手がたりストーリー(1) - 妹の結婚 -
こんにちは。
株式会社オフィスマッサージ代表の田辺です。
2000年代初頭のことでした。私は年頃になった妹から打ち明けられた言葉を聞いた直後、心から驚きました。
「お兄ちゃん。私、結婚したい人がいるの。彼は目が見えず、耳も聞こえない盲ろう者なの。」
妹が大学時代に盲ろう者の支援をするボランティア活動に打ち込んでいたのは知っていました。
そこで出会った盲ろう者の男性と恋に落ちたというのです。
障害のあるなしは別として、ちゃんと食べていけるのか。
「彼は今大学4年で、でも盲ろう者を就活で採用してくれる会社はない。」
ちょっと待て。ではビジネスモデルがゼロの結婚ではないか。
「でもね。彼は心がきれいなの。健常者でも心が汚い人はいるでしょう? 私は心がきれいな人と一緒になりたい。」
妹の結婚表明以来、家の中は猛烈な大嵐が吹き荒れ続けました。
妹は小さい頃からおとなしめで、あまり自分の意見を押すということをしないタイプだったのですが、今回彼女は自分を決して曲げませんでした。
そして、ある美しい昼下がり。東京郊外のレストランにてウェディングがありました。
列席して私は、盲ろう者と一言に言っても、本当に多種多様のコミュニケーションがあると初めて知りました。指点字をしている人。触手話をしている人。手書きをしている人。
新婦の兄としてあちこちのテーブルにご挨拶に回りましたが、どの盲ろう者も穏やかな方々でした。妹夫婦の門出を祝福してくれました。
大学を出てからサラリーマンを続けてきた私は、障害者という存在がずっと遠い所にありました。駅で白杖をついた視覚障害者を見ても、どうしたらわからずに、遠目に見るしかできない人でした。
今や、目と耳のダブルの障害者と家族になったのです。
「盲ろう者はコンセントを抜いたテレビに例えられる」とも知りました。コンセントが抜かれたテレビ。ブラウン管から絵は出ず、スピーカーから音も出ず。
2003年の年末です。家で盲ろう者の義弟と私はゆっくり話し合う機会がありました。
義弟は語ります。
「盲ろう者は目と耳の両方に障害があるため、通訳介助者を必要とします。
通訳介助者がいれば、初めての場所でも交通機関等での移動ができます。
コミュニケーションでも通訳介助者が指点字や触手話等をしてくれて、盲ろう者は意思疎通ができます。
ですので、通訳介助者がいることで、徐々に盲ろう者は社会参加ができるようになっています。」
ここまで話したところで、彼は肩を落としました。
「ですが、その先にある、盲ろう者の就労の機会はまずないのです。盲ろう者と通訳介助者と二人を雇おうという会社はありません。」
「ないなら創ればいいのでは。社会起業の出番では。」と私は彼に話しました。
社会起業(Social Entrepreneurship)とは、社会課題を市場メカニズムを使って解決する手法です。
しかし、そうは言ったもののグーグルで検索しても、盲ろう者が働くという事例は、日本はもちろん世界でも見つかりませんでした。
大きな問いを感じました。
「人間は、目が見えず、耳が聞こえなくとも、働けるのか?」
言い換えますと、
「盲ろう者は働けない、は本当なのか?」
義弟、もう一人の盲ろう者、そして私で2004年年始に集まり、企画ミーティングを開始しました。
それから、まさかの連続が続くことになります。
今回のお話はここまでとさせていただきます。次回は盲ろう者についてや、盲ろう者が働くことができる場に向けたお話です。
お忙しい中、お読みくださり、ありがとうございました。
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