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デジタル・ガバメントで医療系のオープンデータの活用を進める

政府はデジタル・ガバメントを次のように定義しています(*1)。


■デジタル・ガバメントの定義

デジタル技術の徹底活用と、官民協働を軸として、全体最適を妨げる行政機関の縦割りや、国と地方、官と民という枠を超えて行政サービスを見直すことにより、行政の在り方そのものを変革していくこと


デジタル・ガバメントは「ガバメント」なので一義的には官や行政に関することなのですが、「デジタル」でもあるのでIT業界とも深く関わることになります。

また、政府の重要政策に医療制度改革が含まれているので、医療はデジタル・ガバメントの重要ターゲットの1つになっています。

この記事ではデジタル・ガバメントの基礎知識を紹介したうえで、医療系のオープンデータとの関係を解説します。


*1:https://cio.go.jp/policy-egov/


デジタル・ガバメントの全体像~政府は何をやろうとしているのか


政府はデジタル・ガバメントを構築することで行政の在り方そのものを変えていこうと考えています。

そのためデジタル・ガバメントのゴールは、政府が目標を達成できること、となります。

この点を踏まえながら、デジタル・ガバメントの全体像をみていきましょう。


システムとオンラインは必須項目


政府はデジタル・ガバメントについて、「(その)目的は、単に情報システムを構築する、手続をオンライン化するということを意味するものではない」ともいっています(*1)。

つまり、システムをつくったりオンライン化したりして業務を効率化することは、デジタル・ガバメントの必須項目ということができます。

では、システムとオンラインをベースにして、その上に何をつくっていくのでしょうか。


「すぐ」「簡単」「便利」な行政サービス


政府の仕事は行政サービスを国民に提供することであり、この目的はデジタル・ガバメントでも変わりありません。

では政府をデジタル・ガバメントに変えていく意義はどこにあるのかというと、行政サービスを「すぐ使えて」「簡単で」「便利」にすることにあります(*1)。


同じ行政機関でも、市区町村の行政サービスは身近に感じるのに、政府による行政サービスはあまり身近に感じない、という印象を持っている人は少なくないのではないでしょう。

もちろんこれは、市区町村の行政サービスは生活に密着したものが多く、政府の行政サービスはそうではない、という違いによるところもあるでしょう。

しかし政府の行政サービスにはやはり「すぐに使えず」「複雑で」「不便」なところが少なくありません。政府もそれを自覚しているので、デジタル・ガバメントでその状態を解消しようとしているのです。


法的な位置づけ


デジタル・ガバメントは政府の重要政策の1つであり、法的な位置づけもしっかりなされています。

その1つが、2016年に成立した官民データ活用推進基本法です(*2、3)。

この法律は国、地方自治体、独立行政法人、事業者などが持つデータ(=電磁的記録)を官民データと呼び、これを円滑に流通させようとしています。

では、なんのために官民データを流通させる必要があるのか。そして、どのように官民データを流通させるのか。その答えは以下のとおり。


Q:なんのために官民データを流通させるのか

A:急速な少子高齢化への対応、地域経済の活性化、就業機会の創出、自立的で個性豊かな地域社会の形成、新たな事業の創出、産業の発展、国際競争力の強化、活力ある日本社会の実現のため(*3)


Q:どのように官民データを流通させるのか

A:インターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて流通する多様かつ大量の情報を適正かつ効果的に活用することで、官民データを流通させる(*3)


法律からも、インターネットやITなどのデジタルを使って社会課題を解決したり経済振興を進めたりすることがデジタル・ガバメントの役割であることがわかります。


デジタル・ガバメントの法的なものにはそのほかに、世界最先端IT国家創造宣言やデジタル・ガバメント推進方針、オープンデータ基本指針などがあります(*2)。


*2:https://cio.go.jp/digi-gov-actionplan/index.html

*3:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=428AC1000000103


デジタル・ガバメント事業と医療とのつながり


デジタル・ガバメントは政府の事業ですが、医療とも深いつながりがあります。

それは医療が政府の重大関心事だからです。


医療は国のIT戦略の重要ターゲットの1つ


デジタル・ガバメントに関連する国の政策にIT戦略があります。このIT戦略のなかに「デジタル強靭化による社会構造の変革」という項目があります(*4)。

この「デジタル強靭化による社会構造の変革」の対象となっているのは、テレワーク化などの働き方改革、教育などの学び改革、医療・健康・介護・子育てなどの暮らし改革、経済活動、企業活動、テクノロジーを活用した災害対応などです。


医療が社会構造の変革の対象となっているのは、これが国民の生命にかかわり、国民の重大関心事であり、多額の税金を投入しなければならないサービスだからです。

なおかつ、医療はデジタル化することで生産性を上げやすい領域と考えられています(*4)。デジタル化の効果が出やすく、それにより大きな社会課題の解決につながる可能性が高いので、医療がデジタル・ガバメントのターゲットの1つになっています。


*4:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/johoka/index.html

*5:https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12187388/www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20200715/siryou8.pdf


オープンデータはデジタル・ガバメントの重要ツール


オープンデータとは、国や地方自治体などが保有するデータのうち、誰もがインターネットなどを通じて容易に利用できるもののことです(*6)。

オープンデータは、デジタル・ガバメントを実現するための重要なツールになっています(*7)。


*6:https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictriyou/opendata/

*7:内閣官房「デジタル・ガバメントとオープンデータの推進について」


行政機関のデータを民間サービスと組み合わせてよりよいサービスをつくる


デジタル・ガバメントとオープンデータの関係を考えるとき重要になるのは、官民連携です。冒頭で紹介したデジタル・ガバメントの定義でも「デジタル技術の徹底活用」とともに「官民協働」が軸になるとしています。

そしてこの領域での官民連携とは、行政機関のデータを民間サービスと組み合わせてよりよいサービスをつくること、となります(*7)。


種であるオープンデータをデジタル・ガバメントで栽培して花を咲かせる


デジタル・ガバメント事業の目的は社会課題の解決や経済振興でした。オープンデータがデジタル・ガバメントの重要ツールとなるのは、まさにこの目的を達成するのに役立つからです。

例えば法人番号というオープンデータを使えば、それで企業の行動を追跡できるので産業分析や経済分析が可能になり、それは企業のマーケティングや事業戦略の構築に役立ちます(*7)。


また行政機関が持つ建物データや土地データ、地盤データ、河川データ、気象データ、災害データなどがオープンデータ化されて民間に提供されれば、災害に強い建物や被災しにくい街をつくることが可能になり、これは大きなビジネスになるでしょう(*8、9、10)。

マーケティングや事業戦略が成功すれば企業が反映し経済振興が達成されます。


このようにオープンデータは「行政機関に眠っているビジネスの種」とみなすことができます。そしてデジタル・ガバメントという「栽培」を推進することで種から花を咲かせることができます。


*8:https://www.nhk.or.jp/shutoken/shutobo/20230110a.html

*9:https://www.sgu.ac.jp/soc/ssi/papers/43.pdf

*10:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02184/091300002/


医療系オープンデータについて


医療分野のデジタル化がデジタル・ガバメントの重要事項になっていることは先ほど説明したとおりであり、厚生労働省も医療データのオープンデータ化に力を入れています。

同省のレセプト情報・特定健診等情報データベース(以下、NDB)は「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づき、レセプト情報と特定健診情報と特定保健指導情報を格納したものです。

例えばNDBのレセプト情報には、2009年4月からの医科、DPC、調剤、歯科の診療分が格納されています。

同省はNDBのデータの第三者提供を推進しています(*11、12)。これが医療系データのオープンデータ化になります。

企業などはこうした医療系オープンデータを使って、例えば「診療行為の都道府県別、性別、年齢階級別の実績」や「傷病名や保険者の種別情報などの情報を加えた多角的な評価」が可能になります。これは医療ビジネスの種になるでしょう。


*11:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/reseputo/index.html

*12:https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000557476.pdf


デジタル・ガバメントとオープンデータの課題


政府などの行政機関が集めたオープンデータを企業が利用してビジネスを起こし、それで社会課題を解決したり経済振興を実現したりする――この夢のようなプランを実現するにはいくつもハードルがあります(*7)。


例えば、行政機関が持っている情報がすべてデジタルデータになっているわけではありません。また、デジタルデータになっていてもコンピュータ処理できないものもあります。したがって価値ある情報をコンピュータ処理できるデジタルデータに変えていく必要があり、これは膨大な作業になるでしょう。


また、行政機関の情報には、公開できないものもあります。したがってオープンデータ化するには、公開できるものとできないものの仕分けが必要になり、これも相当手間がかかります。


さらに、ダウンロード方法やAPIの利用、データの更新、押印といった問題もあります。

「オープンデータを使ってデジタル・ガバメントを推進する」「デジタル・ガバメントはオープンデータを活用して社会課題を解決して経済振興を図る」というのは簡単ですが、その道のりは険しいものになるでしょう。


まとめ~生活にも医療にも深く関与


この記事の内容を箇条書きでまとめます。


●デジタル・ガバメントとはデジタル技術を使って官民が協働して行政の在り方を変革すること

●デジタル・ガバメントの目的は1)行政サービスをすぐに簡単に便利に使えるようにすること、2)社会課題の解決、3)経済振興

●医療もデジタル・ガバメントのターゲットの1つになっている

●オープンデータはデジタル・ガバメントの重要ツールであり、ビジネスの種にもなる

●厚生労働省は医療情報のオープンデータ化を進めている


デジタル・ガバメントとオープンデータは、国民生活にも医療にも経済にも大きく関わります。

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