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科目数の少ないカリキュラムをどう作るか(2)

少し時間が空いてしまいました。授業準備とかレポートのフィードバック、それに学内の会議が続き、ブログを書くことすら難しい日々です。ただいま新幹線の中で、この記事を書いています。移動時間が長いと仕事が進むという効用がありますね。

さて、前回の記事「科目数の少ないカリキュラムをどう作るか(1)」は、科目数が多いカリキュラムの弊害についてでした。前回の記事に「教務担当者必読」などという反響をいただけて嬉しいです。

適正な科目数とは?

次に生じる疑問は、「それでは、適切な科目数とはどれくらいなのか?」というものでしょう。

前回も書いたように、科目の多くが2単位で要卒単位が124単位だとすると(最近はそうじゃない大学も増えてきましたが)、卒業のために最低限62科目を履修する必要があります。そのうち20〜25科目程度は語学や教養・一般科目・共通科目を履修しなければならないという大学が多いでしょう。そうすると、専門科目は最低限30〜40科目になります。(※もちろん、1科目あたりの単位数が少なすぎる点が根深い問題なのですが、それはまた別の機会に)

つまり、最低限ということであれば、どの大学でも、専門科目は30〜40科目あれば足りるのです。でも、そんな科目数で多くの大学は満足(我慢)できないはずです。学生に「学びの選択肢を与えるため」とか、「学問体系から必要な科目」といった2つの要因を考慮して、多くなっていくはずです。最近では、「社会的ニーズを考慮して」といった要因も加わりました。今後、実務家教員が加わると、科目を増やす新しい理由がさらに登場するかもしれませんね。

こうして、科目数はどんどん増えていく傾向にあるのですが、では、どこまでが「適正」で、どこからが「増えすぎ」だと言えるのでしょうか? 

実は、答えは簡単ではありません。カリキュラム論からは答えは出てこないのではないでしょうか。特に、「学問体系」から考えると、「適正な科目数」を導き出すことはおよそ不可能です。

東大・一橋大法学部の科目数は?

さて、僕は高等教育論の研究者ではないので、抽象的な話に深入りせず、具体的に考えてみることにします。まず、僕が前の大学で所属していた法学部を例に取り上げてみましょう。「法律学」が中心となる「法学部」には、いったい何科目ぐらいあればよいのでしょうか? 法律学カリキュラムの適正科目数とはいったい何科目ぐらいなのでしょうか?

たとえば、東京大学法学部の後期課程科目数は、「東京大学授業カタログ」を検索すれば、198科目が出てきます。ちなみに学生数は400人ちょっと(1学年約200人)です。教員数は76名です(特任を除く。ちなみに東大は教員だけで3850人近くいるんですよね!)。天国ともいえる大変贅沢なST比ですね。さて、ここで、76名の専任教員が198科目すべてを担当する(ゼミを除く)という乱暴な想定をすると、平均一人あたりの科目数は2.6科目となります。

次に一橋大学法学部をみてみましょう。教員数は60名です(特任を除く)。科目数は114科目です。一人あたりの科目数は平均1.9科目です。教員が少ない分、科目数も少なくなっていますね。

他の大学も見たかったのですが、カリキュラムや学科目表をホームページでわかりやすく公表している大学はあまりありませんでした。大阪大学法学部や九州大学法学部、私立大学でも早稲田大学法学部、慶応大学法学部など、主要大学を見て回ったのですが、すぐに見つけることはできませんでした。情報公開のディレクトリの深いところにあるのかもしれませんけれど。どなたか見つけられた方は教えてください。

ともあれ、おそらく東大法学部は、日本の法学部の中でも最も科目数が多い大学である、ということは想像できます。なぜなら法学部の教員が70名以上もいる大学はそうないからです。

では、小規模大学だとどうなるでしょう? 同じ国公立法学部でも地方の小規模大学だとどうなるでしょうか? 例えば香川大学だと専任教員は25名です。東大と同じ比率で考えると、科目数は65科目になるはずです。実際、香川大学法学部のカリキュラムマップを見ると、法学部が開講している科目は、ゼミを除くと60科目前後であることがわかります。

カリキュラム改革の第1原則

ここらでだんだん明らかになってきました。まず押さえておくべきことは、「総科目数を制約する最大の要件は、学部に所属する教員数である」ということなのです。

小規模大学で、東大や九大のような”フルスペック型”のカリキュラムを導入しても、先生の数が足りないので、回しきれなくなるのがおちです。非常勤依存率が高くなるか、閉講せざるを得ない科目がたくさんでてくるかのどっちかです。もう一つ、教員が担当するコマ数を増やす、という教員からみると悪夢のシナリオもありますが(笑)、一人あたりの担当コマ数を増やせば、授業の質は確実に落ちます。

というわけで、「教員数によって適正な科目数が決まる」というのは、現実にカリキュラムを考える上で、まず押さえておくべき第1原則です。そして、この原則を、学部教員全員に納得してもらうことが、小規模大学におけるカリキュラム改革をスタートさせる第一歩なのです。

では、実際どういうふうに計算していけばよいのでしょうか? 佳境に入ったところで続きます。

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