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【コラム】攻めない。守らない。踊らない?

□追い詰めた先のエネルギー

10代から舞台で踊らせて頂いて、40歳になろうとしている今まで変わらないのは緊張しないこと。

15歳でダンススタジオに入会して、16歳で発表会に出させてもらった。
僕は7作品に参加、札幌教育文化会館大ホールで沢山のお客様の前、とんでもなくで続けるアドレナリン。
楽しくて、幸せで、「見てくれ!俺は足がここまで上がるんだぜ!こんなに回れるんだぜ!」が体から溢れていた事をなんとなく覚えている。

沢山踊る機会を与えてくれるスタジオだったので、その日以来人前で踊る事が増えていき、その度にやっぱり幸せだったし、とにかく見てくれ!と思っていた。

当時、人前で踊るということは、お客様の圧やエネルギーや時には無関心という攻撃にたいして、自分の武器を振りかざして戦う事であったこら、武器を磨けば磨くほど戦いが楽しかったし、お客様の圧が大きければ大きいほど若い熊谷少年は燃えたぎり、今では考えられないほどの厚いメイクをして
ギラギラ踊っておりました。

□非日常が日常になる危うさ

人前で踊る事が増えても、やはり特別な時間であった。
特別な時間の余波で普段を生きる日々。

札幌のスタジオでインストラクターとなった僕は、ますます沢山の本番を与えて頂き、ギラギラ期に突入する。
本番=戦いであった僕は、戦いと戦いの間の時間も、テンションが戻らないまま過ごす日々が増えていき、そんな自分を嫌いではなかったし、“ダンサーらしさ”というよくわからないスクリーンを張り暮らす事になる。
舞台の上でも舞台から降りても変わらない自分、この頃は人前に出ることが日常になったのだ!とどこか誇らしい気持ちでいたが、今考えると非日常の男が日常に溢れているなんとも危険な時期だったのだ。

そんな男が23歳で東京に出た。

覚悟はしていたが、覚悟以上に人前で踊る機会が激減。自分の中の非日常エネルギーはどんどんなくなり、非常識だけを僕に残した。必死で髪を金髪に染め続けてなんとか、自分でいようと努めたがどうしようもない虚しさがいつも体を支配していたように思う。

ここからの5年間は両親への意地と(実際は沢山助けてもらっていたが)、札幌の恩師にダンスを続けている姿を見せたい一心でなんとか踊っていたように思う。

□戦わない戦い。

28歳でシルク・ドゥ・ソレイユへ参加することになり、
31歳までで850ステージに立つ日々が始まった。

札幌の恩師の紹介で受けたオーディションがきっかけで、28歳でシルク・ドゥ・ソレイユにダンサーとして参加する事になり。
最初は本社のあるモントリオールへ。
その後はショーが行われるラスベガスへ。
本番が始まるまでのリハーサルは実に9ヶ月に及んだ。

その後本番が始まるわけだが、2000人ほど入る劇場で毎晩2回、週5日、1ヶ月で40公演の日々が2年ほど続く中で札幌時代に感じた客席からの圧やエネルギーにだんだん麻痺してきてしまい、ついには舞台で戦うスイッチが入らなくなったのだ。

戦う必要を感じなくなった舞台で、武器であるダンスを振り回すのはなんとも虚しく、エネルギーだけをもっていかれる行為であった。
踊りたくないんじゃなく、踊る必要がなくなったのだと思う。そんな空を切るようなフワフワした感覚で舞台に立ち続けた約400回は僕の「踊る」事の価値観をぐるぐるとかき混ぜた。

日本に帰って来た僕を、シルク・ドゥ・ソレイユから帰って来た熊谷くんとして周りの方が見ていた時期は、想像よりとてつもなく早く消え去り。お陰で僕は力む必要がなくなったのだった。
戦わない踊りが本当に始まった時期なんだと思う。

□限りない日常

非日常を感じる事がなくなった僕は、踊る事も、歌う事も、食べる事も、寝ることも。何処までいっても非日常の扉を開ける事がなくなったのでしょう。

戦わない事でどんどん踊る必要を失い、それでもやはり人の前に存在したかった僕は、攻撃ではない踊り、凸凹でいうと凸っとしない、凹の踊りかたを選ぶようになっていた。

それが自分がパフォーマンスをする残された道だったのでしょう。そして僕はスイッチ切り替えずに舞台に上がり、舞台を降りるようになった。
非現実を求めて舞台を観に着て下さる方には物足りない様かもしれませんが、人に見られてもなんの変化もない男を不思議な物を見る感覚で楽しんでもらう事は出来るように思う。

もちろん観ていただく事への感謝と敬意はあるが、そこでいつもとは違う自分を見せようとも、見せられるとも思わないのだ。

何処までも続く果てしない日常の中で、期待することも、絶望することもなく生きて踊る事が今の僕の夢であり、日常である。

ダンス劇作家
熊谷拓明

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