デザイン業界って言っても広告グラフィックから本とかのエディトリアル系にイラストレーション、 WEBデザイン、建築にインテリアにディスプレイにファッション、プロダクトもマスな車や家電から文具や食器とかまで本当に幅広い。今ならそこにUXとかフードとかコンセプトデザイナーとかいうのまである。

で、よく「なんで色々あるのにインテリアだったの？」って聞かれるのだけれど、必然的に興味の流れでこうなっただけで、今でもロゴとかプロダクトをやる事もあります。黎明期のWEBも少しかじったし、写真もちょっとした賞をもらえる位の半端さには磨いてある。

一時期、それこそ20代の若い頃は僕は勇者になりたかった。

RPGでいう所の華型。剣を振っても強いし、回復魔法も補助魔法も攻撃魔法も使える。おまけに専用装備や専用の技や魔法まである。

でも、ある時にふと気づいちゃった。

勇者だって1ターンに動けるのは1回だという事に。

僕らはみんな1日は24時間で、そこは完璧に平等。どれだけスキルを持っていても、そのスキルを振るえる時間がなければ活躍できない。

全部できるオールラウンダーの直面する時間の壁

僕は学生時代、とにかく1日も早くデザイナーとしてモノになる為に、即戦力になれるスキルでは独学を積んでいた。図面はもちろん模型製作に3DCGパース、撮影の為のカメラの知識にWEB系の知識、それが役立ちそうならどんな知識や技術もインプットしていった。

もちろん、そんな便利な若手はどこにいっても欲しがられるので色々とかわいがってもらったし、その点では最初にオールラウンダーとして色々な技を磨いたのは後悔はしていない。

でも、独立して仕事をするようになって、最初は食えるか食えないかのギリギリの仕事量だから一人で全部できていたけど、少しずつ仕事が増えだしてついにパンクした。

時間さえあればできるのに。。。

そう思いながら、出しても許せるギリギリの精度のアウトプットを出す。もちろん自分では満足できていない。

この状態が良くないのはわかっていて、でも人を雇って増やすにはお金がたりない。ギリギリで回すジリ貧の消耗戦。自分が体調壊して倒れたら全ての仕事が止まって、たくさんの人を巻き込んで迷惑をかけてしまう。

そんな自己犠牲的な働き方が良いはずなくて、自分の体が壊れるか、心が壊れるか、仕事でデカいミスして信頼関係が壊れるか、いずれにしても待っているのは破滅だろう。そんなの緩やかな自殺と変わらない。

作戦はいつだって「いのちだいじに」

独立直後、結婚する前は力技の働き方でもよかった。ギリギリまで突っ走って働いて、終わったらぶっ倒れる。そういう無茶でしか出せないクオリティがあるのも知っている。20代の頃の作戦は「ガンガンいこうぜ」だった。

でも、結婚して子供が生まれて意識が変わった。ガンガンいった挙句に討ち死にしたら、残された家族はどうすんだ？

そこらへんから、無茶な仕事はなるべく断るようになった。仕事を請ける際の単価もちゃんと逆算して適正な値段を出すようにした。徹夜もメシ抜きもなるべくやめた。（楽しそうな仕事は予算無視で請ける事もあるけれども）

今のヤマシタ家の作戦はいつだって「いのちだいじに」だ。

もちろん作戦的には守り重視なので昔のキレキレな自分が見たら「ひよりやがってこのオッサンが」とか言いそうだが、「ガンガンいこうぜ」で勝つよりも「いのちだいじに」で勝つほうが時間もかかるし大変なんだよ。

スペシャリストになる為の近道なんてない

まぁ、長い人生だし価値観なんて数年ごとにアップデートされて当然。こんなこと書いておいて数年後には「仕事は命がけでやれ！」とか言ってるかもしれない。

暮らし方も日々どんどん変わっていて、現在は子供の送り迎えとか料理や洗濯や掃除を分担してやったりもしている。なんか主夫みたいな暮らしだ。おやつの時間とかもあるし、のんびりコーヒーを豆から挽いて淹れたりしている。

もちろん、その為には仕事の効率化や高単価で請けられるスキルあってのモノだし、そのスキルを得る為にがむしゃらに下積みした現実もあるから、ずっと守ってばかりじゃダメだとも思う。

人間は負荷があってこそ成長できるから、適度な負荷は必要だ。

後輩たちにはとにかく替えの効かないスペシャリストになる事を勧めているけれど、スペシャリストのなり方にセオリーなんてないし、ましてや楽してなれる近道なんてない。結果的に楽だった、ラッキーだったと感じるかどうかは人それぞれだけど。

とはいえ、うちの場合はとうぶんは作戦は「いのちだいじに」でいこうと思う。

そうだ、今年こそ人間ドッグへ行かねばならない。