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仕事を同情でとるな

先日、吉玉さんの夫である吉田さんが町田からチャリで吉祥寺のお店まで来てくれた。仕事を取りたいけれどどうしていいのかわからない、という相談でだ。

先に言ってしまうと色々とアドバイスはしたけれど、これですぐに仕事を自分で取れる体質改善ができるかは難しいだろう。

フリーランスは実績と信用で殴り合うステージなので、実績が薄いのは裸同然の装備で戦場に出るのに近い。

そして、価格を自分で値付けできるからこそ、その値付けには自信のほどが現れる。正直に言っていまの吉田さんの値付けには自信のなさが現れている。不安げな作家さんに売上を託して仕事をお願いするクライアントはあまりいないだろう。

今回のnoteは真剣に相談に乗るつもりで書くので、ぶった斬りの切れ味鋭い系です。似た境遇の方は読んでいてつらくなる可能性がありますので、先に謝っておきます。でもちゃんと読んで真剣に考えて動ける人はきっと未来は明るいです。


これが掲載された当日にご相談に乗った


自分の何がオススメなのか考えよう

吉田さんは多摩美の油絵卒だから、基礎技術も絵画のレベルも僕よりぜんぜん上手い。なのに、ご本人も自分の売りがコレなんです!というのが明確にない。

これは飲食店で「このお店のオススメって何ですか?」と聞かれた時にいいよどむようなものだ。

自分のイラストの魅力はコレだとか、こういう気持ちになって欲しいとかの狙いがあまり感じられない。そして年齢が僕よりもおそらく上なので、世代的にアナログの最終世代でデジタル表現への造詣は弱めだ。

良く言えば優しくて穏やかな線は、逆に言えば気弱で軟弱にもとられかねない。アナログ描画なのでコントラストが弱くデジタルでは存在感も薄めであり、ぶっちゃけると現代の商業表現にはあまり向いていない。

妻の吉玉サキさんのcakes連載では吉田さんがずっとヘッダー画像を描いているのに、なぜ今回の書籍化では別のイラストレーターさんを起用されたのだろうか?原作付きのイラストレーターをわざわざチェンジした理由が何か、ご本人がそこを真剣に考えないとこの先は危うい。

補足しておくと、僕はこの平凡社の編集さんの判断は間違っていないと思う。書籍の表紙はつまりアイコンなので、コントラストがあり訴求力の高い表現じゃないと読者の足を止められない。そこを意識して設計することがデザインだ。

このままいくのであれば作家枠のアーティストとして生きるならわずかながらも可能性はあるが、ビジネスパートナーとしてのデザイナーやイラストレーター枠でいくなら、商業センスを意識して鍛えてこなかったのは致命的だ。

マーケティングやUX設計まで求められるようになった最近のデザイナー職は、花形の人気ポジションゆえに常に若手や初心者が供給過剰だ。ここに今のまま挑むのは無謀だと僕は感じてしまった。

デザイン吉田という屋号も、かなりデザイン全般に自信と知識と経験がないとつけられない名前だ。日本デザインセンターに匹敵する富士山感。僕は恐ろしすぎてデザインヤマシタと名乗る度胸はない。

自分自身をデザインの代名詞的存在だとうたっているわけで、肩書きにデザイナーといれちゃう経験の浅いフリーランスがかわいく見えてくる。なぜこの屋号なんだ?


ヘッダー画像はずっと吉田さんのイラストだった


書籍では別のイラストレーターさんの表紙に



稼ぐだけなら敷居は低い

フリーランスで月10万円稼ぐというのはハードルとしてはかなり低い。個人的にはプロなら最低でも年齢×1万円は毎月稼がないとダメだと思う。

例の老後資金2000万円(厚生年金の場合だ。フリーランスの国民年金なら支給額減るので4000-5000万円はないと釣り合わない)とか貯めるなら年齢×1.5〜2万円は欲しいところだ。

月10万円なんて、なりふり構わないなら広告代理店や制作会社の下請けを1〜2件やれば余裕でクリアできるだろう。

逆に言えば、その視点がなくtoCの細い営業だけでは1件1万円を10人とらないといけない。毎月10人も新規顧客をとるのは営業慣れしてないと難しいだろう。

東京都の最低時給は2019年の現在、985円だ。つまり10万円なら100時間ほどで稼げることになる。1日フルタイム8時間労働なら12.5日。2週間でクリアだ。これを難しく感じるのはマズいと思う。

生存戦略としては売れるイラストを描く下請けかバイトで10万円稼ぎながら、好きなイラストを毎日描いて発表して、ちゃんと自分の表現の軸を見定める必要があるんじゃないかと感じた。


仕事を同情でとってはいけない

まぁ、もうやっちまったもんは仕方ないのだけれど、同情で仕事をとる作戦はあまりオススメできる戦法ではない。

色々理由はあるけれど、そもそもの依頼を受ける時点で仕事くださいとお願いしている=下手に出ているのでいきなり不利なスタートだ。金額交渉も難しいし、納期など無理を言われても飲まざるおえないだろう。

信頼の借金をしてスタートするわけで、必ずこのツケを払わされることになる。もしくはすでに何らかの代償を払いはじめているはずだ。

もちろん、たまたま仕事を出したい人とこんな仕事をしてほしいというニュアンスがぴったりマッチングしていれば良い方向に進む可能性もゼロじゃない。

とはいえ、本来ならば仕事は仕事でとるべきだ。

自分もプロとして価格と期待以上の価値を提供するのならば、相手にもプロとしてのクオリティを求めるのがフェアな関係性だと僕は思う。

つまり、プロなら結果で語ればいい。

お互いプロ同士なら、いい仕事をしあうことが相乗効果がある良い関係性なんじゃないだろうか?


・・・と、ここまで正論で書いたけれど、こういう王道バトル漫画みたいな成長戦略を誰もがとれるわけではないだろう。

今回の吉田さんの場合は多摩美の油絵卒、実務経験を少し積んだのち山小屋暮らしなどの割とアウトローな生き方をされてきたので、キャリアとしてはフェードアウトの期間が長めでめっちゃ不利だ。

ぶっちゃけると今から王道コースは勝ち目の薄い無理ゲーだろう。それほど稼ぐことに興味を持てない性格というから、なおさら不利だろう。

勝負ごとの基本は勝てるところで戦うことなので、今のままの場所で戦わずに、勝てるポジションを探すべきだ。


長くなったので最後に要約すると、商業イラストレーターとして稼ぐ道に固執しないで、チャリで町田から吉祥寺に来る脚力があるならウーバーイーツ配達員などでちゃんと生活費を稼ぎつつ、その上で好きなイラストを描いていた方がご夫婦の幸福度が高いと思う。


いや、マジでイラストレーターで食ってくって30代後半〜40代以降は一気に難易度が跳ね上がるからね。。。

マンガ描ける(ストーリー作れる)とか、イラストエッセイ描ける(文章がちゃんと書ける)とか、+αができないと人並みに稼ぐだけでも難しい。家族養うならさらに厳しいだろう。

おまけに発注元の製作会社さんやディレクター職だってどんどん加齢と共に更新されていくし、世代交代したら声がかからなくなるとか普通にあるから。

去年もらえた仕事が今年はこないとか当たり前にある世界なので、常に仕事を取り続けられるガッツがないとしんどいよ。

今回みたいに頭下げて仕事とる作戦は連発できないから、こういう手段じゃなくてイラストにこだわらずにちゃんと稼ぐ方法を考えて、ご夫婦で幸せになって欲しいなぁとおせっかいながら思うのです。おしまい。


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