目を側められなかった話

10年ほど前、ボカロ界隈で旋風が巻き起こった。

中高生は特に熱狂し、当時まだナンバリングが4や5などと小さい数字であったiPhone、お下がりのiPod touchに親のパソコン、部屋に持ち込んだ3DSなど懐かしいラインナップで以て楽曲を巡回し、フード付きパーカーを着用。
イヤホンはもちろん白色で、気だるげな目線を自分以外の全てに向けて本屋はラノベコーナーへ直行。旋風は名を、

カゲロウプロジェクト


といった。




目を側める(め を そば・める):憎しみや恐れのために正視できず横目で見る。「恐ろしさのあまり、——。」



旋風当時は私も中学生で、例に漏れず「端末」で楽曲MVをヘビーローテーションし、小説が発売される度に書店へ買いに行っていた。

高校生に進級しても細々とカゲプロの供給は続いていたため、イヤホンを耳に差しっぱなしにして出歩くことは無くなったものの、時々書店を覗いて新刊が出ていれば購入した。


旋風が落ち着き小説も完結、誰もカゲプロに言及することがなくなった頃には私は大学生になっていた。
仲間内で頻繁に行くカラオケで、誰かがボカロ楽曲を予約し、続くように悪ノリでカゲプロ楽曲を予約すれば、みんなで「思い出したくないw」「あたたたたた」「懐かしすぎんか」といった反応をしていたように思う。


これまでの私のnote利用は、ワードセンスは光れど埋もれてしまっている記事を探したり、よく見かけるインフルエンサーの記事を何となく眺めたりと、「見る」ことに特化したものだった。
自分で記事を書くなんて思いもよらなかったし、ましてや話題がカゲプロになろうとは予想も夢想もしていなかったのである。

カゲプロに登場するニヒルでかっこよく、しかし年齢相応のあどけなさを持つ彼ら、さらに異能力まで持っている彼らに熱狂したのは遠い昔。そんな厨二くさく幼いコンテンツより現実に目を向けて——






舐めてんのか?



忘れられるわけがないんだよな。
あんなに楽曲を聴いていたのに。あんなに小説を読み返していたのに。あんなにFAを描いていたのに。


確かに、現実離れした物語が思春期の青少年らの一人称視点で描かれた楽曲・小説が、価値観や感性が成長してしまった大人に受けづらくなるのは道理だ。

私とてあの頃と同じ温度で推せはしない。あの良くも悪くも若い感性はもう戻ってこない。肺も肝臓もすでに真っ黒である。

だが、かっこいいと感銘を受けて、歌詞に共感や感動を覚えて、本気で結末を心待ちにしたあの頃の記憶が、あの頃の我々が、忘れ去られ馬鹿にされていいわけがないだろうが。

アホぬかせ



友人がカラオケで「ちょ、カゲプロ入れる?w」「いや流石に歌えんてw」「夜咄ディセイブが一番ヤバい」などやりとりをしていた際、何一つとして共感できなかった。

終戦記念日のTLを「メカクシ完了」で埋め尽くし、パーカーを着用している一次創作のキャラクターを描いた絵師に「パクリですよね?」と詰め寄る、一部のファンを恥じて「痛い」と評するのは心底共感できる。

そのようなことは私も流石にしなかったが、同じコンテンツを推す同志として謎の連帯意識を持っていたので、ファンとして生きていた当時の自分を恥じる気持ちには共感できるのだ。

だが、なんなのだその楽曲自体を貶すような物言いは。
かっこいいと感銘を受けて、歌詞に共感や感動を覚えた楽曲群を、理解できない歳になったからといって馬鹿にしていいわけがないだろうが。

ファンだけでなくコンテンツに対してまで、目を側めるなよ。




幼少期から絵を描くことが好きだった私は、中学生当時から現在まで絵を描き続けている。専門はデジタルイラストレーションで、ありがたいことに有償依頼を受けることもある。

私がここまで来ることができたのは紛れもなく、小説カゲロウデイズの挿絵や、カゲプロ全体のキャラデザを担当されていた、しづさんのイラストに影響を受けたからだ。

群像劇が好きすぎるあまり、映画「IT/イット ”それ”が見えたら、終わり。」を一向にホラー映画と認められなくなってしまったのも、この茹だるほど暑く熱い、真っ青な群像劇に魅せられたからだ。


私の人生において、創作や作品鑑賞の指標になったカゲプロというコンテンツから、私は決して目を側めない。
否、側められない。

最近では、上記で出てきたのとは全く別の友人も興味を持ってくれ、小説読破まで完遂してくれた。(私の拙い推薦文で最終巻まで駆け抜けてくれたことに感謝の意を表す)
その友人と、今度は漫画版「カゲロウデイズ」の感想を語り明かす約束もしている。だから、



側めるわけには、いかないのである。



——メカクシ完了。



追記(2024/3/11)
件の友人が小説にとどまらず漫画も読破しアニメも視聴し始めました。
こんなとこでブヒブヒ喚いてる間に沼のありえんくらい深いとこまでハマっていてびっくり。ありがとう。

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