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カッコイイという機能

僕の職業は空間デザイナーで、デザインをして図面を引いて施工の手配をしてお店を形にするのがお仕事です。商業空間に特化してキャリアを積んできて、中でも飲食店や食物販店を得意としています。

でも、この仕事を長年していると疑問を持つこともあるのです。

こだわった空間を作れば作るほど、それにはお金が必要になる。出店時の初期投資は何年もかけて減価償却していくわけで、要するに飲食店ならお客さんが食事をする料金に空間のお金も乗っかって来る。

1000万円で作ったお店と、2000万円で作ったお店では、もちろん料理のお値段は変わってきます。たとえ、同じ材料・同じシェフ・同じ立地で提供するとしても。


極端な話をすれば、ボロボロの居抜きのまんま使ったお店で出す500円のサービスランチと、こだわりまくったデザインのお店の1200円のランチセットは食材原価は変わらなかったりするんです。

では、その差額の700円を払ってもらえる空間とは何なのか?

自分の仕事は、それほどの価値を提供できているのだろうか?

みばえを整えて、オシャレで写真ばえして見栄をはれる空間を作ることが、本当に必要な事なのだろうか?

売上のため?競合他社より目立って選んでもらうため?

空間デザインとは、オシャレで選んでもらうための看板としての機能だけなのか?それって、本質的じゃない表面のデコレーションなんじゃないのか?

・・・そんな疑問を、頭の片隅にずっと持っていました。


食事中に出る幸せホルモン

空間デザインで売れるという事があるとして、それって話題性や見た目だけなのかもしれない。そんな風に自分の仕事の価値とは何なのか思い悩んでいた時に、とある脳科学者の方の研究を目にしました。

それは、食べ物を口に入れたときに人間の脳の中で何が起きているかの話です。

まず、美味しいものを食べると脳内でβ-エンドルフィンという神経伝達物質が生成されるそうです。

これは幸せホルモンとも呼ばれるもので、受傷時の痛みを和らげたりする効果もあり、癌患者の死の間際の激痛を和らげたりする麻薬性の鎮痛薬モルヒネと同じような作用をします。

食事中のこのβ-エンドルフィンの放出パターンはいくつかあり...

(A)美味しい食べ物が口内に入ったとき
(B)飲み込んで胃に入って消化されるとき

このうち(B)のパターンの時、砂糖と人工甘味料だった場合、砂糖の方がβ-エンドルフィンの放出量は多いとのこと。体は、より体にとって嬉しいものを喜んでいるとも言えます。(=健康的とはちょっと違うけれど)

また、誰と食べるか、どんな空間や環境で食べるか、自分の体調や精神面がどうか、そうした要素でもこの幸せホルモンの量は大きく変わるそうです。

つまり、空間デザインは食材の味を直接的に美味しくする事はできなくても、味わう環境を整える事で感じられる幸せの総量を増やす事ができるのです。


カッコイイという機能

この研究を見てから、自分の中での悩みが1つ解決しました。

今までは表層的なものとして捉えがちだった「カッコイイ」ということは、実はとても重要な機能なのだ、と。

デザインを仕事にして10年以上立つと、小手先のそれっぽさの再現は朝飯前でできるようになってしまいます。

その手癖に溺れれば、しばらくメシは食えるかもしれないけど、本質的な豊かさの創造からは離れてしまう...

店舗デザインにおいて、空間が担う役割の重要性や、その効果について科学的なエビデンスを目にしたことは、この仕事に関わり、より質の高い仕事をしようという気持ちを大きく鼓舞してくれました。

また、同時に「カッコイイ」という機能を最大限に高めるためのブランディングの必要性や、経営へのコミットの必要性も強く感じたのです。



絶対解が存在せず、個別の最適解を求め続けるデザインという仕事において、自分なりの理想形やゴールを明確に持てるかどうかは仕事のクオリティに直結します。

「カッコイイとは機能である」という1つの答えを得たことで、迷いがひとつ消えました。

デザイナーの自己満足な世界観の構築ではなく、確固たる理想形としての空間デザイン。中堅と呼ばれるキャリアになってなおそんな道が少し見えてきて、とてもワクワクしています。

異分野の研究を見るのはまなびが深いです。
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