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一人酒の流儀(ベトナム編)

僕は飲みに行く時は概ね一人が多い。

なぜなら、一人が楽だからだ。

もちろん、友人と二人で飲みに行くのも好きだ。しかし、この年になると、お互いの生態系が違いすぎる。

方や家畜、方や放牧、方や野生。

方や水族館、方や養殖、方や遠洋。

違いを違いと分かったうえでお付き合いするのが宜しい。

一人酒は楽だ。一人酒は楽しい。そして、少しさみしい・・・・

好きなものを食べ(「これ食べたいけど頼んでいいかな?」)

好きなものを呑み(「ワインボトルで飲みたいけど・・・・」)

自分のペースで楽しめる(「まだ向こうは、お替りしてないから飲むペースおとそう・・・・」)

遠慮は無用だ。しかし、反対に一人の酒飲みとしての資質が問われる。

そんな、僕の一人酒の流儀を綴りたいと思います。

どうも性癖をさらけ出すような感覚と似ていて少し恥ずかしいが、考えてみると、自分の性癖をばらしたこととか、文章で述べたこともない。この表現は正確ではないだろう。

さて、僕はこの半年ほどベトナムに駐在している。というか、今日の夜に日本に帰るのだが。

そんなベトナムでも基本的に一人酒だ。

馴染みの居酒屋というかビアレストランもできた。ほぼ毎日通い詰めていた時もあったが、勤務の形態で最近は行くのも週に1度くらいだ。

ベトナム人はビールが好きで、昼間からよく宴会をしている。

僕が一人で飲みに行っている話をベトナム人にすると「サミシイナァ」と言われるが、本人はそんなことは全くない。ベトナム人は酒は多人数で飲むもののようだ。

そんなこんなで、異邦人がビアレストランで毎日一人で飲んでいたら(しかも大量に)否が応でも目立つものだ。

馴染みの店員も出来てくる。

日本語がわかるスタッフがいたらもうけものだ。彼、彼女らは日本語が話したくてうずうずしているのだ。積極的に絡んでくれる。英語も話せるスタッフもいたら積極的に話してくれるようになる。

ベトナム語ではなしかけられて、言葉はわからないが笑顔で対応してくれる。

そんなベトナムでの僕なりの一人酒の流儀について語りたい。

そして、なぜ異国の地でこそ一人酒が僕には必要だったのか考えてみたい。

今回は趣向を変えてまじめに考えてみよう。


なぜ一人酒が必要だったのか。

異国の地はやはり不安だ。そして、下手をすると仕事以外は部屋で閉じこもりがちになる。そうなると仕事が休みの日は否が応でも部屋でアルコールを摂取し、その量が増大する傾向にある。そして、精神的にも病んでいくだろう。

基本的にアルコールが好きな僕は下手をすればその負の連鎖に陥ることを何とはなしに感づいていた。もちろん、部屋で自分の好きなものを作りつつ飲むのも楽しいのだが、引きこもってはいけないという意識が最初からあった。

元来、一人でも酒を呑みに行くことが多かったことも幸いし、言葉が通じなくても僕は積極的に出ていくことを自分の中に課していた。

幸い、アパートメントから歩いて行ける距離にビアレストランが点在していたので夕食がてらビールを飲みに行くということを行っていた。

仕事から離れて一人でベトナムの喧騒を見つつ夜空の下でビールを飲む。時には孤独で日本に帰りたくなった時もある。でも、孤独すらをも楽しみつつ異国を満喫する方が精神衛生的には良いに決まっている。

最初はおっかなびっくりで入った店も通い続ければスタッフとコミュニケーションもとれるようになる。受け入れてもらえる。

僕は一人酒でだいぶベトナムの生活でも救われた。それは温かく迎えてくれた店とスタッフのおかげだ。

一人酒の流儀 in ベトナム

①躊躇することなく店に入る。

ベトナムのビアレストランは大箱も多い。そして、日本のように扉があるわけでもなく、とにかくオープンだ。

躊躇することなくずかずかと入る。日本と違って「いらっしゃいませ」なんて言われない。(もしかすると言ってくれているのかもしれないけども)

ましてや、アウェーだ気後れしてはいけない。空いている席を見つけて「ここいいか?」と日本語で伝える。ベトナム語で何か言われる。わからないと首を振る。自分が異邦人であることを最大限にアピールする。

「一人だ」と人差し指を立てる。「OKか?」ときいてOKと言われれば座ってしまえばいい。

②メニューをもらう

「メニューをくれ」と日本語で言う。「メニュー」「メニューだ」と何度か繰り返すとなんとなくわかった店員がメニューを持ってきてくれる。

笑顔でサンキューと言おう。たどたどしいベトナム語で「カモン」というのもいい。笑顔で返してくれるスタッフはいいスタッフだ。そういうスタッフが多い店を探せばおのずといきやすくなる。

メニューを見ても当然のことながらベトナム語だらけだ。写真つきのメニューがある店の方が注文しやすいし、簡単な調理方法と食材は現地で覚えていった方がいいだろう。

③アピールする

注文が決まったら、手を挙げるなり「オーイ」と声をあげてもいい。僕はなんとなく目が合いそうなスタッフに向かって黙って手を挙げるケースが多い。

外国人の客と知ると面倒臭く思って寄ってこないスタッフと、積極的に絡んでくる人懐こいスタッフとに分かれる。

メニューを開いて、指差しながら注文する。

「OK?」ときくと、「OK」と応えてくれる。


④気に入ったものがあれば毎日でも食べる。

僕は皮蛋が好きで、毎日食べていた時期もあった。2個頼んでも120円くらいだ。安い。

そうすると、「あの変な日本人が来たらまずは、タイガービールと皮蛋だ」と店側も覚えてくれる。印象に残る。ちなみに、僕以外に皮蛋を頼んでいる人をみたことはない・・・・

因みに今はスルメにはまっている。

最初は形のまま来たが、VIP待遇の今はスルメを女のことがさいてくれたりする。「あつい」とベトナム語でいいながら割いてくれる。

「いいよ。自分でできる」と日本語で言って自分でやろうとしても頑なに拒否される。

他の人にもこういうサービスをしているのかは謎だ。

「ソンナニオイシイカ?」と日本語で聞かれたり、なんとなくベトナム語でいわれたりするのがわかる。

笑顔で「あぁ、ベリー『ンゴーン(おいしい)』だ」と日本語と英語とへたくそなベトナム語で返せばいい。そうすると、「変な日本人」のレッテルを勝手にはってくれる。

そうこうしていると、「コレモオイシイヨ」とお勧めを教えてくれたりする。迷わず「なら、それだ。OKだ」と注文する。

スタッフは嬉しそうに去っていく。

そして、嬉しそうに料理を持ってくる。

食べる僕の感想が聞きたいのだろう。僕の様子をうかがってそばから離れない。

「ンゴーンだな。」と親指を立てて笑顔で言うと、やっぱりスタッフも喜んでくれる。

⑤馬鹿みたいにビールを飲む

ベトナムではビールに氷を入れて飲む。最初は戸惑いがあったが、「郷に入れば郷に従え」で飲んでいる。まぁ、くせになるし、酔いにくい。

「タイガーだ」と最初に言うと、あとはビールがなくなると止めるまで勝手に持ってきて栓を抜く。

それを断りもせず、「もう一本だ。」と人差し指をたて、「OKだ」というと、喜んで持ってくる。

暇にかまけて10本も飲むと、さすがに酔うが、そうすればスタッフは喜んでくれる。

難点は、10本飲むのが当たり前と思われることだ。

4,5本で帰ろうとすると

「10本まで6本足りない」とベトナム語で言われる(そんな気がする)

「わかった。10本は飲まないがワンモアだ」と人差し指を立てると、喜んで持ってきてくれる。

「モー(1)・ハイ(2)・バー(3)・・・・」とへたくそなベトナム語で数を数えるのもチャームポイントの一つだ。

笑顔で一緒に数えてくれる。

変な日本人がへたくそなベトナム語を使うのがよっぽど嬉しいのだろう。僕が数字をきちんと言うと喜んでくれる。


以上のようにしているとだんだんスタッフとも仲良くなって、仕事前に店の前を通っても「エモーイ」と遠くから声をかけてきたり、よっていけと、あっちがあいている、ととにかく老若男女問わず言われまくる。

掃除のおばあちゃんまで僕のそばに来て何かベトナム語で話してにやりと笑って去っていくようになった。

そんな様子だからか、「オニイサンミンナノニンキモノヨ」と言われるようになった。何もせず勝手に飲み食いしているだけだが、ありがたいことだった。


最後の訪問

昨晩、2週間ぶりに店に行った。お世話になったからきちんと挨拶しようと思ったのだ。

「オニイサンヒサシブリ」と日本語出来るスタッフが寄ってきて、「久しぶりだな。明日の深夜の飛行機で帰るんだ」というと、「ナンデ?」「イツモドッテクルノ?」と言われた。

「ホーチミンは当分ないな。多分次はハノイだ」

そう言うと、「ナンデ?ホーチミンキテ、ソレカラハノイイケバイイ」

「サミシイヨ」と本当にさみしそうな顔をした。

そして僕が帰国する旨を近くのスタッフに言ってくれた。みんな握手を求めてきてくれた。

英語ができるスタッフには英語で話をした。

「なんで?明日の夜だったら空港にでるまでにもう1回来て。」と言われた。

「アイ・ミス・ユー」と言われたので、「アイ・ミス・ユー、トゥーだ」と言った。

サービスにキャラメルもくれた。

世話になったのは僕のほうなのに、こんなに受け入れられて帰国の際にさみしがられるとは思いもしなかった。

次にベトナムに来た際にはどれだけスタッフが残っているか知らないが、必ず立ち寄りたいと月並みに思う。

空港へタクシーの道すがら、そんな思いを噛みしめる


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