Stand by Me / Ben E. King

僕は高校で弓道部に入り、一人の男と出会った。

彼とは辛気臭い音楽の趣味や斜に構えたものの見方などが似ていて、すぐにつるむようになった。

土曜だったか日曜だったか、休日の部活の後、初めて彼の家に遊びに行くことになった。

電車で何駅も行き、駅から起伏の多い道を体感30分ほど歩いて、彼の家に着く。

部屋に入り一息つくと、彼はやおらビデオテープを取り出してきて再生し始める。

『スタンド・バイ・ミー』という映画らしい。

僕は映画はよく知らなかったし、何も遊びに行った初回で映画を見せる必要はないと思うのだが、彼は「リバー・フェニックスは名前がかっこいい」とかなんとか盛り上がっていた。

小学校4年生の時に母を亡くしたという彼は父親と二人暮らしで、その日も親父さんが顔を出した。

「息子をよろしくお願いします」とかいう感じのことを言っていたと思う。善の権化のような人だった。

彼はその後顧問と対立して部活を辞めてしまったが、よく二人で遊びに出かけた。

遊びといっても本屋、CD屋なんかに行って、互いに気の済むまで目当ての品を物色し、うどん屋で青春の雑事を語り合うくらいのものだった。

僕たちは特定のグループに所属するというのが性に合わないタイプで、いろんな層の人たちと付き合っていたが、それは一方では孤独ということでもあった。今で言う「ぼっち」のコンビだった。

高校を卒業した僕たちは同じ大学に進んだ。
地元の大学だから、別に珍しいことではない。

大学時代は下宿が近く、毎日どちらかの家にいるという感じでお互いの部屋を行き来していたので、なまじ家族よりも関係は濃かった。

彼は一人っ子気質で人の好き嫌いがはっきりしており、合わない奴はばんばん切っていったが、僕が切られることはなかった。

煙草をふかしながら徹夜でウイニングイレブンに興じ、恋愛のこと、大学生活のこと、音楽のこと、進路のこと、多くのどうでもいいことを語り合った。

大学を卒業して、就職、転居、結婚、それぞれに家庭を持ったので、今では日常的に連絡を取り合うことは全くないが、不思議なことに会えば話は合う。

どんな人間でも熱いものに触れば咄嗟に手を離す。そういう部分、たぶん彼とは感性の反射神経が似ているのである。基本のOSみたいなものか。

例えば二人で歩いている時に、前から風変わりな男が歩いてきたとする。

彼の方を見ると彼も僕を見てニヤニヤしている。

僕らはサッカー日本代表すら為し得ないアイコンタクトをマスターしている。

死んだ魚のような目をした我々二人、到底結婚できるとは思えなかったが、彼の結婚は意外と早かった。

凡人がその人生において人々の注目を集めることができるのは、生まれた時と死ぬ時、そして結婚式の三回だ。

人並みになったな。俺たちも。

式の最後に彼がペーパーなしで朗々と述べた、男手一つで彼を育てた父親へのメッセージが感動的だった。ボロボロ泣いた。僕は彼に「良かったな、良かったな」と繰り返していた。

僕の結婚式の友人代表のスピーチも、彼にお願いした。

BGMは『スタンド・バイ・ミー』。

「お前、あれ気づいたか?」と聞いたことはないが、彼はたぶん気づいていないだろう。

「こんなに幸せそうな彼は見たことがありません」

というフレーズ以外、正直よく覚えていないのだが、とてもよいスピーチだった。

彼はかなり緊張したらしく、ところどころ詰まり、曲がフルコーラス終わってしまって、もう一回最初からリピートになってしまったのを、僕は内心苦笑していた。

https://open.spotify.com/track/3SdTKo2uVsxFblQjpScoHy?si=5Un842mAQDaUrGmlZ-gHig

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