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【小説の欠片】~嗚呼、愛しのソフィアンぬ~より。

2017年に千歳船橋のアポックシアターにて上演された、熊谷の一人ダンス劇「嗚呼、愛しのソフィアンぬ」
相方に逃げられた漫談師“じょセフィーヌ”が1人居抜きで借りた元スナック“あかひげ”でコアなファンを集めて夜な夜な一人漫談を繰り返し。元相方へのひねくれた悶々とした愛を消化しきれずに過ごしていく様を描いたダンス劇脚本を元に、ダンス劇で描かれた以前のコンビ結成までを、熊谷本人が書く短編小説の【欠片】を発表。

~欠片たち~
□東京
□最後の楽屋
□モンブラン

□東京

「なぁ、田代さんが言うように俺たちやっぱり東京に行ったほうがいいよ!」

「ふぅ。。。やめろよその気になるのは。。田代さんもあーゆー人だから杉崎が興奮するからリップサービスしたんだろきっと」

「でも田代さん真剣に考えてみろって何回も言ってたじゃんか、なぁー、俺結構興味あんだぜ・・・」

「・・・・」

「じゃじょセフィーヌはこのままでお前の人生どこに落とし前つけんだよ!?」

「外でその名前で呼ぶなばか」

「今のままじゃ、岸田春木でもじょセフィーヌでもどっちも恥ずかしい名前だろ?」

「なんだよ、どーゆー意味だよ!」

「いっつも全部に納得行ってない顔してんじゃんか」

「・・・・」

日曜日の午後6時半過ぎ、まだまだ空が青い7月に僕は相変わらず休日のビールをなんとなく色々な事に納得のいってないような表情を作りながら飲んでいる。

一年前と違うことは、常に杉崎がいることくらいだ・・・

1年前の夏に再会して以来ほぼ毎週のようになんとなく杉崎と過ごし、ついに杉崎は僕と同じシューパブで働き始め、僕と無理矢理なコントを作り客前で披露していた。

酒に酔い、寿司がテーブルから転げ落ちただけで大爆笑する客たちがそれと同じ程度に大爆笑するようなネタだ。

それを客として見ていた札幌のイベント会社を経営する田代さんが、僕と杉崎・・・つまりじょセフィーヌとソフィアンぬに東京でデビューするように勧めて来たのだ。

なにやら元部下が東京の芸能プロダクションでマネージャーをやっているとかで、僕らを彼に紹介するというのだ。

午前4時のそんな話に信憑性があるはずもなく、僕は田代さんの機嫌を損ねない程度に話を流していた。

しかしそんな話をそれから14時間以上たった今でも本気にしている男がそこにいたのだ。

しかしこの男のバカ正直な勘違いのエネルギーに押されて、半年後僕らは『ソフィアンぬとじょセフィーヌ』として東京でデビューしたのだ。

2人で降り立った真昼の新宿駅東口で、田代さんに紹介してもらったマネージャーの小堺さんを待つあいだ、前の日飲みすぎた杉崎はポカリスエットをぐびぐび飲んでやがった。

その杉崎は今、38歳になり僕の目の前でモンブランを食ってやがる。

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