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1人ダンス劇『嗚呼、愛しのソフィアンぬ』


『嗚呼、愛しのソフィアンぬ』作/熊谷拓明

2017年10月20日~29日、千歳船橋のアポックシアターで上演。10日間15公演、休演日なし。
のべ520名を動員した1人ダンス劇『嗚呼、愛しのソフィアンぬ』熊谷によるオリジナル脚本。

□1人のじょセフィーヌ

明かりが入ってくるとそこにはなにも被っていないウイッグスンド、もう片方には大きな鏡、その隣には重厚な柄のジャケット、その下には浮かれた模様のデッキシューズ、その隣にはテープレコーダーが置かれている。

朱色のカーペットが敷かれたその部屋の真ん中には、黄色のズボンを履いた、なんとも不思議な形をしたじょセフィーヌがいる。

この形にでないと漫談のネが思いつかないようだ。

そこからしだいに体を変えながら、時に地面を転がり、時に無理やり立ち上がり、また床に倒れこむ。

ゴロゴロと踊りながら、じょセフィーヌ

『どーも今晩は。昨夜もお会いしたお客様ばかりですが、
一応・・・

わたくし元ソフィアンぬとじょセフィーヌのじょセフィーヌでございます。

しかしあれですね。みなさまもお暇でございますね。

毎晩この錆びれたシャッー街にやって来て、この錆びれた男の話を聞きに来るんですから・・・・

他にないんですか?・・・あるでしょ・・・例えば・・・』

ゴロゴロの延長でペットボトルの水をコップに注いで飲む、飲んでは台詞の確認をして、また飲んでは台詞の確認をするうちのに、台詞の確認と飲むイミングが一緒になってしまい・・・水は口から溢れ体を伝わって床を濡らす。

床を拭けそうな物を探すがなかなか見つからない。
色々な場所を探しているうちに、探してもいない美顔器( ソフィアんぬが置いていったものだ) が出てくる。

それで顔をコロコロしてみる、他の部分もコロコロしてみる、まるで美顔器と踊っているようだ。

しばらくて、嫌なことを思い出したような表情でそのままその美顔器で濡れた床をコロコロしてみる。

もちろん床は綺麗にはならず、美顔器に苦情めいた表情をおくり放り捨てる。

改めて部屋を探し始める。
次に見つかったのはじょセフィーヌをおもわせる奇妙なぬいぐるみである。

しばらくぬいぐるみを見つめて、そのぬいぐるみで床を拭こうとするが、なかなか思い切れない。

少しぬいぐるみとデュエットのような踊りを踊り、
( ※カラオケS E ) ぬいぐるみを抱きしめて。

自分の履いている靴下で濡れた床を拭く。

『くそっ』

言葉とは裏腹に優しい表情で、ぬいぐるみを元の場所へ戻す。

濡れた右の靴下だけを脱ぎ捨てて、棚にそっと置いてある新しい靴下を右だけ取る。

しかし靴下は妙に膨らんだ形をしている。じょセフィーヌは日常的な表情でその靴下からアルミに包まれたおにぎりを取り出し、靴下を履かずに食べだす。

食べ終わるとじょセフィーヌは靴下の匂いを嗅ぎ、右の靴下を履く。

鏡を覗き、他人と会話をするような表情で自分の顔を眺めて、靴を履き、そばに掛かっているジャケットに袖をす。

□オンステージ

出囃子を奏でるカセットデッキを抱えながらステージスペースに登場するじょセフィーヌ

『どーも今晩は。昨夜もお会いしたお客様ばかりですが、一応・・・

わたくし元ソフィアンぬとじょセフィーヌの・・・
( 面倒な顔をする客に向かって) あんたに言ってないの!
あちらにほらまだここがスナックだと思って入って来た2人がいるでしょ!( その2人に向けて) ああ!
帰らなくて大丈夫!まあまあまあ、まあ座って、聴いていって!どーせ酒はもう足りてるでし

ょ!そうそうそう、座って。』

新しい客には妙に優しく、それがかえって彼らを蔑んでいるかのような声だ。

『わたくし元ソフィアんぬとじょセフィーヌのじょセフィーヌでございます。

むかーしテレビとかで見たことあるでしょ?ほら隣で変なギーぶら下げて歌ってた奴がいたでしょ?まあ。
その話はいいや。

( 常連に向きなおって) しかしあれですね。みなさまもお暇でございますな。

毎晩この錆びれたシャッー街にやって来て、この錆びれた男の話を聞きに来るんですから・・・・他にないんですか?・・・あるでしょ・・・例えば・・・

なんでしょね・・・

仲のいいお友達とお出かけして、人だらけのおしゃれな街を歩いて、客が多いから多分美味しいんだろうなって店で飯を食って酒を飲んで、、僕たち、私たち、仲良しよね!
楽しいよね!幸せだね!っつって、この自分達という雑音で奥にある寂しさをごまかすような夜を過ごしたりとかー。そうゆう技は持ってないの?』

間違えて入った客ににこの嫌味を届けたいようなボリュームだ。

『あとはなんだろ・・・家帰ってテレビ付けて、みんなが面白いって言うし、みんなが笑ってるから多分面白いんだろなっていう芸人さん見て、不自然に大きな声で笑って一日のストレスが吹っ飛んだような勘違いしたりとかさ。

出来ないの?出来ないよね。

ってなことが出来ない皆さまに今夜もお届けしましう。』

※ここでその時の話題のニュースなどを少し皮肉るような、ショートダンスコントを始める。

ネタを披露し終えお辞儀をした延長で足元のカセットデッキのボンを押すと、大観衆の拍手の音がカセットデッキから流れる、それをじょセフィーヌは途中で止めて一礼してステージを去る。

□楽屋の風景


ジャケットを脱ぎ鏡の横に掛け鏡を覗き込むじょセフィーヌ。

鏡の中のこの部屋を見ることで、この部屋で昔起こったソフィアンぬとの会話を思い出すようだ。
しだいにじょセフィーヌの体が揺れ始め時間が巻き戻るような動きになる、時にスムーズに、時に巻き戻しているテープがひっかかるような踊りである。

その動きの中でどこからかソフィアンぬのようなぬいぐるみを取り出し、じょセフィーヌのぬいぐるみの隣に並べ、さらにはどこからかハットを被った赤いウイッグと赤いちょび髭、ベストを取り出し、ハットとウイッグ、ちょび髭はウイッグスンドへ、ベストはその隣に掛けられた。

□ソフィアンぬとじょセフィーヌ



じょセフィーヌが椅子に座ると、この部屋はあの時に戻ったようだ。

見えないソフィアんぬにじょセフィーヌが

『いつまでそんなおまえの顔ごときの上で美顔器転がしてんだよ!もっとやる事があるだろ。

あれか、おまえはその34560円の美顔器転がして、そのちょっと贅沢なモンブラン食えたらそれで満足なのか?幸せなのか?低いんだよ、設定が、満足の!幸せの!ってか幸せ感じるなよ。。

不満もないのにどーやって漫談なかやんの?僕らが目指してんのは、ちょっと贅沢なモンブラン食う生活じゃないだろーが!
あの気持ち悪いぬいぐるみ作ってくる、ちょっと可愛い娘と平和にデートする日々じゃないでしょ!

早く食い終われ!モンブランをー!おいモンブラン!返事をするなよソフィアンぬでしょーが・・・』

※ソフィアンぬが立ち上がって部屋を出て行く音がする。

出て行くソフィアンぬに向かってじょセフィーヌ


『プライドを持て!不満を持って!モンブラン!!ソフィアンぬ!たかし!たっちゃん!おい!』

明らかに気を取り直そうという息を吐き出し、靴を脱ぐ。

カバンから原稿用紙を取り出し、机にに向かう。

唯一続いている仕事であるコラムを書くためだ。

□コラムの連載


原稿用紙に向かってを進めるうちに、じょセフィーヌはそのコラムの中に入っていくかのように、もはや意識してを進める必要もなく言葉が口から、体から溢れ出す。

『コラムニストじょセフィーヌの混沌第三十四回。

ちょっと贅沢なモンブランを食べるという事。

ちょっと贅沢なモンブランを食べる奴には、おそらく本当の金持ちはいないと言うお話です。
そもそもケーキを食べようとかという時に、ショートケーキでもチーズケーキでもアップルパイでもなく、モンブランを食べようと思う。
このこと自体が、周りから見下されたくないという深層心理の現れであり、現れた時点で深層心理とは呼ばない。
これはもう表層心理である。

こーゆー奴の心理はおそらく何処まで掘っても、同じ。
掘っても掘って掘っても掘ってもモンブラン。

表層も深層も同じ。これはもはや層の無駄遣いであって、厚み無駄遣い野郎である。モンブラン野・・・僕は堂々とショートケーキを食べようと思う。』

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