食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案に対する日本共産党の修正案

【修正案骨子】

第一 基本理念の見直し

一 食料の安定供給の確保に関する理念の見直し

1 基本理念として、安全かつ良質で十分な量の食料が供給されなければならないことを規定すること。(第2条第1項関係)

2 国民が必要とする食料については、世界の食料の需給及び貿易場不安定な要素を有していることに鑑み、適切な備蓄の確保に配慮しつつ、国内の農業生産の増大を通じて食料自給率を引き上げることにより、その安定的な供給が確保されなければならないことを規定すること。(第2条第2項関係)

二 家族農業経営を基本とする農業の持続的な発展

 基本理念として、農業については、家族農業経営を基本とし、その安定的な経営が確保されることを通じて食料その他の農産物の供給の機能及び多面的機能の確保が図られるとともに、農業の自然循環機能が維持増進されることにより、我が国の基幹的な産業としてその持続的な発展が図られなければならないことを規定すること。(第4条関係)

第二 食料、農業及び農村に関する施策の策定等に係る指針の創設

 食料、農業及び農村に関する施策の策定及び実施は、基本理念にのっとり、次に掲げる事項を指針として、総合的かつ計画的に行われなければならないものとすること。

一 食料自給率をできる限り早期に五十パーセント以上に引き上げ、更に七十パーセント以上に引き上げること。

二 我が国の農業の保護を図るために必要に応じ農産物の輸入の制限等の措置をとるとともに、国内の農業生産の増大を図るため必要な農地、農業用水その他の農業資源及び農業の担い手を確保すること。

三 家族経営を農業に関する施策の中核として位置づけること。

四 経営規模の大小又は専ら農業を営むか否かを問わず、安定的な農業経営を確保すること。(第14条の2関係)

第三 食料・農業・農村基本計画の見直し

一 食料・農業・農村基本計画に定める食料自給率の目標を、当面達成すべき食料の自給率の目標とし、この目標の達成状況については、少なくとも毎年一回、達成状況を調査し、食料・農業・農村政策審議会の意見を聴かなければならないこと。

二 政府は、一の調査の結果について、食料・農業・農村政策審議会の意見を付して国会に報告するとともに、インターネットその他適切な方法により公表しなければならないこと。(第15条関係)

第四 食料の安定供給の確保に関する施策の見直し

一 食料消費に関する施策の見直し

1 食料の安全性の確保を図る等のため、食品の安全性に関する基準の強化、輸入食品の安全性に関する検査体制の強化、食料の安全性に関する試験研究の体制の整備及び情報の提供並びに食品の原産国及び遺伝子組換えに係る食品の表示の徹底の施策を追加すること。

2 食料消費の改善及び農業資源の有効利用に資するための施策として、公共調達における地域の農産物の利用の促進を追加すること。(第16条関係)

二 食料の円滑な入手の確保

 国は、関係行政機関相互間の連携の強化を図るとともに、地方公共団体、食品産業の事業者その他の関係者と連携し、経済的な状況その他の要因にかかわらず食料の円滑な入手が可能となるよう必要な施策を講ずるものとすること。(第16条の2関係)

三 農産物等の輸出入に関する措置の見直し

1 農産物の輸出入に関する規定のうち、「国内生産では需要を満たすことができないものの安定的な輸入を確保するため必要な施策を講ずる」こととする規定を削ること。

2 国は、我が国の農業を保護するため、農産物の貿易に関し我が国の農業にとって不利益な措置が国際的に取り決められないよう努めるものとすること。

3 国は、2の施策を講ずるに当たっては、輸出の相手国の農産物と競合し、その生産を減少させることのないよう配慮するものとすること。(第18条関係)

第五 農業の持続的な発展に関する施策の見直し

一 農業経営の法人化の推進等の施策に関する規定の削除

 農業の持続的な発展に関する施策のうち、効率的かつ安定的な農業経営の育成、農業経営の法人化の推進、農地の利用の集積等の施策に関する規定を削ること。(第21条、第22条及び第23条関係)

二 農業生産の基盤の整備及び保全

 国は、農業の生産性の向上を促進するとともに、気候の変動その他の要因による災害の防止又は軽減を図ることにより農業生産活動が継続的に行われるようにするため、農業生産の基盤の整備及び保全に必要な施策を講ずるものとすること。(第24条関係)

三 農産物の付加価値の向上

1 国は、農産物の付加価値の向上及び創出を図るため、高い品質を有する品種の導入の促進及び農産物を活用した新たな事業の創出の促進、植物の新品種、家畜の遺伝資源、地理的表示、農業生産に関する有用な技術及び営業上の情報その他の知的財産の保護及び活用の推進その他必要な施策を講ずるものとすること。

2 1の措置を講ずるに当たっては、農産物の遺伝資源に関する農業者の利益の保護に特に留意するものとすること。(第24条の2関係)

四 環境への負荷の低減の促進

1 国は、農業生産活動における環境への負荷の低減を図るため、農業の自然循環機能の維持増進に配慮しつつ、農薬及び肥料の適正な使用の確保、家畜排せつ物等の有効利用による地力の増進、有機農業その他の環境への負荷の低減に資する技術を活用した生産方式の導入の促進、農産物の輸送における温室効果ガスの排出の抑制、輸出される農産物の食料システムの各段階における温室効果ガスの排出量に関する表示の促進その他必要な施策を講ずるものとすること。

2 国は、環境への負荷の低減に資する農産物の流通及び消費が広く行われるよう、これらの農産物の円滑な流通の確保、消費者への適切な情報の提供の推進、環境への負荷の低減の状況の把握及び評価の手法の開発その他必要な施策を講ずるものとすること。(第24条の3関係)

五 人材の育成及び確保

 安定的な農業経営を担うべき人材の育成及び確保を図るための施策として、農業の研修又は農業経営の開始のための資金の交付並びに新規就農を促進するための研修を行う農業を営む法人への支援を追加すること。(第25条関係)

六 技術の開発及び普及

1 技術の開発及び普及の施策として、環境に調査した農業生産技術及び地域において蓄積された農業に関する技術の普及事業の推進並びに安価で実用性の高い農業用機械の開発及び普及を追加すること。

2 国は、食料システムにおいて情報通信技術を用いて情報が効果的に活用されるよう、食料システムの関係者による情報の円滑な共有のための環境整備を推進するために必要な施策を講ずるものとすること、(第29条関係)

七 農産物の価格の安定等

 国は、農産物について、農業の生産条件、交易条件等に関する不利を補正し、農業者と他産業従事者との間の所得の格差を是正するため、生産事情、需給事情、物価その他の経済事情を考慮して、その価格の安定が図られるよう必要な施策を講ずるものとすること。(第30条第1項関係)

八 農業災害による損失の補塡

 農業災害による損失の補塡については、災害の規模にかかわらず行われるべき旨を明記すること。(第31条関係)

九 伝染性疾病等の発生予防等

 国は、家畜の伝染性疾病及び植物に有害な動植物が国内で発生及びまん延をした場合には、農業に著しい損害を生ずるおそれがあることに鑑み、動植物に係る検疫体制の強化その他その発生の予防及びまん延の防止のために必要な施策を講ずるものとすること。(第32条関係)

十 農業資材の生産及び流通の確保と経営の安定

1 国は、農業資材の安定的な供給を確保するため、輸入に依存する農業資材及びその原料について、国内で生産できる良質な代替物への転換の推進、備蓄への支援その他必要な施策を講ずるものとすること。

2 農業経営における農業機械の購入に要する費用その他の農業資材の低減に資するための施策として、農業機械その他の農業資材の安価な供給の促進を追加すること。

3 国は、農業資材の価格の著しい変動が育成すべき農業経営に及ぼす影響を緩和するために必要な施策を講ずるものとすること。

4 国は、1~3のほか、地方公共団体が主要な農産物の種子を生産し、供給する体制を整備するために必要な施策を講ずるものとすること。(第33条関係)

第六 農村の振興に関する施策の見直し

 中山間地域等における農業者に対する所得補償の導入等

1 中山間地域等の振興の施策として、地域社会の維持に資する生活の利便性の確保を追加すること。

2 国は、中山間地域等においては、適切な農業生産活動が継続的に行われることが多面的機能を確保する上で重要な役割を果たしていることに鑑み、農業者の生活の安定を図るため、所得補償その他必要な施策を講ずるものとすること。(第35条関係)

第七 検討事項

1 政府は、地域住民がその地域の実情に応じて食料及び農業の在り方について協議し、当該地域の政策の形成に資する制度の在り方について検討を加え、その結果に基づいて必要な施策を講ずるものとすること。(附則第2条関係)

2 政府は、農作物の遺伝資源の利用の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。(附則第2条関係)