、僕たち”田畑”は負けたら今後”田畑”と名乗れなくなりました。これには二人とも困りました。だって僕らはどちらも本物の”田畑”なのですから。

困りながらも時間は刻々と過ぎていき、ついに舞台上に土俵ぐらいのスペースが作られ、その周りを芸人たちで囲み、お互いの名字を背負って僕と田畑のガチ相撲が始まりました。まわりは古代ローマ"コロッセオ"の決闘のテンションです。潰す気で行け!とどこかのアメリカンフットボールチームのような指示も飛び交います。大体こういうものはお互い組み合い、様子を伺うところからスタートします。が、いざ体を組み合わせた時に分かりました。田畑はガチガチのギンギンだと。それこそお笑いのライブで”潰す”の意味を本気で捉えたやつです。息遣いが闘牛のそれと同じだったんです。目も興奮して明後日の方向を向いていました。耳元で「どうする?」と言っても、その声は全く本人には届きません。アウトもアウト。こういう時に取り返しのつかない怪我とかするんです。それが見て取れる立ち上がりでした。あぁ、もう絶対やばい事になる。こうなったら自分も最初からガチでぶつかるしかない、あとはどうにでもなれだ。この考え方もお気付きの通りやばいのです。とにかく自分なりには覚悟を決めて押し出そうと力を入れた瞬間、田畑が僕の後ろに回り込ました。回り込むや否や、僕の両肩を両手で押さえ、そのまま垂直に押し始めたんです。「どんな相撲?!」心の中でそう思いながら、何とか違う展開に持って行こうとしますが、田畑は絶対に逃がさまいとより力を入れて垂直に押して行きます。僕の中で悪い予感が走ります。「嘘だよな?まさかこのまま股割る気じゃねーだろうな?!」田畑が力を緩める気配は微塵もありません。投げ技のかけあい、土俵際ギリギリでの攻防、そんな展開は一切なし。肩を上から垂直に押す。これが田畑の相撲でした。

どんどん僕の股が開いていきます。これはやばい。さすがにもう無理。来年からは新しい芸名を考えよう。そう思い田畑の肩をタップします。「お疲れさん田畑。もう終わりだ。この悲しい相撲はここで終わらせよう。お前が来年からも田畑と名乗ればいいさ。」しかし田畑はタップしたにも関わらず力を緩めません。おかしいと思い、もう一度タップします。今度はちょっと急ぎ目で。「田畑、もう分かった。お前の勝ちでいいんだよ。だからこの両肩に乗った手をどかすんだ。」しかし田畑はまだ力を緩めません。今度は全力でタップします。だってもう限界まで股は開いてしまっているから。「田畑!もういいからやめろ!このまま行ったら俺の股が千切れちまう!!」しかし田畑はやめません。大声で田畑に言います!「田畑!!まじでやばい!!もう股半分千切れてる!!」しかし田畑はやめません。心の中で叫びました「狂ってるよ!!!!こいつ!!」

なんでこいつはやめないんだ!!怒りの表情で田畑の顔を見ると、それはまるで”殺すまで続けろ”という指示を受けた殺戮ロボットのような顔をしていました。田畑はあの瞬間人ではなかったのです。周りは野次に力を入れて何が起こっているか気付いていません。僕はとっくの昔にタップして負けを認めているのに。。

そしてその後しばらくして、僕の股は裂けました。股が裂けたあとは、世界の時間の進み方がゆっくりになった事を記憶しています。僕の声は周りのガヤに消され、足だけが、開いた事もない領域まで開き、その瞬間は、僕の足の柔らかさを信じたまわりがまた1つ盛り上がり、しかし、僕はただ股が裂けただけなんだと必死に叫び散らかし、でも、その声はやはり届かず、最後は僕のきん○まが地面について負けたのです。

まわりの芸人から「田畑の足半端なく柔らけぇ!!」と歓声があがるなか、誰かは分かりませんが、ガヤの中の一人が「でも見ろ!!田畑のきん○まが地面に着いてるぞ!!」と大声で指摘し、それにより僕は負けました。あぁ、、何という情けない負け方だろうか。自分の名字を背負って戦った相撲で、きん○まがついて負けるとは。末代までの恥。僕はそのまま、悔しさだったのか、股のスジがやられてなのか、理由はどちらか分かりませんが立ち上がれず、転がりながら舞台袖にはけていきました。そしてその勢いのまま楽屋まで転がっていくと、そこにはガリットチュウの福島さんがおられたのでした。

ガリットチュウの福島さんは次のコーナーの出番のため、楽屋でマガジンを読んで、気持ちを高めていらっしゃいました。そんな中、僕が楽屋まで転がって入ってきて、そのまま股が裂けた苦しみで楽屋をごろごろ転がっていると、福島さんはとても驚いた様子で「今舞台上で何が起きてる?!」と尋ねて来られました。僕は今起きた事をすべて順序だてて喋ると、熱心に読んでらっしゃったマガジンを置いて、こうおっしゃいました。「じゃあかまぼこだ。かまぼこ。」かまぼこ?一体こんな忙しい時に何をおっしゃる福島さんと思いながら話を聞いていると、どこかのプロサッカーチームにはかまぼこの会社がスポンサーでやっていて、選手が毎日かまぼこを沢山食べるため怪我をしないという事なのだそうです。さすが福島さん。少しでも福島さんを疑った僕を許して下さい。かまぼこの知られざる偉大な効果を知ったところで、ライブを主催していた人が大慌てで楽屋に入って来て、今日はもういいから早く病院に行けと言うのです。しかしこんな年末にやっている病院なんかなかなかありません。すると福島さんが「病院がやってないなら、かまぼこしかないよ。」とおっしゃるのです。福島さんの目は真っ直ぐでした。かまぼこに対しての1つの疑いもない気持ち。こんなに澄んだ目でかまぼこと言える人は現代にはそうはいない。僕はその目を信じ、年末年始をかまぼこ治療にあてると決めたのです。

決めたら早い方がいい。僕はかまぼこ治療を始めるため家に帰る事にしました。正直歩くのもおぼつかなく、タクシーで帰ろうと思ったのですが、そんなお金はもちろん無く、ここは少し甘えられるだろうと思いその話をすると、コントやコーナーで使う小道具が乱雑に入った箱から、プラスチックの杖を渡されて、今日はこれを使って帰りなさいと優しく言われました。その目もまた澄んだ優しい目をしていました。僕は言われるがまま、小道具の安いプラスチックの杖をつきながら、下半身をひくひくさせ、普段30分ほどで帰れる道のりを、2時間ほどかけて帰りました。帰り道にツイッターを開くと、ライブに最後まで出ていた他の芸人がライブ主催者と仲良く居酒屋で飲んでるツイートを見つけショックを受けたのは秘密です。とにかく顔を引きつらせ、下半身を震わせながらも、家に帰り、家から一番近いスーパーで、ありったけのかまぼこを買い占め、狂ったかのように家でかまぼこを食う。これしか僕の残された道はありません。同居人にも、毎日、スーパーにかまぼこを買って来て貰い、年末年始はベッドの上でひたすらかまぼこを食べ続けました。カウントダウンは、かまぼこの板を10秒前から一枚ずつベッドの下に放り投げる、練り物業界の人でさえやった事が無いであろう”かまぼこカウントダウン”を敢行し年を越したのです。

しかしそのおかげか、僕の足は徐々に歩けるようになってきました。ほんとかまぼこ恐るべしです。嬉しくて、さっそく自分の足でかまぼこを買いに行くと、しばらく見ていない間にかまぼこ売り場には大きなポップが作られていました。そしてそのポップには堂々とこう書かれていたのです。

「空前のかまぼこブーム!!!今、かまぼこ爆発的に売れてます!!!」

ギザギザに囲まれた中には、赤く太い字でしっかりとそう書かれていました。何を勘違いしたのかスーパーの店員さん。かまぼこブームなんか来ちゃいないよ。僕が全部食べているんだ。しかしそんな事は言えず、何とも切ない気持ちで僕はそこからかまぼこを10個ほど手に取り、かごに入れました。それを見た店員さんがまた、かまぼこブームへの自信を深めるのでした。                           【終わり】





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田畑藤本というコンビでお笑いをやっている田畑の方です。普段は相方の『東大』という肩書きが光過ぎていて全く輝けておりません。学歴社会の構図を日本一食らってる男としても有名です。ここに来たあなた。よく僕の方を見つけたね。
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