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「わざわざの働きかた」を読んで思ったこと

そのお店のことを知ったのは、妻と結婚したばかりの頃だった。

駆け出しのフードスタイリストだった妻は、趣味と実益を兼ねて色々な器や道具を集めるのが好きで、新婚で色々な道具の足りない暮らしだったから欲しいものを選んで買うという自由に溢れた日々だった。

でも僕は1人暮らし歴も10年近く、だいたいの食器類が揃っていた。おまけに独立後にアルバイトさんが自宅兼事務所で作業することも増えて、賄いを出したりしていたからお皿は5-6人ぶん揃えてあった。

だから妻は主に作家物の和食器を買い込んで、スタッキングされた無印良品の器達の隙間にねじ込むように増やしていった。

そんな中で、唯一持っていなかったものが木製のカッティングボードと木のお皿。当時の妻のフードスタイリングという仕事では、伊勢丹さんのワインカタログなんかを手がけていたので、木製のお皿やカッティングボードは需要が高かったらしい。

よく雑誌で見かけるありきたりのものは使いたくないという事なので、色々なお店を探して回ったときに見つけたのが「わざわざ」だった。


個人発の小売店の自由さとこだわり

「わざわざ」は元々はパン屋さんだ。僕ら夫婦もはじめのうちはパン屋さんが雑貨も置いているという認識で、パンと一緒に買っていた。

通販でパンを買うというのは最初は抵抗があったが、1回試してみてからその抵抗はただの杞憂だったと実感した。

でも、ある時から通販のパン屋さんという認識は逆転して、いつの間にか雑貨のセレクトショップという扱いになっていった。

ここら辺の変化の許容される緩い感じ、自由さは、やはりオーナーシップがはっきりとした個人発の小売店ならではだろう。

本の中でもその変化の経緯、なぜそうなったのかが語られている。noteではビジネスモデルの話がバズったが、思い悩みながらの行き当たりばったりでたまたまこうなりました、という事なんだろう。

ただ、店主の平田さんは思い悩むことを淡々と続けて、変化することを決断して思い切って舵を切ってきた。たくさんの失敗も綴られていて、業種は違えどこれから従業員を迎えようと画策している身としてとても参考になった。


こうした、個人発の小売店がその自由さとオーナーのセンスとこだわりを発揮した場合、ほとんどのお店は小ささとセンスをコントロールしながら細々と続いていく。だが、「わざわざ」はそのセンスを拡げて周囲や地域を巻き込む方向に舵を切った。

だからこそ色々な人がビジネスモデルとして注目しているのだろうけど、売買という人との関係性の中で育まれたこだわりが、オリジナルの商品開発をきっかけに伝播していった結果なんだろう。

そう、出発点であり最初の着火点は「こだわり」だ。


今の時代のこだわりを感じるお店たち

「わざわざの働きかた」については他の多くの人がいろいろ話しているので、今回は長くなるのでそこは割愛する。

でも、小売りがオワコン化したと言われる時代の中で、あえて小売店を始めてこだわりを発信している事には驚く。むしろ小売りというのはあくまで手段でそう見えているだけで、売っているものは別なんじゃないのかと感じる。

そう、一言でいうならば「雰囲気」を売っている。

それはお店のこだわりや美学、情報、希少性=独自商品などが一括りになった空気感だ。

突き詰めてしまえば他でも買えるもの=コモディティ化した商品であれば、安かったり、近かったり、早かったりなどの付加価値でランキングされて便利な方から買われていく。

便利さで大手に対して劣るこうした個人発の小売店が生き残っていくには、最終的には「あなたから買いたい」と「ここでしか買えない」の合わせ技になっていくんだろう。

ここら辺は自分でもお店を作ることになって悶々と悩んでいるところなのだけれど、せっかくなので参考になりそうなお店をいくつかご紹介しておこう。どれも美しく、オーナーさんのこだわりが溢れているお店だ。

こういった小さいけど輝いているお店に、新時代の小売のあり方のヒントがあるような気がしている。



Analog Life

https://analoguelife.com/ja

名古屋にあるご夫婦で営む雑貨店。セレクトの質が非常に高く、海外で展示販売なども行っている。インバウンド富裕層が日本の質の高いクラフトを求める目線は、きっとこういう目線なんだろう。

旦那さんがカナダ人の写真家ということもあり、外から見た日本の美しさや魅力が写真に溢れている。日本のモノづくりの根底にある魅力を考えさせられる。



暮らしの店 黄魚

http://www.kio55.com

代々木八幡にある個人商店。(代田橋じゃないです、間違えました)料理を盛って完成する器、をコンセプトに北欧アンティークから日本の作家物まで色々な器が揃う。アクセサリーなんかも扱うところが、店主のやりたい!という気持ちが溢れていると思う。

少量生産のハンドクラフトは置けるお店が限られるので、どこのお店で売るのかというのがブランドに直結する。そういう意味では、こうしたお店に扱ってもらえることは、作り手も売り手も買い手も三方が幸せな形なのかもしれない。



MARKUS

http://marku-s.net

吉祥寺にある雑貨店で、主に日本の民藝品を扱っている。素朴でありつつ温もりのあるセレクトで、たまに食品も扱っていてとても和む。オーナーさんは器の知識が豊富で、扱い方などを気軽に相談にのってくれる。

オリジナル商品がほぼないので、ある意味では旧来の百貨店の民藝コーナーの独立した店舗のような雰囲気。時代の流れの中で百貨店が苦戦している今、こうした専門性に特化して切り分けられたお店が、従来の中央集権的な百貨店の役割を分散して代替えしていくのかもしれない。



OUTBOUND

http://outbound.to

超有名店なので紹介するまでもないが、店主の美学に溢れているお店としては最高峰のお店の一つ。移転した姉妹店のROUNDABOUTとあわせてオススメしたい。

オーナーの小林さんの著書「あたらしい日用品」はとても示唆に富んだ道具へのまなざしに触れることができる良書。今やっているほぼ日のイベントにも出展されていたと思う。



・・・他にもたくさん紹介したいお店があるのだけれど、そろそろ時間切れ。紹介したりないお店達は、またの機会にしよう。

これらのお店には、どこか「わざわざ」にも通じる空気を感じる。

百貨店や大手SPAなどの中央集権的な小売の流れが行き詰まりを感じつつある中で、分散して多様性を持ちつつ緩やかに繋がっていく小さなお店のあり方は、物と人の関係性にあたらしい何かを築いていくように思う。


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