ニンゲンの集まりは基本的に低レベルの方に引っ張られる

自分のほうが仕事ができるし、俯瞰して物事もみられるし、よりよい職場環境や成果を出すためのアイデアもあるのになぜ無能な歳を食っただけの上司や先輩のレベルに合わせないといけないのかと思ったことや、それに合わせることを強要される理不尽さを感じたことは無いでしょうか?

私はあります。それが一つの要因となって新卒で入社した会社を一年で辞め転職しました。

さて、ニンゲンが集まると、それは家族と呼ばれたり、学校と呼ばれたり、会社と呼ばれたり、サッカーチームと呼ばれたり、アイドルグループと呼ばれたりします。つまり何かしらの組織になります。

組織にはいろいろな特徴があると思うのですが、パフォーマンスレベルは色んな能力のある人が集まっているなかで低い方に揃うのか、高い方に揃うのかどちらでしょうか?普通に考えれば、能力の高い人達と能力の低い人達の平均とか中央値に揃うと考えると思います。結論からいえば、組織のレベルは低い方に揃います。

ここで、久石譲の著書から引用してみましょう。
久石譲(2006) 感動をつくれますか?, 角川oneテーマ21, 角川書店, 東京.

“ある歌舞伎の女形(おやま)が「私はバカが大っ嫌いです。バカってうつるんですよ」といったのを聞いたことがある。名言だと思う。
自分の置かれている環境を整備しないと、レベルというのはいとも簡単に下がっていく。
サッカーがいい例で、ピッチに立つ選手十一人、みんな国際級の実力がある中で一人だけ致命的に弱いやつがいるとする。フォーメーションを組んでいても、そのポジションが穴になり、そこばかり攻められる。他の選手たちがみんなそのアシストにまわる。結果、フォーメーションは崩壊する。
弦楽四重奏曲も同じである。国際級にすごいソリストを入れても、中に一人ヘタな人間がいると、アンサンブルとしての実力はそのレベルに下がってしまう。オーケストラも一緒。
会社も一緒だと思う。非常に有能な社員がいても、部署にどうしようもないやつが一人いると、組織のレベルはきっと下がる。
だが、蟻の集団の中にも、よく働く蟻と働いていないように見える蟻がいて、怠け者を省いて働き者だけで新たに集団を作ると、結局、その中から何割か働かない蟻が出てくるという。組織とか集団とはそういうもので、働いてないやつを切ったらよくなるかというと、よくならない。ここが難しい。
ではどうしたらいいのか。下のレベルを向上させるしかない。”
*1

これは、よりマッシッブな社会についても当てはまることだと思います。
「先の大戦は侵略戦争で周辺の国々をひどい目に遭わせたし、何よりも自分たちもひどい目に遭った。」と思っている中に、「先の太平洋戦争が悪かったなんて自虐史観だ!今一度日本を戦争のできる国にしよう」というおかしな人間がいると不思議とそちらの方に引っ張られていきます。
具体的な事例としては、映画監督の塚本晋也さんが映画デビュー前からずっと撮りたかった大岡昇平さんの小説「野火」の映画化に向けてのプロデューサーや制作会社の態度に現れています。かつては予算がかかりすぎるからと断られていたものが、映画の題材そのものに対してNGが出されるようになります。

塚本晋也, 中山治美, 岡本敦史(2016) 塚本晋也『野火』全記録, 洋泉社. 東京.

“90年代末ごろ、釜山国際映画祭の企画マーケットに『野火』を出したときは、田村役に小林薫さん、永松役に村上淳さん、安田役にビートたけしさんという配役を想定していました。いまとなっては笑ってしまうぐらいの豪華キャストですね(笑)。そのときは制作費6億円ぐらいで見積もっていましたが、とても無理でした。企画の内容と、こちらの想定している制作規模のバランスが悪かったんですね。
その後、フランスのカナル・プリュスというテレビ局が僕に企画を出せというので、『野火』を売り込んで、最初はいい調子で話を聞いてくれてたんですが、やっぱり予算の話になるとだんだん顔が曇ってきて。最後は1億ぐらいなら出せると言われました。
(中略)
もっと最近、それこそ『KOTOKO』(11年)よりもあとになると、プロデューサーに別の企画を出したついでに「ところで『野火』なんてのは……」とダメもとで言ってみたりすると、金額云々ではなく「ないです」とハッキリ言われるようになりました。10年前や15年前にはお金の問題だけがあって、内容については誰も文句を言わなかった。でも、いまは「日本兵がボロボロになる映画」というだけで、不思議と避けられたり、タブーに触れるような雰囲気がある。「これはヤバいんじゃないか……?」という世の中に対する危惧がさらに募りました。”
*2

ゆめゆめ、レベルを上げていくことを怠らないようにしたいものです。

引用文献
塚本晋也, 中山治美, 岡本敦史(2016) 塚本晋也『野火』全記録, 洋泉社. 東京.16

久石譲(2006) 感動をつくれますか?, 角川oneテーマ21, 角川書店, 東京. 68-69