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海洋プラごみは“都市油田”! エルコムが実現する廃棄物の資源化システム

離島に流れ着いた海洋プラごみを「ゴミ」ではなく「資源」と捉え、燃料へと生まれ変わらせる取り組みが始まっています。独自の製品開発によって廃棄物の資源化に取り組んでいるのは、北海道札幌市の株式会社エルコム(以下、エルコム)です。

エルコムは、2021年から長崎県対馬市に海洋プラごみの資源化システムを導入し、漂着ごみの課題解決を図っています。今回は、同社が取り組んでいる海洋プラごみのコンパクト化や省資源化、燃料化事業について詳しく伺いました。

対馬市へ海洋プラごみの燃料化システムを導入

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出典)株式会社エルコム

エルコムが開発した「e-PEP(イーペップ)システム」は、海洋プラごみの圧縮・減容・燃料化を可能にします。漂着した海洋プラごみを破砕し、ペレットという燃料に変えることができるのです。同社は、2021年から長崎県対馬市へe-PEPシステムを導入しています。

対馬市には、毎年135立方メートル※の海洋プラごみが漂着し、日本でもっとも漂着ごみの多いエリアのひとつだとされています。対馬周辺の海流やリアス式海岸という形状などの関係で、漂着ごみを受け止めやすいのだといいます。

※対馬海ごみ情報センター:モニタリング調査による回収量の実績(令和2年度)

こうした漂着ごみは、ボランティアや対馬市が回収し、市有施設で乾燥・保管された後に処理されています。しかし、島内ではすべての漂着ごみの処理を完結できず、大半は島外の処理業者に処理を委託するほかなかったのです。

離島は燃料費が高いことから処理コストの負担が大きく、そのため、島内で処理を完結し、処理コストを圧縮することは対馬市にとって大きな課題だと考えられてきました。

そこで、対馬市では、エルコムの環境ソリューションを活用し、流れ着いた海洋プラごみを燃料に変えて、資源として利用することを計画。2021年2月、同社のe-PEPシステム「ステラ」「クダック」「スチロス」を、今年2月には「クダック」を導入しました。

エルコムの担当者は「美しい環境を後世に残したいという対馬市の強い思いを受け、我々にできることを一緒に考えてきました」と言います。


圧縮から燃料化まで「e-PEPシステム」の全容

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出典)株式会社エルコム

エルコムのe-PEPシステムは、海洋プラごみの圧縮・減容から破砕、燃料化、そしてボイラーによる燃焼までのプロセスを広くカバーします。e-PEPとは「エコロジー・プラスチック・エネルギー・プラント」の頭文字をとったものだそうです。


e-PEPシステムは、複数の機器から構成されます。まず、固いプラごみを砕く樹脂破砕機「クダック」。汚れの少ないプラごみはクダックで破砕した後、再びプラスチックの原料とします。フロートと呼ばれる発泡ブイは、減容機「スチロス」によって最大25分の1にまで小さく圧縮することができます。

次に、砕いた樹脂をペレットにする樹脂圧縮成型機「ステラ」。再原料化できないプラごみを燃料にするための機器です。

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出典)株式会社エルコム

こうして作った樹脂ペレットを燃やすボイラーが「e-VOL(イーヴォル)」です。e-VOLは、既存のボイラーや貯湯タンク、蒸気ヘッダなどに接続して使うことで、重油など燃料の使用を減らすことができるのです。

「e-VOLという名前は、逆さに読むと“LOVE”。社内公募によって決まったものです。環境や将来世代に向けた愛情と責任を表しています」という言葉に、自社製品への愛情を感じます。


離島の海洋プラごみ処理を完結できる「e-VOL」

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出典)株式会社エルコム

「e-VOLの特徴は、まず、コンパクトな点です。設置にあたって環境アセスメントの必要がないため、プラごみの発生元からごみを輸送することなく処理を行うことができます」というように、発生源でそのままごみ処理が可能な点はe-VOLの大きなアドバンテージです。

また、廃棄物ボイラーでありながら、エルコム独自の技術によって70%という高い燃焼効率を実現しています。重油を原料とするプラごみは、不純物が少なければ燃やした後の煤塵がほとんど出ません。そのため、処理後の廃棄物処理の負担が小さく、離島への導入に適していると言います。

「樹脂燃料を完全燃焼させるには、炉内の酸素や温度を最適にコントロールする必要があります。e-VOLは、独自の燃焼システムの自動制御によって安定した燃焼を実現し、環境省が定める排ガス中のダイオキシン濃度やCO濃度の規制基準値を大幅にクリアしています」と担当者は話します。

さらに、プラスチックの種類によって発熱量は変わるものの、年間約100トンのプラごみをA重油換算で9万リットル相当の燃料に変えられるとのこと。これによって、ライフサイクル全体(LCA)で、燃料の削減と代替によって年間290トンのCO2削減効果が見込まれます

なお、e-VOLは常時、メーカーが遠隔監視を行うため、万が一トラブルが起こってもすぐに運転を止められるとのことです。


「ファブレス式」技術開発のエルコム

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出典)株式会社エルコム

さて、これらのe-PEPシステムを開発したエルコムは、北海道札幌市に拠点を置く「ファブレス」企業です。「ファブレス」とは、工場(Fab)を持たず(Less)設計を主に行い、パートナーの製造企業とともに製品を開発する企業のこと。米国Appleなども同様のスタイルで製品開発を行っています。

エルコムは、1991年の創業以来、ファブレス式で事業を展開してきました。エルコムという社名の由来は「Earth & Life Communication」。変化の早いニーズに迅速に応えるため、柔軟な発想を即座に製品に反映しやすいファブレス式を採用しているとのことです。実際に、e-VOL独自の燃焼システムも10年にわたり改良を重ね、最適な酸素の濃度調整に成功したと言います。

こうした環境ソリューション事業の他にも、同社は駐車場の溶雪システムやロックレスシステムといった、パーキングの最適化に役立つ事業も展開しています。北海道で初めてコインパーキング向けのピット型ヒーターを販売した企業としても知られています。


社会課題を解決するためにチャレンジを続ける

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出典)株式会社エルコム

エルコムのこうした海洋プラごみの圧縮・減容・燃料化システムは、2021年12月、外務省の「第5回SDGsアワード」で特別賞を受賞しました。同社は今度、海ごみゼロ・CO2の排出抑制を目指し、同様のシステムを全国の他の自治体へも展開する予定とのことです。

同社のシステムを導入した対馬市では、海洋プラごみを燃料に変え、島内の温浴施設の湯沸かしに活用する計画があるそうです。今後は、こうした資源循環の取り組みをコンセプトとしたエコツーリズムや修学旅行といった新たな企画などへの活用も期待されます。

エルコムの、海洋プラごみを資源化するという画期的なシステムは、まさに同社の挑戦とチャレンジ精神の賜物だと感じました。将来世代や地球環境のために、斬新な製品開発によって社会課題の解決を目指すエルコムの活躍に、今後も期待したいと思います。

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