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日常の解像度〜ワイングラス〜

日常の解像度シリーズもパンコーヒーミル包丁と砥石、とやってきて今回で4回目。

このシリーズでお伝えしたいのは、日常生活の視点の精細さや密度をあげてみる事。そうすると、日々の暮らしがちょっとだけアップデートされる。その感覚を味わって欲しいし、共有してみたい。きっとそれはあなたの日常をちょっとだけ良いものにするから。

「God is in the details.」=神は細部に宿る、と偉大な建築家が言っているが、見落とされている細部にこそ心意気が出るんじゃないだろうか?

みんなの日常の解像度が上がれば、誰も気づかないだろう細やかな気配りやこだわりに気づく人が増えて、丁寧な仕事をしている人たちにもっと光が当たるんじゃないかと考えている。

そんなことを夢見ながら、細々と書いていこう。僕自身も書くことを通じて視点をブラッシュアップしながら。


杯は最古の器の形態

水を飲もうと思ったときに、コップがないとどうなるだろうか?

誰もがやったことあると思うけれど、両手をあわせて水をすくって飲むだろう。その形がやがて偶然の産物で杯になり、液体を飲むための器が発明された。

古くは数千年前とも言われるグラスの発明。それはやがて聖書の中の聖杯のようなシンボル的な物にもなり、トロフィーの原型になったりしながら21世紀の現在でも日常的に使われている。

そんな風に日頃当たり前に使っているグラス=コップだが、実はグラスの形状によって飲み物の味わいや香りが違うというのはご存知だろうか?


グラスの形状で飲み物の味わいが変わる

ワインを飲んでいる人にとっては常識的な話だけれど、初めて知ったときは驚いた。ワインに限らず、全ての飲み物はグラスによって味や香りの感じ方が変わるのである。

大きめのボウルで包むようにすぼまった形状は香りを溜め込み、繊細な薄さに仕上げられた飲み口はしっとりしたなめらかな口当たりを実現する。

シャンパンやスパークリングワイン用のグラスであれば、グラスの奥にわざと傷がつけられていて、その傷が柔らかな泡立ちを促している。

さらにこれを突き詰めて、ワインのブドウ品種別にワイングラスを製作したクラウス・リーデルという人物がいる。

歴史あるガラス工房の後継者であったクラウス・リーデルが、ある日ワイングラスの形状の違いでどうも顧客の反応が違うという事を観察して見抜いた。

そして彼は様々な形状のグラスを試作・開発した。今でこそワイン好きはみんな知っている事だが、歴史的にはなんとわずか50-60年前の話だ。



自然派ワインの巨匠が追い求めた理想のワイングラス

では、うちで使っているワイングラスはリーデルなのかというと、実は違う。だって何種類もグラス揃えて都度変えるなんて面倒すぎる!フードスタイリストという妻の仕事柄リーデルに限らず30脚くらいのワイングラスが棚にしまってあるが、泡以外なら赤でも白でも基本的にはラディコングラスの一択だ。

このラディコングラスというのは、イタリアの自然派ワインの巨匠スタンコ・ラディコンが、自社のワインのためにわざわざ開発したオリジナルのワイングラスだ。

1665 年創業のスロヴェニアのロガスカ社というガラスメーカーに特注して作らせたこのグラスは、一般的なワイングラスに含まれている酸化鉛などの金属の使用を最小限に抑えられている。

そう、ガラスといっても組成は様々であり、透明に見えてもその中身の分子構造は多種多様だ。

昔のアンティークガラスは石炭を燃やして作られていたのでケイ素の比率が高くなり緑色が強く出たり、クリスタルガラスでは酸化鉛を加える事で溶融温度を低くして透明度をあげているなど、ガラスと言っても色々あっておもしろい。

そして、ガラスの組成も味わいに影響するというのは、陶器のコップと金属のコップとガラスのコップで味が変わるのを体験すれば理解できる。

ラディコンは自然派ビオワインの人なのでワイングラスの作りも自然派な手吹きの一体物であり、継ぎ目がないので割れにくく強度が高い。ガラスの透明度ではリーデルに劣るものの、粘りのある物性の影響か少し当てても割れたり欠けたりが発生しにくい。

おまけにボウルの形状も万能型で、ブルゴーニュのかわいらしいピノ・ノワールから、アルザスの凛としたリースリング、南アフリカのトロピカルなシュナン・ブラン、カリフォルニアのマッチョなジンファンデルまで何でも使える。

そんなラディコングラス、お値段は1脚3500円前後とちょっと高い。でも流通量が極端に少なく、オークションなどではプレミア価格で取引されている。ワインファンを魅了してやまない名品なので、見かけたら手に入れる事をオススメしておく。



ワイングラスも手吹きもあれば、型でパーツを作って繋げている物もあり、ボウルの形状から何から本当に色々ある。ちなみに値段もピンキリで、100均でも買えるものから、最高級品は1脚で数万円という下手なワインよりも高いワイングラスも存在する。

グラスを変えるだけで味わいが変わるというのは、体験してみないとわからない。実際に何脚か揃えて同じワインを飲み比べるのが一番いいのだけれど、ワイングラスも1脚で数千円はするので揃えるのには躊躇するだろう。何より場所もとるし、割れやすいし、洗って拭いてと管理は面倒だ。

リーデルでは色々なグラスで飲み比べるセミナーなんかもやっているので、興味を持った人は参加してみてもいいと思う。(念のために言うが、ステマではない。)


日常の解像度をあげるモノとの出会いは、色々なところに転がっている。また次回、そんなモノゴトとの素敵な出会いを報告しよう。

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