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妖怪が好きな人。

インタビュー12:妖怪が好きな人。


~ルーツを探る~

Kさん:
40歳前後の女性。旦那さんと小学生の娘さんと暮らしている。美大卒。おでんの友人の友人。

インタビュー:2018年夏ぐらい

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●魔法陣を模写する小学生。
おでん:妖怪との出会いを教えていただけますか。
Kさん:うーんと。私たちが小学生のときって、鬼太郎のアニメやってましたよね、土曜日。
おでん:80年代ですね。やってましたねぇ。夢子ちゃんとかが出てくるやつ。
Kさん:うんうん。あれのエンディングに出てくるカニの絵がめちゃめちゃ怖くて。
おでん:カニ…は覚えてないけど、あのアニメ、エンディングの絵だけは水木しげるの絵でしたよね。
Kさん:うんうんうん。本編の絵柄はかわいいのに、エンディングの絵がめっちゃ怖い…。
おでん:それは私も感じてました。
Kさん:その印象がすごく強くて。
おでん:それが最初の出会いだったわけですね。
Kさん:はい。で、その後『悪魔くん』のアニメが始まって。
おでん:あったあった。小学校の高学年ぐらいかなぁ。
Kさん:それにめっちゃハマって。もちろん、魔法陣もかいてみたりとかして。
おでん:「もちろん」…?
Kさん:録画したアニメを一時停止させて、それを見ながら魔法陣かいて。「一緒のものができた!」って、一人で満足して。
おでん:ははぁ。
Kさん:子どもというものは、みんなそういうことをしてるもんやと思ってたんですけど、大学に入って周りに話したら「そんなことしてないよ」って言われて。「あれ!?そうなんや」って。
おでん:ですよね…(笑)。
Kさん:まあ、そんな感じで子どものときは『悪魔くん』が好きで。
おでん:はい。
Kさん:で、大学生になったときに、ちょうど京極夏彦がはやってて。
おでん:はやりましたねぇ。2000年前後かな。
Kさん:友だちに「この本おもしろいよ」って紹介されて、めっちゃハマって…。京極夏彦、読んだことあります?
おでん:2冊ぐらい…。
Kさん:うんうん。結構あれって、妖怪の起源を考えるような内容もあって。歴史とか民俗学とか心理学とか、いろいろ混ぜながら推理するような感じで…。
おでん:そうやったかも(←うろ覚え)。
Kさん:私、高校のときから歴史が好きだったんですね。で、心理学や民俗学にも興味があったので、「私が好きなこと全部入ってるやん!」て思って。
おでん:へぇ~。
Kさん:さらに、その頃、水木先生と京極夏彦と荒俣宏が、『怪』っていう妖怪のムック本をつくってて。そこに、一般の人でも読めるような民俗学の本とかが載ってたんです。で、そういう本を読みだして…。
おでん:それで、本格的に妖怪が好きになったんですね。

●妖怪の楽しみ方。
おでん:
妖怪がお好きだと聞いたときは、妖怪をキャラクターとしてお好きなのかと想像してたんですけど、ちょっと違う感じですね。
Kさん:そうですね。特に推しの妖怪がいるわけではなくて。妖怪とは関係ない本や漫画を読んだり、旅行先で地元の伝説を聞いたりしたときに、「これってあの妖怪の話に似てる」とか、想像するのがおもしろい。
おでん:たとえば?
Kさん:うーん。あの、日本海側って、結構、海や水に関わる伝説や妖怪が多いんですね。たとえば、諸星大二郎先生の漫画とかにもあるんですけど、「うつぼ舟」っていう話があって。
おでん:ほう。
Kさん:UFOみたいな、近未来的な形をした乗り物が海から流れてきて、中に赤ちゃんが入ってたとか、美人の女の人がはいってたとか、そういう話なんですけど。日本海側には、そういう「流れ着いてくる系」の話が結構多いなーって。私が勝手に思ってるだけなんですけど。
おでん:へぇ~。まあ、確かに、日本海側は流れ着きやすい環境ですよね。中国や韓国も近いし。
Kさん:でもね、和歌山とかあっちの、太平洋側だと、流しっぱなしの話があるんですよ。話というか習慣なんですけど、生きているお坊さんを木の箱に入れて釘で打ち付けちゃうんです。で、食料とか水とかと一緒に舟に積み込んで、海に流してしまうっていう…。*
おでん:おう…。
Kさん:それはまあ、即身仏みたいな、修行のようなやつなんですけど。
おでん:そんなんあるんや。
Kさん:そこから、「日本海側は異世界との行き来があるけど、太平洋側は行きっぱなしなのかな~」とかを勝手に考えて。「楽し~」みたいな(笑)。
おでん:おもしろいですねぇ。
Kさん:そういう感じで、いろいろ考えながら本を読んだり、旅行したりするのがおもしろいです。
おでん:なるほどー。

*……補陀落渡海(ふだらくとかい)。観音さまが住むという補陀落をめざして、舟で海を渡る行。

●妖怪はいるのかいないのか。
おでん:
あのー、妖怪は実在すると考えていらっしゃいますか。
Kさん:
おでん:なんというか、民俗学的に妖怪の正体を探っていくと、結局「妖怪は実在しない」という答えに達してしまう気がするんです。妖怪好きとして、その現実とどう折り合いをつけておられるのかと思って。「妖怪好き」と「妖怪の非実在」は両立できるもんでしょうか。
Kさん:…うーんと。ちょっと、妖怪とは違うかもしれないですけど。私、20代半ばの頃に、青森県の恐山に行ったことがあるんです。
おでん:ほう。
Kさん:そこで、イタコに降霊してもらったんですよ。
おでん:ええっ、すごい!
Kさん:あはははは。値段いくらか忘れちゃったんですけど。私、12歳のときに母親を亡くしてるんで、「お母さん呼んでもらいたいです」って言ったんです。
おでん:はい。
Kさん:で、降霊の前、イタコの方から「職業は?」って聞かれたんですね。当時私はソフトウェアの開発をしてたんですけど、「開発って言っても伝わらへんかも」と思って、「事務職です」って言ったんですよ。
おでん:説明するのもややこしいから。
Kさん:うんうん。で、降霊が始まったら、「お母さんがやってほしい仕事に就いてくれて嬉しい」…みたいなこと言われて(笑)。「いや…、ホントは事務職じゃないんですけど…」って。あはははは。
おでん:ああ~…(笑)。
Kさん:でもやっぱ、あのう、「ここまで大きくなってくれて、お母さん嬉しいわ」みたいなことをね。…めっちゃ津軽弁なんですけど(笑)、言うんですよ。そしたらやっぱり、おかしいなと思いつつ、めっちゃ癒されて。
おでん:うん。
Kさん:あのときの降霊が本物なのか本物じゃないのかって言ったら、まあ、本物じゃないと思いますけど。でも、やっぱり、アリだと思うんです。
おでん:はいはい。占いもそうですけど、「当たる・外れる」が問題ではなくて、それによって元気になったり癒されたりするなら、それはそれで存在意義があるっていう…。
Kさん:そうそうそう。だから…、妖怪もいないかもしれないけど、アリです!あはは。
おでん:なるほど、分かりました。実在することだけが存在することではないですもんね。
Kさん:でも、いたらいいなーとは思ってますよ。ふふふ。

●『妖怪ウォッチ』問題について。
おでん:
民俗学的に妖怪を楽しむ気持ちと、鬼太郎の漫画を楽しむ気持ちって、たぶん別ですよね。
Kさん:別個な感じですね。鬼太郎も大好きですけど、あれはよくできたキャラクタービジネスって感じがすごいする。あはははは。
おでん:最近また新しい鬼太郎のアニメやってますね。あれはやっぱり、人気が見込めるからやるんでしょうねぇ。
Kさん:ちょっと前は『妖怪ウォッチ』がすごかったから。子どももよく見てたんですけど。
おでん:来た!お子さんがいらっしゃる妖怪ファンと聞いて、妖怪ウォッチの話は聞かねばならないと思ってました。
Kさん:あはははは。
おでん:鬼太郎で育った妖怪ファンとして、妖怪ウォッチはどう見ていらっしゃいましたか?
Kさん:んー。あのね、妖怪ウォッチに、一反木綿に似てる「一旦ゴメン」ていうキャラクターがいるんですよ。「ごめーんごめーん、いったんごめーん」て謝るの。子どもは鬼太郎の一反木綿を見ると「あ、一旦ゴメン」て言うんです。そのときは「ちげーよ…」「そっちが後だよ…」って思うけど。あははははは。
おでん:いけませんなぁ。
Kさん:でも、子どもたちに妖怪を広げるためにはしかたないと思ってて。ぐっとがまん(笑)。
おでん:えー、妖怪ウォッチって、妖怪を広げることになってるんですか。
Kさん:なってます!あれは、水木先生が亡くなった後も、子どもたちに妖怪っていう文化を知らしめる大切な…。
おでん:でも、「一旦ゴメン」みたいに、水木しげる系の妖怪を新しい妖怪で塗り替えてしまってるじゃないですか。
Kさん:いや、昔ながらの妖怪も、「レジェンド妖怪」として出てくるんですよ。
おでん:あ、そうなんや。
Kさん:あと、去年は妖怪ウォッチの映画に鬼太郎が出たんです!
おでん:へぇ~。
Kさん:うちの子はママが鬼太郎好きってのを知ってるから、「ママちゃん大変!今度の映画、鬼太郎出る」って教えてくれて(笑)。
おでん:かわいい(笑)。
Kさん:そういう形で出してくれるから、全然アリです。
おでん:なるほど~。ちなみに、おうちに鬼太郎の漫画とか置いてますか。お子さんに見せるために…。
Kさん:なくはないですけど、漫画とか見せて怖いと思われたらいややなーと思って、特に見せてません。マグカップを鬼太郎にしたりとか、そんな程度です。
おでん:軽いジャブから。
Kさん:そうそうそう。「これはキャラクターなんだよ~」「怖いのじゃないんだよ~」ってところから攻めて(笑)。鬼太郎のDVD-BOXもあるんですけど、白黒で怖いから見せてないです。
おでん:戦略的に妖怪教育をしていらっしゃる。
Kさん:あははは。いやー、でも、「嫌いにならなきゃいいかなぁ」ぐらいです。好きになるかならないかは本人次第ですねー。

●「目の妖怪」が多い謎。
おでん:
これからの目標を伺ってもいいですか。
Kさん:目標…。うーん…。妖怪の勉強、したいなー。大学、入り直したーい。
おでん:そっかー。…妄想でいいんですけど、もし大学に入り直したとして、卒論のテーマは何にしますか。
Kさん:んー。あのう…。私は、目をモチーフにした妖怪が気になるんですけど。
おでん:目。
Kさん:はい。悪魔くんだったら百目ちゃん。鬼太郎だと目目連(もくもくれん)。目がモチーフになった妖怪って多いんですよね。
おでん:へぇ、確かにそうかも。鼻がモチーフの妖怪は思いつかないし。…手足がモチーフの妖怪はいるかな?
Kさん:足が一本とか、手足がめっちゃ長いとか、そういう妖怪はいますけどね。それにしても、目の妖怪は種類が多いなーと思って。なんでかなぁ、なんか理由あるんかなぁーって。
おでん:なるほど。それを調べてみたいと。
Kさん:あと、民俗学的な方向と、心理学的な方向、両方から妖怪を調べてがっちゃんこしている人ってあんまりいなくて。なんか、両方からアプローチして仮説を立てるのも楽しそーって。
おでん:ふーん。もしも目の妖怪を心理学的に分析するなら、目が人に与える印象とかを研究することになるんですかね。
Kさん:そうですかねー。
おでん:目の妖怪を民俗学的に調べるとなると、どうするんですか?
Kさん:まあ、まず、日本各地のどの辺に目の妖怪がいるのかを調べますよね。
おでん:はい。
Kさん:あと、目の神社とかも結構多いじゃないですか。そういうのを調べたり…。あと、目の疾患が多い地域とか、目の悪い人が多い地域を探したり。…とかですかねぇ。
おでん:なるほどー。おもしろそう!
Kさん:おもしろい!ふふふ。…まあ、今はやっぱり、子どもがいるのでねぇ。しばらくは、たまに本を読むぐらいで楽しみます。

<おわり>