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この病院でいいのか?

突然、重度の円形脱毛症となった私は、皮膚科クリニックから大学病院を紹介され、2020年5月にステロイドパルス療法を受けた。そして、「パルスの効果があるかどうか判断するには2、3か月様子をみる必要がある」とのことで、そのままその大学病院に月1回通院することになった。

この頃の私には大きな悩みがあった。それは、「このままこの病院で診てもらうべきなのか?」という悩みである。

この大学病院は、ゴールデンウィーク中に開いていたクリニックをたまたま見つけて駆け込み、そこの医師が紹介してくれた病院だった。一応「どこか希望の病院はありますか」と医師は聞いてはくれたが、こちらにはそんなことを考える余裕もなかったのでおすすめの病院を伺ったところ、「パルスをするならここかな」ということだった。

今考えると、この医師の判断は、正しいと同時にちょっと間違っていた気もする。

正しかったと思えるのは、この大学病院へ行ったことで、本当にすぐにパルスをすることができたから。そして、ちょっと間違っていたかもと思えるのは、この大学病院には、脱毛症の専門医が一人もいなかったからだ。

クリニックの医師は、私の頭を見て円形脱毛症とすぐに診断し、一般的な治療法も一通り把握できていた(病気に詳しくなった今振り返っても、比較的良心的な医師だったと思う)。その彼が、なぜあえてここを紹介したのだろう、と不思議に思うくらい、この大学病院は脱毛症患者に慣れていなかった。中規模ではあるが、一応大学病院で、一応脱毛症も診ているとのことだったが(脱毛外来などはなし)、担当医師の話がなにか判然としないのだ。話しながらいつも考えているというか、思い出しながら話している感じだ(入院中は皮膚科のトップの医師にも見てもらっていたが、やはり判然としない話し方だった)。

こっちとしては、思い通りに治療がうまくいかなくても責めたりしないから、モノはある程度ハッキリ言ってほしいし、最低限の知識はあってほしい(あるからこそ思い出しているのかもしれないけれど)。

また、担当医と相性がいいとは思えない、ということも大きかった。

担当医師は初診で「脱毛症が遺伝とか聞いたことない」と豪語し(いつもは判然としないのに)、確かに直接遺伝はしないようだが、なりやすい体質は遺伝するらしいと小耳にはさんでいたので、自信満々で言うことでもないよなと、この医師に対しては最初から疑いの心を少し抱いていた。が、診てもらう回数を重ねても、どうも信頼できない。ちぎれて残った毛の根本を見て「生えてきてますよ…!?」とほとんど感動の声色で言ったかと思えば、別の日には「もっといっちゃうかと思ったけど、けっこう残ってますね(毛が)」と突如ドギツイことを言ってきたりして、色々と余計なことを考させる人だった。そもそも、この医師は重度の円形脱毛症は何をしてもどうしようもないと思っているふしがあり、その気持ちを上手く隠せないでいるようだった(だから、いつもハッキリしない話し方だし、「無駄に」ステロイドを使うのは良くないと思っていたのかもしれない)。なんていうか、これは専門性うんぬんの話以前に、性格的にこの人とは合わないような気がした。なんか好きじゃない。

さらに、「本当にこの病院でいいのか?」と思ったのは、この担当医師が実務面でルーズだったということもある。入院中、そして外来で処方箋を出されるたびに、出すと言っていたはずの薬が何か足りないのだ。発言もルーズ気味だったが、これは本格的に困る。大学病院だと、その訂正もいちいち面倒な手順が必要だった。

しかし、この医師は、話は毎回よく聞いてくれた。今まで出会った皮膚科医のなかでも、かなり話を聞いてくれる人だった。何より、緊急事態宣言中に命に別状もないのに入院させてくれたという恩もある。ステロイドに対しては全面的に否定的な態度をとっていたが、そういう考え方自体はアリだと思う。私もアトピー治療の際はステロイドのせいで痛い目を見たこともあるし、ステロイドが何が何でもいいとも効くとも思っているわけではない。

ただ、この大学病院に行くと、医師の言動が発端となって毎回気が塞ぐのは間違いないのだった。処方忘れ以外にも書くのが面倒な程些細な、でもなんか引っかかることが多かった。病院に行くこと自体がストレスとなっていった。

パルス後の診察で、「パルスが効かなくても、もうパルスはしない。ステロイド内服もしない」とこの医師は宣言しており、この後にやる治療としては局所免疫療法が有力候補だった。局所免疫療法というのは、化学薬品を使って意図的に患部をかぶれさせ免疫を発動させることにより、毛根への誤った攻撃を抑制しようと試みる療法だ。

このルーズな医師が私の頭をかぶれさせるのか…?

本人は「うまくやります」と言っていたが(こういうこと言うから余計に怪しい)、本当に大丈夫なのか?かぶれさせ過ぎたりするんじゃないか…?

疑心暗鬼が募る中、ついに私にとって決定的なことが起きた。

2020年7月。パルスから2か月が過ぎたものの経過は芳しくなく、髪の毛以外の眉、まつ毛、鼻毛なども本格的に抜けていた。まつ毛がないと目がかゆいし、鼻毛がないと些細なゴミにも大きなくしゃみで反応してしまうと、話した。

目薬は市販のものを使っていると言うと、「一応目薬出しましょうか?やってみて必要なければ使わなくてもいいので」とカジュアルに提案されたので、お願いした。アレルギーの飲み薬も出してもらうことになった(ちなみに、アレルギー薬は、最初処方されていたが、私が不眠を訴えると「アレルギー薬の副作用かも」と処方されなくなっていた。絶対アレルギー薬の副作用じゃないと私は思っていたし、事実そうではなかったのだが)。

会計に行くと、支払金額がいつもより三千円ほど高くて驚いた。会計の点数で見る限り、カジュアルに提案されたあの目薬が二千円くらいしていた。使わなくてもいいかもしれないものに二千円…(しかもめちゃくちゃ小さいのが2個。病院の目薬って高いんですね)。やられたと思った。

さらに驚いたことに、鼻炎の点鼻薬も出ていた。予定より薬が足りないのは毎度のことだったが、予定より多いパターンは初めてだった。

確かに「鼻がつらい」とは話したが、診察中に点鼻薬の話など一切しなかった。薬を出すのはいい。話を聞いていてくれていたんだろう。この薬があれば鼻の症状は楽になるのかもしれない。だが、出すなら一言ほしかった。互いに同意できてない薬を出すのはどうなんだ。

この一件があって、この病院に行くのはやめた。もう行かないと、決心することができた。

「たったそんなことで?」と思う人もいるかもしれない。自分でも「単に私がケチなだけでは?」もしくは「病院の目薬高いの知らなかっただけでは?」とも思うし(無職だからケチはしょうがないよ)、人によっては「気が利く良い先生」と感じる人もいるかもしれない。でも私は嫌なのだ。患者の同意をとらない医者には見てもらいたくないのだ。これを許したら、なんでもアリのずるずるになるかもしれない。油断ならない、というか、信頼できない心持ちで病院に行くのは疲れすぎる。ただでさえ、慣れない脱毛と不眠で、疲れているのに。脱毛症とストレスの直接の因果はまだハッキリとはわかっていないが、ストレスが少ない方がいいに越したことはないので、「気が乗らない病院なのならば行かないでよし」とすることにした。あまり病院を変えない方がいい、という見方もあるが、脱毛症は病院や医師によって対応があまりに違う可能性があるので、「なんか違うな」と思ったら変えていいんじゃないかと思う。

ステロイドパルスから2か月ほど経っていて、治療の効果がほとんどなかったことも確定したので、病院を変えるにはいい頃合いだった。

目薬はあまり効かなかった。点鼻薬も。

クリニックの医師が、なぜこの大学病院を勧めたのかは、わからないままだが、「恐らくコロナの対応をしていない、確実にパルスができる病院」という観点で選んだんだろう、と勝手に解釈するようにしている。そうじゃないと納得できないほど、よくわからない場所で治療してしまった(追記:看護士さんが懇切丁寧で、過去入院した中で一番ご飯がおいしくて、清掃の方も嫌な顔せず私の散らかした大量の髪を片付けてくださったので、入院生活自体は恵まれていました。今でも感謝しております)。

またクリニックでは、私自身も余裕がなく「どこか病院おススメしてください泣」という態度がよくなかった。泣きそうになっている場合ではなかった。自分で病院を探すのだ(でも急に大量に髪抜けたらそりゃ泣くよ…)。

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