見出し画像

昭和町が好きな人。

インタビュー16:昭和町が好きな人。

~「好き」を形に。~

Sさん:
33才の女性。情報誌をつくる仕事をしている。おでんの知り合いの知り合い。

インタビュー:2019年春ぐらい

----------------------

◇基本情報:
 ・昭和町………大阪市阿倍野区にある町。
 ・「どっぷり、昭和町。」………4月29日「昭和の日」に行われる昭和町のお祭り。


●イベント終了後に語る。
おでん:事前のメールでは何を話すか迷っておられたようでしたけど、結局何にされますか。
Sさん:結局…、昭和町にしようかなと。
おでん:ああ、いいと思います。
Sさん:関わっていた「どっぷり、昭和町。」も終わって、ちょうどいろいろ一段落したところだったので。
おでん:そうでしたか、お疲れさまでした。今年の「どっぷり、昭和町。」も、お客さんがいっぱい来たみたいで、実行委員の方も大忙しだったんじゃないですか。
Sさん:あ、私はイベントそのものよりも、イベントに合わせて年に1回発行するフリーぺーパーの制作に参加したという形で。
おでん:あ、そうなんですね。
Sさん:あと、実行委員会のメンバーではなく、私はボランティアスタッフという立ち位置で。
おでん:ははー。
Sさん:実行委員会のメンバーは地元の方が多いんですよ。
おでん:そっか、Sさんは昭和町在住じゃないですもんね。…でも、「どっぷり、昭和町。」には、ずいぶん長いこと関わっていらっしゃいますよね。
Sさん:いやー…。初めてボランティアに参加したのは2016年だから…。
おでん:今回は4回目か。
Sさん:そうですね。
おでん:思ったより短いなぁ。


●昭和町時代 第1期:学生として暮らす。
おでん:昭和町との出会いを教えていただけますか。
Sさん:はい。私はあのう…、もともと、静岡に住んでたんですけど。高校時代から雑誌が好きで、「雑誌つくりたい」「ライターになりたい」って思ってて。
おでん:そうやったんや。
Sさん:それで、大阪にあるマスコミ系の学校に進学して、住み始めたのが昭和町だったんです。
おでん:なるほど。ミナミの方にある学校だったんですね。
Sさん:いえ、学校は梅田の方にあって…。
おでん:…なぜ昭和町に(笑)。
Sさん:ふふふ。キタの方に学生マンションとかあったんですけど、ちょっと高くて。
おでん:ああそっか。確かにキタは高そう。
Sさん:あと、やっぱり、静岡から出てきて初めての一人暮らしで、いきなり都会っぽいところは無理だと思って。学校紹介の不動産屋さんに「田舎っぽい雰囲気のところを」って言ったら、南の方を案内されて。
おでん:まあ、そうなるか。
Sさん:で、何件目かに案内されたのが昭和町で。駅前に立ったときに、直観で「ここだったら大丈夫かな」みたいな感じで。
おでん:おおー。
Sさん:住宅街で、商店街も近くて、家のすぐ近くに桃ヶ池公園もあったりとかして…。
おでん:なるほど、暮らしやすそう。
Sさん:とはいえ、当初は単に「住む場所」という感じでした。町にも特に興味なく。
おでん:そっか。
Sさん:町に興味をもつようになったきっかけはいくつかあるんですけど、その一つが学校の授業で。
おでん:ほうほう。
Sさん:写真の授業で、「一日一本フィルムを使いきれ」「そこから一冊写真集をつくれ」っていう課題が出たんです。――それで、町の写真を撮るようになって。
おでん:ほぇー。
Sさん:それがきっかけで、町をよく歩いて、町をよく見るようになりました。
おでん:良い課題でしたねぇ。
Sさん:あと、別の授業で「ブログをつくろう」っていう課題もあって。
おでん:ほう。
Sさん:先生が学生1人に1個ずつアカウントをつくってくれて、「好きな雑誌を一冊つくるように、ブログを書きなさい」って。さらに「更新頻度も採点に入れる」って言われたんで、「毎日更新しなきゃ!」ってなって。
おでん:そりゃ大変だ。
Sさん:それで、「住んでる町のことだったら、ネタがあるかもしれない」と思って、昭和町含む阿倍野をテーマにすることにしたんです。好きなお店とか、お店で買ったものを紹介する感じで…。で、更新していくうちに、町のことをもっと見るようになったんです。
おでん:なるほどー。
Sさん:そこでびっくりしたんですけど、町の方からブログにコメントをいただくことが何度かあって。「自分もこのお店が好きだ」とか「昔はこの辺はこんなお店があって…」とか。
おでん:へぇー。
Sさん:今考えると、見知らぬ学生のブログによくコメントしてくださったと思うんですけど。「皆さん、町のことが好きなんだなぁ」って感心しつつ、そんな交流もできて。
おでん:優しいなぁ。
Sさん:そういう感じで町に愛着をもつようになったんですが、就職を機に引っ越すことになって…。
おでん:はい。
Sさん:それからしばらくは、昭和町から離れてました。


●昭和町時代 第2期:ボランティアとして関わる。
おでん:それが、2016年にまた昭和町に関わることになるんですね。
Sさん:はい。2016年の冬に、友だちに勧められて、ある人の個展を見に行ったんです。それが昭和町のギャラリーで開かれていて。
おでん:ほう。
Sさん:そこで、お店の方とお話するうちに、「『どっぷり、昭和町。』っていうイベント知ってる?」「最近規模が大きくなって面白くなってきてるよー」って話になって。「あーそうなんだぁ」って。
おでん:なるほど、そこでちょっと興味が出て。
Sさん:はい。で、その数週間後、ボランティアの説明会があったので参加して。
おでん:うんうん。
Sさん:そしたら、偶然、学生時代にお世話になった先輩が実行委員にいて。
おでん:へぇ!
Sさん:で、「情報誌のお仕事してるんだったら、イベントに合わせて発行するフリーペーパーの確認作業とかやってみない?」ってお話をもらって。
おでん:おー。そこから参戦するようになったんですね。
Sさん:はい。ボランティアスタッフとして。
おでん:なるほどー。
Sさん:で、その年のフリーペーパー第1号は文字校正しただけで終わって、翌年の第2号もしっかりとは関われなかったんですけど。ちゃんと関わってみたかったので、第3号からはもう、最初の編集会議からがっつり参加して。
おでん:それが2018年、去年ですね。
Sさん:はい。で、第3号は自分的には80%ぐらいの満足度だったんですけど、町の方からご指摘いただいたりとか、反省点もあって。
おでん:はいはい。
Sさん:で、4度目の正直が今年の第4号です。
おでん:ほー。今年の満足度はいかがでしたか。
Sさん:今年は…。制作的には一番しんどかったです(笑)。あのう、1号から3号までは町の方にコラムを書いてもらってたんですけど、第4号はかなり方向を変えることになって。
おでん:うんうん。
Sさん:「日常記憶地図*」っていう特集を組んだんですけど。
おでん:にちじょう…?
Sさん:あ、「日常記憶地図」は、サトウアヤコさん*っていう方が考案した取り組みなんですけど。町の人が普段よく行く店とか道とか場所を聞いて、それを文章と地図に落とし込むっていうもので…。
おでん:んー、公的な視点でなく、内側の私的な視点で町の姿を紹介する感じかなぁ。面白そう。
Sさん:そう…。私も最初は「面白いからそれでやりましょう!」って言ったんですけど。でも、1人目のインタビューが終わった後に、「これってもしかして、すごい大変な作業なのでは?」と思って…(笑)。
おでん:ああ、確かに、大変そう…(笑)。
Sさん:インタビューして、テープ起こしして、文章にして、さらに地図も作成するっていう…。しかも、11人インタビューするって決めてたんで…。
おでん:11人!
Sさん:まあ、めちゃくちゃ大変で(笑)。
おでん:そりゃ大変でしょう…。
Sさん:でも、一般の方に充実した話が聞けるのは本当にありがたいなと思って。
おでん:うん、すごい面白そう。
Sさん:それに、やっぱ、普段の情報誌の仕事だと、自分が紹介したい話はマニアックすぎてダメとか、掲載誌に合わないから書けないとか、そういうことが多々あって…。だから、ある意味制限のない中で、本当に伝えたいことを伝えられるっていうのは…。そうですね、仕事でできないことをやっているような感じはあって。
おでん:うんうん。
Sさん:第4号には、情報誌の仕事を10年やってきて、その中で身につけた技術を全てつぎ込みました(笑)。もう、できることがもうないぞっていう。それぐらい力を注ぎました。
おでん:それは素晴らしい!
Sさん:絞りだした状態です。
おでん:…しかも、普通に仕事をしながらですよね。ボランティアでそれ…。
Sさん:そうですね…。ボランティアで…(笑)。こんなことしててええんかっていう(笑)。
おでん:いやいや、良い意味でなかなかできないですよ。普通はお金がもらえないとできないレベルじゃないですか。使ってる時間と労力の量が。
Sさん:そう…。自分でもおかしいと思う…(笑)。

*日常記憶地図 http://my-lifemap.net
*サトウアヤコさん http://satoayako.net


●みんなが好きな昭和町が好き。
おでん:いや、全然おかしいとは思いませんよ。でも、そこまでさせる力って何なのだろう。それが昭和町の魅力なのかな。Sさんはどうして昭和町が好きなんですか。
Sさん:私もその、友だちとかからずっと、「なんでそんなに昭和町が好きなん?」って聞かれたりして。うまく答えられなかったんですけど。
おでん:うん。
Sさん:下町っぽさがあって、落ち着ける喫茶店があって、程よい距離感が取れる町で、とか…。でも、全然特別な場所ではないし…。
おでん:うん…。
Sさん:なんか、なんで私一人だけ昭和町好きなんだろうって思ってたぐらいで。
おでん:うん(笑)。
Sさん:でも、2016年からもう一度昭和町と関わるようになって、実行委員やボランティアをやってる地元の方とも関わるようになって。そしたら、なんかやっぱりみんな昭和町のことが好きなんですよ。「日常記憶地図」の取材をしていても、みんなそれぞれ昭和町のことが好きで。
おでん:うんうん。
Sさん:この企画をやって、「昭和町に住んでる人はやっぱり、昭和町への特別な思いを持っているんだ!」って、変に安心した部分があったというか。
おでん:はい。
Sさん:なので、昭和町好きとしては、昭和町を好きな人たちの思いを、形にしたいという思いがあった……かもしれないです。
おでん:なるほどー。


●これからの目標は…。
おでん:来年、第5号が出るとしたら、どんな内容にしたいですか?
Sさん:うーん…。てか、第4号で、ホントに、私が今できる100%のことはしたので…。私はステップアップしない限り、これ以上のことができないと思ってて…。続けるべきかどうか考えている段階で。
おでん:そっかー。
Sさん:町の方々にはお世話になってるから、続けた方がいいのかなぁ…みたいな気持ちもありつつ…。ただ、ずっと昭和町昭和町言ってるのも…。それもどうなのかなと思って…。
おでん:そうですねぇ。一回ちがう世界を見るのもアリですよね。そこで新しい経験積んで、パワーアップしてから昭和町に戻ってくるのもいいし。
Sさん:あと、実は今、転職も考えてて。
おでん:そうなんやー。
Sさん:壮大な話なんですけど、今後どうやって生きていくかって考えたときに、情報誌の仕事って、体力的に厳しいものがあって…。あと、情報を追っかけてるのが疲れたなってのがあって。
おでん:そっかー。
Sさん:かといって、次の職場とか、仕事とか、全然考えていないんですけど…。ホントに、どうしようかなって思っちゃって。
おでん:そっかそっか。今、ホントにちょうどいろいろなものが一段落した時期なんですね。
Sさん:そうですね…。次やりたい仕事が、大阪以外で見つかったら、そこに行くのもアリなのかなぁと…。
おでん:アリじゃないですかね。
Sさん:そう……。うん……。
おでん:何をするにせよ、頑張られたぶん、良い道が開けるんじゃないかなぁ。


<おわり>